第11話 特別講座の続き

 ごきげんいかがですか?


 わたしは文章の上では饒舌に感じられると思われますが、現実には……やっぱり饒舌で、養母に「口から先に生まれた男」とよく言われました。実際は養母の方が超絶技巧に饒舌だったのですが……


 なので、二つほど口を滑らします。

 まずは「ハマのメリーさん」の書簡が発見された件です。わたしも若い頃、横浜駅や関内でお姿を拝見したことがあります。その後、お姿が消え、消息不明と聞かされていたのですが、晩年は中国地方の老人ホームにいらしたと知り、たいへんびっくりしました。さらに文面もしっかりしているようなので、世情で噂されていたように「気が違っていた」わけではなかったのですね。ではなぜ、ご高齢になっても白塗りメークで街娼をやり続けたのでしょう? これは、長年舞台でメリーさんを演じている、女優五大路子に聞くしかありませんね。ちなみに五大路子・大和田伸也夫妻の豪邸は菊名駅と新横浜の中間くらいにあって、子供の頃、近所に住んでいたわたしは、場所をよく知っています。あまりに豪邸なので道路からは「大和田」と、そっけなく書かれた小さなプレートが無造作に木にくくりつけられていることしか確認できません。この土地は大和田伸也のものではなく、大地主の娘、五大路子の家の土地なのです。うらやましいですね、大和田伸也。


 二つ目の口減らし、ではなくて口封じ。

 例の件で、幻冬舎の見城徹、謝罪はしたようですが、津原泰水さんへの謝罪がなくて、さらにネットは炎上しているようですね。作家が幻冬舎離れを検討しているようです。ザマアミロ。百田尚樹のクソ本を拡販しようという精神がさもしい。これは自民党への擦り寄りです。あの男は硬派な右翼のように見えて、実は定見のない、ただ騒がしいだけの、かませ犬なのです。幻冬舎は幻滅舎に社名を変更するべきでありましょう。


 では、本題に入ります。

 最初に配属されたのは前回述べた通り、横浜駅西口トーヨー店でした。今はジョイナスになってしまった、ダイヤモンド地下街店とは違い、そこから文庫売り場、横浜銀行のCD機コーナーを抜けた奥地にある店でした。わたしはそこで学習参考書の売り場担当になりました。これはわたしにとって、とても不満な配属でした。なぜなら、わたしは文芸書の担当になりたかったのです。それに、自慢に聞こえてしまうかもしれませんが、学生時代にわたしは学習参考書など、買ったことも使ったこともありませんでした。さらに「教科書ガイド」などという、教科書の答えが書いてあるインチキ本の存在も知りませんでした。わたしにとって学習参考書など、本ではなかったのです。わたしは本屋さんになりたかったのです。


 ああ、今回は失敗しない人生の話を失敗したわたしが話すという趣旨でした。職場において、一番大切なのは人間関係です。それさえ良好に保てれば、仕事が出来なくても、バカでも大丈夫なように世の中はなっています。わたしには野生の勘が備わっていましたので、職場、わたしの場合は学習参考書売り場の上司や諸先輩方の中にいるキーパーソン。つまり、実質的な権力者を見つけ、その人に好かれる、もしくは嫌われない行動をすることには長けていました。

 上司、管理職の人間に、実質的権力があることはほとんどありません。キーパーソンになりやすい人間は「気が強くて押しが強く、なんでも口に出して発言する女性」このパターンが一番多いのです。地位は社員もアルバイトも関係ありません。定期的に人事異動する社員より古参のアルバイトの方が売り場を熟知しているので強いくらいです。男性は全然ダメですね。わたしの一年先輩の男性社員は女性陣にバカにされていました。書店は特に女性の比率が高い職種ですので、ますます女性権力者の傾向が強くなります。

 わたしが配属された時の学習参考書売り場には、バブルの名残でたくさんの社員、アルバイトの女性がいました。組織図上のリーダーはベテランの女性社員でしたが彼女は「イッツ・ア・スモールワールド」の中で踊っているお人形のような小さいおばさんで、実質的権力は0に近かったです。先年、定年直後に亡くなられたそうで、一生独身。これから第二の人生を楽しめたはずなのに、とてもかわいそうでした。


 学習参考書売り場の実質的権力者は、なんとも恐ろしいことに四人いて、すべて異形の女性たちでした。縦横巨大な女性、恐ろしく気が強くて凶暴な女性、申し訳ない言い方ですがロンパリの怪物、わたしよりも背の高い三白眼の女性。

 最強かつ最難関はロンパリの怪物で、最初、どこを見ているかわからないので、何か喋っていても知らん顔してたら「なに無視してんのよ!」って鉄拳が飛んで来ました。いいえ、パラパラ漫画は描いていません。

 とにかく、異形の四人を攻略することだけを考えました。母性本能をくすぐり、時には道化になり、またある時にはきっちり仕事をするという、わたしには苦行に近い行為までして、四人の怪物の信頼を獲得しました。割と年上の女性には、わたしってウケがいいのです。でも、あとで知れたのですが、三白眼の長身は先輩でしたが年下でした。これが、とんでもないツンデレで、後々、わたしは好きになりかけるところまで行きました。そこまでする必要はなかったですね。まあ、一度信頼されれば、あとは楽でしたよ。これも一つの能力なのですかね?

 長くなりましたのでやめます。あと二回くらいに収めたいです。

 ではごきげんよう。また勉強して来ます。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る