第3話 日本史のフィクサー

 ごきげんいかがですか?


 京マチ子さんが亡くなりました。わたしが彼女を最後に観たのは、元大河ドラマ史上最低視聴率だった『花の乱』で、将軍足利義政の母親役を演じられていた時でしょうかね。正直、彼女のこと、よく知らなかったのですが、訃報に際してのメディアの情報を見聞きすると、とても偉大な足跡を残されたんだとわかりました。名優逝く。安らかにハワイの地でお休みください。


 はて? ハワイは本来、土葬でしょうか、火葬でしょうか? 別に知る必要もない知識なのですが、ついね。


 ええ、そうでしょうね。わたしが何故、養子か? 興味ありますよね。でもそのことは、いずれ話のネタがなくなる時が来ますから、その際にお話ししましょう。事前に木綿のハンカチーフを用意しておいたほうがいいと思います。いや、太田裕美のベスト盤CDは要りません。はい。


 わたしは時々こういう想像をして怖くなることがあります。具体的な例でお伝えします。

 戦国末期の三英傑、織田信長、豊臣秀吉、徳川家康が、皆さんが知るところの『三国志』の曹操、劉備、孫権とあまりにもキャラクターが似過ぎているのではないかということです。桶狭間の戦いで、今川義元を破った信長は袁紹を破った曹操を思い起こしますし、有能な人材を登用する点や冷酷なところも両者、似通っています。貧民層から成り上がった秀吉は同じく貧民から一応蜀漢の皇帝に上り詰めた劉備と似てますし、人誑しの魅力は瓜二つ。腹心の部下、加藤清正と福島正則の人物設定は思いきり、関羽と張飛ですし、諸葛孔明は黒田孝高でしょうか? 竹中重治は早死にしたという点で龐統ですかねえ。家康は三河に土着していて、家臣の信頼が厚い。孫権そのものです。

 いずれも細かく見れば違うところもあるのですが、キャラクター設定だけ見れば、目を疑うほどに酷似していると思いませんか?


 少し、話を変えます。

 既出かもしれませんが、わたしの持論として、「日本人の思っている、日本の歴史の大半は司馬遼太郎先生が作った歴史である。先生が書いてない時代は他の小説家が補填している。古代は黒岩重吾先生、源平の合戦と室町幕府成立前後は吉川英治先生。空白部分は井沢元彦の『逆説の日本史』で埋めればいい」というものです。暴論の誹りは甘んじて受けましょう。


 ただ、考えていただきたいのは、歴史を我々はどうやって知るのかということです。動画も写真もないのです。なので、古文書という文字情報でしか歴史を知ることはできないのです。もちろん図版や壁画でイメージ情報もわかる部分もありますが、メインはあくまで文字です。

 なので、古文書編纂の際に、何か恣意的なものが働いていたら、どうなるでしょう? これも既出で申し訳ないのですが、飛鳥時代の蘇我一族の名前が、馬子、蝦夷、入鹿なんて『なごり雪』をオグリキャップとナマハゲが合唱するような、ヘンテコな名前なのは明らかに彼らを貶めようとする勢力の仕業です。もし万が一、蘇我一族の本当の名前がわかる史料が発見されたら国宝ものです。たぶんありえませんが。

 近代にも例はあります。現代のまともな人間なら、坂本龍馬を皆さん知っているはずです。でも、幕末当時から明治維新後しばらくの間は庶民の誰一人として、坂本龍馬の名前なんて知りませんでした。彼の働きは影のいわば功労者ですからね。その辺りです。まるで、介子推のようですね。それが、世に知られるようになったのは、明治天皇のお后の枕元に、ある日、坂本龍馬が現れたというのです。それが新聞の記事になり、以降一気にスターダムに乗るわけなのです。もし夢に別の人が現れていたら、その人が英雄になっていたでしょう。ただ、真偽のほどは明らかではありません。幕末の志士から新政府の高官になった誰かが、龍馬を哀れんで、情報操作したとも考えられるからです。

 つまり、日本史は何一つ信用できないといえば出来ないのです。しかし、現在の暮らし向きにはなんの関わりもないので、歴史学者、歴史研究会以外、深く考えないだけのことなのです。


 怖くないですか?

 ではごきげんよう。また勉強して来ます。

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