第57話 お座興の実地訓練
ごきげんいかがですか?
まあ突如としてわたしの身を波状攻撃の嵐、それともあれらは、とても、せっかちな超大型台風のマーチかパレードだったのですかね? 自己判断は不可能ですけれども。それはともかく、表面上は風雨なくなり心も多少は落ち着いて来ました。しかし実のところ、問題は一つとして解決されておらず、全てが迷宮入りしそうな気配です。地方公務員などという人種は機動力もなく、思考能力もねこなみなのですかね。お口の歯垢能力はあったりして、口臭の面前で罵倒してやりましょうか。もちろん誤字ではないですよ。一応んですね、意図的なものです。我がちっぽけなプライドを賭けまして極力誤字脱字その他諸々のミスを抑え込む気だけはあります。どうでしょうか、劇薬として、十津川警部あたりを招聘出来ないんでしょうか? ああ、著作権の問題ですよね。しかし潜在的定期購読者なんて棒線グラフにしたら、どこにも突出部分が出来て来ないほどのマイノリティーですよ。でもですね、潜在的定期購読者の皆さんに真摯な気持ちで、この言葉をお贈りします。「お目が高い!」。いいえ、決してオメガトライブではないです。
まあとにかく特に深く考えることなく、多目的ゾーンをリフレッシュ室などというアレに変えてですね、ぼんやりしてました。しかしあれを作ったノースコリアの一般人はリラックスできているのでしょうか。アレと書いているのはアレの名前が出て来ないためです。歳はとりたくないものですね。しかし、こういうユルい行為はとても愚かなことでした。あまりにも危機感レベルを低くしすぎたために、あいつの仕組んだ不条理に気がつかなかったのです。結局、ややこしくて面倒なお話になりました。
まずもって突然、玄関の方から「坊ちゃん、お客様がお見えですよ。いかがいたしますか?」という年配の女性の声が聞こえました。まあ、これは空耳か幻聴に過ぎないですよね。このウチにはわたしし現実に存在しないのですから。まあ、幽霊の可能性も多少はありますよ。この部屋が心理的瑕疵物件でないと言い切れる確たる証拠はありませんので。不動産屋がしらばっくれている可能性も大いにあります。ところが、部屋の扉が静かに開き、かなり気品の高いと見受けられる年配の女性が本当に入って来てしまったのです。「うわっ!」わたしはびっくりして少しだけ飛び上がりました。おおデブだから仕方がないです。心拍数レッドゾーン突入です。すると、その年配の女性は「坊ちゃん、みだりに大声をあげると近隣の下々の耳に差し障りが出ますよ」というどこの貴族のでですかという口調で話して来ました。下々ですか。「しもしも」ならば、まだ少しは笑う余地をリザーブ出来たのですが。しかし、最も重要な問題はそのようなことではありません。簡潔に核心をつくことを女性にお尋ねしてみましょう。「失礼ですが、あなたはどちら様ですか? わたしはあなたとおそらくは初対面ですので坊ちゃん呼ばわりされる謂れはありません。夏目漱石先生でもあるまいに。もしあれなら、本当は嫌ですけど人助けだからしかたがないので、わたしから、ご家族に連絡をとりましょうか?」問題は認知症の進行度ですね。自宅、もしくは近親者の電話番号の記憶がわかればいいですが、手ぶらなので手帳類の期待は出来ません。そうでないとお巡りさんを至急呼ばなくてはいけませんが、なんだか急に、いろいろと面倒くさいなあ。などと考えていたところへ。「ほほほ。坊ちゃんは相変わらずとぼけた真似が上手でございますね。しかしこの四十年来、坊ちゃんのお側に仕えさせていただき、お世話かかりの大役上様より仰せつけられて以来この職務を一所懸命に努めさせて頂いた、不肖、原節子の目は坊ちゃんの本当の心持ちなど、たやすく見抜けますよ。それにしても、坊ちゃんもいい大人なのだから、いい加減に他人を悪戯に翻弄させるような、たちの悪い虚言、妄言、駄法螺、駄洒落等は極力お慎みくださいね。このままでは多くの人心が坊ちゃんから雪崩をうつように離れていくことは自明の理です。いずれ都会で孤立しますよ。原節子は間もなく、天に召されますからご面倒は見られません」わたしの心を荒っぽく揺さぶる混乱度は実にわたし史上稀に見る強さでした。なぜならば、いや、まずそのお名前からですよ。日本映画史上最高の名女優と一言一句、同じではありませんか、しかし、年配の女性の年齢を考えるとご両親が大女優のお名前をパクれた可能性はごく低いのです。あとは本人が単に偽名を騙っているということですけれども、人相見が得意なわたしからしてみると、この女性はとても嘘をつけるタイプではないのです。さらに恐ろしいのは、わたしのとても面倒くさくてお取り扱い注意なために日ごろは鋼鉄の鎧で隠している、わたしの実の心の内の図星を原節子さんが見事に射抜き、ほぼ完璧かつ簡潔に真実を言い当てられたということです。どうも、あちらの方がかなりの上手のようです。完敗いま僕は人生の大きな岐路に立ち……。負けと決まれば素早く引くのが戦さの常道、とりあえず原節子さんのことは、置いといて、随分とお待たせしている来客応対に専心しましょう。そのうち難敵、原節子さん攻略法がポンと脳内に発生するかもしれません。グッドアイデア誕生の瞬間など割合とあっさりしたものです。「節子さん、お客様をお待たせし過ぎていて、少々礼を失してはいませんか。主人の根性を叩き直す前に、遠来の客を遇することが重要ではありませんかね」わたしは、もはや原節子さんが本当に四十年来のお付きのものであると脳内トリックをかけて、わたしの本業に徹することにしました。えっ、わたしの本業をお尋ねですか? 何をいまさらですよ。わたしはこの作品の主人公格を演じきる大スター俳優というような感じですよ。「はっ、これは迂闊なことをしでかしました。ご指摘ありがとうございます、坊ちゃん。そういう風に振る舞えば自然と貫禄が出て来ますよ。ところで、お客様は如何様に遇されます? こちらへお通ししますか、玄関口で応対されますか、蹴飛ばして追い返しますか?」うん? なんかおかしいですね。「ねえ、節子さん。ご来客の姓名、職業、来訪の理由、風態などの判断材料もなしに、なんの遇しかたが決められますか? よくさあ、そも目で人定をしっかり見定めて来なさいよ。超のつくベテランの域に達していながら早合点だなあ。まだまだですね。すぐに見ていらっしゃい。ハリー・アップ!」ちょっとした隙をついて、軽くジャブを差し上げてみましたよ。こうやって少しずつ、相手の心のスタミナを奪っていくという長期戦対策用の言葉の武具も日頃から、用意怠りなくしていたら、上手に相手を冥土にお送りすることが、出来るというものです。
さて、たいへんに心苦しいのですが、超疲労のため、一旦長めの休息を取らせていただき、リフレッシュしたのちに、次話にてこのほとんど笑うところのないコメディーを再開させます。
では皆さんも安息のひと時をゆるりゆるりとおくつろぎください。では。
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