第30話 また談話室にて

 ごきげんいかがですか?


 まあ、なんと言いましょうか。静寂なる談話室にて独り言する独居老人ただ己の影を見るという心境です。心の揺らぎは多少落ち着いて来ましたので、躁転の危機は脱したのではないかなとは思いますが、鬱病と違い、躁病は自己判断がたいへんに難しいと言うか不可能ですので、第三者の判断が必要です。幸い、今度の火曜日が受診日なので、まあなんとか持ちこたえられればなと思います。しかし、現在服用中の炭酸リチウム以外に抗躁薬はあるのでしょうか? もう、発症して七年経ち、この手の薬剤についての知識は深まっていると思っていたのですが、どうもわたしは気分を持ち上げる薬や抗不安薬の方ばかりを見ていて、躁病方面を軽視していたかもしれません。内心躁病は二度と来ないと思っていました。こちらの方が格段に危険であるのに迂闊でした。


 わたしは読書の基本ポリシーとして「小説、日本人作家、広義のミステリー、文庫本」以外は読まないと決め、十年以上そのポリシーを守って来ました。つまり、わたしにとって読書とは楽しみの時間であり、単なる趣味以上の域には出ないものであるということです。わたしやその仲間たちが引き継いで書いている『読書日記』においても、簡単な書誌情報と感想程度しか書かないのは、それ以上にまで踏み込むと「読書感想文」になってしまい、かなりの苦痛が生じるのです。わたしは学生の頃から作文は得意でしたが、読書感想文が大嫌いでした。どうして「楽しかった。以上」ではいけないのでしょうね。所詮は他人の書いた物語を脳みその中でわたしなりの解釈をするだけなので、それが正解かどうかなんてわかりませんし、その本を読んでもいない教師が他人であるわたしの書いた文章に点数という尺度をつけるなど無意味だと思います。教師のいい加減さは中三のとき「ロマン・ロランの『ジャン・クリストフ』全四冊、たぶん新潮文庫版を読んで感想文を書け」と命じられたのですが、あまりにも難解かつ抽象的すぎて、ギブアップしてしまい、巻末の解説だけ読んで感想文を書いたら、ものすごい高評価を受けたという実体験でわかってしまいました。あの教師は『ジャン・クリストフ』など絶対読んでないと思います。これ以降、わたしは重度の外文アレルギーになってしまい、ミステリーファンなのにエラリー・クイーンすら読んでいません。だいたい、日常生活にキリスト教の考えが浸透していない日本人にはあちらの国では常識的な事柄であっても全くわかりませんし『不思議の国のアリス』シリーズや『ユリシーズ』など、英語の言葉遊びやジョークをそのまま日本語に訳すことは出来ませんから、原作の持つ本当の面白さなどこれっぽっちもわからないのです。読むならネイティブなイングリッシュをマスターして原文を読めばいいのです。わたしはそんな手間のかかることはしません。日本人が日本語で書いた愉快な本がたくさんあるのですから。


 いけない。また本当に書きたい事柄を忘れて脇道でかくれんぼをしていました。ごめんなさい。わたしは勉強家になってから、少しずつ従来のポリシーから外れた書籍を買い始めました。自称「勉強本」です。いまのところ、講談社現代新書、ちくま文庫、前から持っている文春文庫、海音寺潮五郎先生の日本史人物の評伝くらいですが、昨日ネットニュースでたいへんに興味深い学術書を見つけてしまい、価格も高いしページ数も多いのでかなり悩みましたが、チャレンジ精神で注文しちゃいました。これらはきちんと読めたらご紹介いたします。


 この前、ちらっと書いた『日本国憲法を御神体にしたわたしだけの小さな神社建立計画』が進んでしまっています。まず御神体となる『日本国憲法』ですが、ネットで探すと書籍はみな、解説等がついていて、適切ではありません。日本国政府はなぜ、日本国民全員に日本国憲法全文を一人一部ずつ配布しないのでしょうか? ステルス戦闘機を十機ほど購入キャンセルすれば経費は余裕で捻出出来ると思うのですが。ただ、あのクレイジーな金髪カツラの大工の棟梁ではなくて大統領は怒るでしょうね。怒髪天を抜け金髪もいっぱい抜けるということですかね。せいぜい塩分の濃い食べ物を事前にたくさん食べさて、こめかみの血管が破裂するようにしましょう。


 さて、しばらくネット検索を続けていると、どうやら、小学館からわたしの望みに近いものが発行されているようです。しかも、元の嫁の勤める書店に在庫があるようです。六百円にも満たない安価な御神体ですが、大切なのは中身です。とりあえず暫定御神体決定です。全く関係ないのですが、どこかにこじんまりとした平将門公のお人形はないでしょうか? 人形の久月やら顔が命の吉徳あたりにはあるのですかね。あれば、即、御神体決定なのですが……

 さて、好事魔多しとはよく言ったもので、ここで問題が発生します。ネットで素敵な鳥居と賽銭箱のセット約四千円を見つけてしまったのですが、これがAmazonの取り扱いなのです。わたしは七年前に躁病の症状の典型例である浪費を相当やってしまい、Amazonに数百万の大もうけをさせてしまったのです。なのでAmazonには金輪際手をつけないと決めているので、これは揺るぎない決意なのです……しかし、この手のものが街で気軽に見つかるわけもなく、ネット通販でしか手に入れられませんし……熟考しましたが結論が出ず、とりあえず保留しました。自分で作れればどうこうないのですが、わたしは工作が全くダメで、ハサミで紙をまっすぐ切れませんし、プラモデルなど完成させたことがありません。

 まあ、多くの人から見たら「このキチガイ、バカなことやってるな」と思われるでしょうね。もちろんわたしもわかっています。でもですね、宗教そのものがある意味馬鹿げたものではないでしょうか? 例えばイスラム教のラマダンなど、どう考えても体に悪いですし、山伏らの荒行、滝行。仏教の護摩行。これは不動明王主催でしたね。みんな心身を苦しめて鍛えている。ある意味トップアスリートのハードワーク、ブラック企業の長時間労働……は成就しないですね。すぐやめましょう。

 わたしはわたしの平穏を守るためのバリアを作っているのかもしれません。日本国憲法が御神体なんてナンセンスと思う方も多いと思いますが、日本古来の神は八百万の神であり、ぶっちゃけていえばなんでもいいのですよ。路傍の石でも、便所の紙でもね。

「鰯の頭も信心から」です。

 ではごきげんよう。また勉強して来ます。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る