第10話 特別講座『失敗したわたしが人生を語っちゃう』
ごきげんいかがですか?
今日、内科で血液検査のために採血をしてもらったんですけど、その病院で唯一明るくて、わたしがとても気に入っている看護師さんに「一月に採血してもらった時、わたしの前の患者さんの採血に失敗したって落ち込んでましたよね」なんて余計なことを言ってしまい、どうも看護師さんを予想外に動揺させてしまったようで、軽く失敗したみたいなんです。なので、わたしの右腕の関節の内側にはいつもはつかない赤い斑点が浮かんでいます。言葉は慎重に選ばないとまずいですね。悪いことをしました。
まずいといえば、なんといって史上最高、全米が呆れ返ったというのがわたしの人生そのものです。実際のところ、わたしが予想していた自分の進むべきコースと現在地ではエベレストの頂上と日本海溝の最深部ほどの違いがあります。今回はそのうちの書店員人生をフォーカスして失敗の要因を探ってみたいと思います。まだお若い方がいらしたら、ぜひ反面教師としていただきたいと思います。
わたしは大学卒業後、神奈川県の老舗書店である、バカ書店という会社に就職しました。たまたま、バブルの最終年度に引っかかり、藤沢店社員面接、藤沢店店長面接、役員面接と試験なし、三回の面接だけで、入社が内定しました。実は本当にわたしがなりたかったのは母校の職員で、出来れば司書の資格を活かして、大学図書館で働きたかったのですが、最終二人の面接まで進みながら、うっかり「バカ書店の内定を貰っています」とバカ正直に口を滑らせたために不合格となりました。たった一言で人生は劇的に変わってしまいます。しかし、バカって文字ばかりですね。でも、みんなバカですので仕方ないのです。ご辛抱ください。
バカ書店においては、入社決定後に試験が行われましたが、国語と数学の極めて簡単な問題でしたので、わたしは普通に解きました。そうしたら、後日、バカ書店の人事部長からわたしに電話があり「お話があるので東戸塚の営業本部ビルに来てください」と言われ、ビクビクしながら訪れました。緊張した気持ちから、横須賀線の本数の少なさにイラつきました。そうそう、最初の面接の時、リクルートスーツの女性がわたしの進もうと思っていた道をたくさん歩いていたので、これはお仲間だろうから、ついていけばいいやとビルまで入ったら、そこは全然関係のない、日本生命のビルでした。女性陣はセールスレディーさんだったのです。バカ書店のビルは道の反対側でした。今も昔も、わたしは重症の方向音痴です。いいえ、音痴ではありません。天使の歌声が出ます。桜井和寿が絶句していましたよ。
人事部長に何を言われるかとドキドキしていたところ「きみが今回の筆記試験の成績トップでした。なので、入社式の時、社長に挨拶文を読んで下さい。文章の例、過去の先輩の書いたものを差し上げるので、それを参考にして、挨拶文を自分で作成し、持って来てください。首席の人は代々重役になっていますよ」と言われました。わたしが思ったことは「ああ、面倒くさい」と「あの程度の試験でわたしが首席なのか。すると、他の連中は相当なバカだな」ということです。あとで聞くと、当時の副社長が「一芸入社」的な選考をしたようで、わたしの同期はみんな、本当にバカだったのです。さらにバカなのはその時の人事部長で、わたしは重役どころか、この孤雲庵に引きこもる精神病患者になっています。人を見る目がない人が人事部長だったということです。わたしにもバカ書店にも崩壊の予兆ははじめから見えていたのです。
わたしは小心者なので、すぐ緊張します。緊張すると体全体が震えて制御出来ません。社長の前で、さらには大勢の役員や、同期の人々が見つめる状況で、緊張しないはずがありません。手が震えて、用紙に書かれた文章を読み間違えたら、恥ずかしさのあまり、わたしは切腹してしまうかもしれません。懐刀はいつも心に用意しています。そこで、実母に頼んで上半身にさらしをミイラのようにガチガチに縛ってもらい、清水一家の出入りのように、飲めない日本酒をぐいっと飲み干して、気を大きくして出社しました。つまりは、入社式にわたしは飲酒出社したのです。そのおかげで、とりあえず大役を勤め上げることができました。その時、わたしが書いた挨拶文は、良くも悪くも印象深かったようで、同期のやつらによくからかわれました。だって、例文として渡された文章なんて、一切無視して、どデカイスケールの大風呂敷を敷いたんですもの。
わたしは、バカ書店で横浜駅西口トーヨー店(現エキニア店)、たまプラーザ店(現在のたまプラーザテラス店ではなく、東急SCに入っていました)、戸塚店(これまた現在の戸塚地区に点在する各店と違い、マルイの隣のビルにありました)、北里大学売店(白金台ではなく相模原の北里大学病院の敷地内にありました。今は当時と場所が違うようです)という、大型店から超小型店まで様々なタイプの店を経験しました。
ああ、とても一回では終わりません。すみませんが、あと数回、お話を続けさせてください。ちょっと何回になるかはわかりません。申し訳ございません。
ではごきげんよう。また勉強して来ます。
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