第4話 喫煙考

 ごきげんいかがですか?


 わたしが『孤雲庵』を私称している木造アパートは駅チカな割には家賃が若干ですがお安く感じます。なのに、わたしの上の階は去年の七月に、いかにも体育会系のゴツいクソガキが突如、音もなく消えて以来、誰も入居しません。わたしは妙齢な美女の入室を心よりお待ちしております。

 思えば、入居の際にオーナーさんから異常なほどの厚遇を受けました。わたしはこの部屋をキープした後、なにも人生行路が決まらず、転居がなかなか出来ませんでした。なのに、キープ解除を一ヶ月も待ってくれると言ってくれました。さらに不動産屋提携の保険会社の審査に落ちましたが、保証人を二人立てればいいとまで言ってくれました。そのうえ、不動産屋はわたしの養父が高齢者なので他のものを立てろと言ったのにオーナーさんは養父でいいと言ってくれました。オーナーさんは別に養父のご贔屓さんではありません。なのに、ここに入居出来ました。感謝です。

 以上、虚実織り交ぜてお送りしました。


 でもね。


 何かが変だなあと虫の知らせがしました。そしたらねえ。この先は皆さんご存知ですよね。では書きません。


 ここに入居するときの契約条項に「室内で喫煙しないこと」とあったんです。こういうのは初めてのことなんで不思議に思いました。わたしは現在、非喫煙者なので問題はないのですが、喫煙者が入居したらどうするんでしょうね。路上喫煙なんかされたら、オーナーさんはいいけれど、近隣の皆さんに迷惑がかかります。


 近くで家の新築工事をしているんですが、路上付近で休憩している大工さんたちは缶コーヒーを飲むばかりで誰一人、喫煙していません。職人さんが誰も喫煙しないなんて、おかしくないですか? それとも、わたしの偏見でしょうか?

 思うに親方か工務店の社長かはわかりませんが、上役に喫煙を禁止されていて我慢しているのではないでしょうか? そんなところでストレスを溜めて、ミスや重大な事故など起こさなければいいのにと心配になります。

 たぶん、近隣への配慮。もしくはクレームが怖いのだと思いますが、それならば、煙や臭いをカットできる簡易喫煙所を作ればいいと思います。煙草が似合うのは職人さんですよ。(個人の感想です)


 そもそも、なんで煙草を吸ってはいけないのでしょうか? 法律では、二十歳以上の人間の喫煙は禁止されていません。それに煙草の価格の半分以上は税金です。喫煙者イコール納税者なのです。税金というのは原則的には払った人のために使うものですが、煙草の税金は絶対に他のことに使われています。これは間尺にあいません。


 一方で、煙草が周りの人の迷惑になり、受動喫煙などは肺がんなどの疾患にかかるリスクが高まります。なので、一人でも近くに非喫煙者がいたら喫煙は控えるのがマナーだと思います。ではどこで吸いましょう? 自宅で吸うのが一番ですよね。でも、わたしの部屋は禁煙ですよ。なので、不思議に思ったのです。


 昭和のプロ野球選手はベンチに帰ると皆、裏で喫煙していました。おそらく、ミスターや王さんも平気な顔で喫煙していたでしょう。誰も罪悪感など持っていません。それが普通だったのです。大人の男は喫煙して一丁前だったのでしょう。

 それが、今やベイスターズは禁煙しないとトレードになったり、背番号を大きいものにされたり、最悪、戦力外通告されます。

 また、星野リゾートを始め、多くの企業が喫煙者を雇用しません。


 わたしは思うのです。別に喫煙を推奨する気はありませんが、なんの法律違反もしていない人を犯罪者のように扱うのはおかしいです。

 ならば、法律で喫煙を禁止すればいい。それをしないのは有権者でもある喫煙者を刺激したくないからと、自分たちが喫煙者だからでしょう。国会議事堂が全面禁煙になったとは聞いていません。

 ならば、公共の喫煙所を全国津々浦々に作りなさいと言いたいです。結局は国の政府の横着、怠慢なのです。


 養父の師匠である九代目萬願亭苦楽は、いつも『エコー』というオレンジ色の包装紙に入った煙草を呑んでいました。粋でしたねえ。


 無煙無臭の煙草が早く出来るといいですね。

 ではごきげんよう。また勉強して来ます。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る