第41話
祈る気持のまま外気に晒されて冷たくなったノブをゆっくりと回した。ノブは何の抵抗もなくすんなりと回った。真田は肩のちからがすっと抜けて、手にしていたライトを落としそうになった。
2センチほどドアを開けて中を覗き込む。しかしそこも闇の続きとなっていて、どこがどうなっているのかまるで見当がつかなかった。誰かに背中を叩かれるような気が何度もした。その反面、この倉庫には誰もいなくて、ただ冷凍機だけが運転されているだけなのかもしれないと考えたが、それにしてはドアに鍵がされてないのはおかしい。間違いなく倉庫には誰かがいるはずだ。
躰を滑り込ませるようにして素早く建物に入った。ドアを開けて覗いた時にはよく見えなかったが、いちばん奥で通路がL字に曲がっているためにぼんやりと灯りが洩れている。
真田は左側の壁に張りついてしばらく様子を見る。徐々に目が慣れてきた。
通路の両側は、プレハブが連なっており、右側には壁しかなかったが、左側にはドアのついた大小3つの部屋があることがわかった。
曲がった通路の先にあるものが見たくて、物音に気を配りながらすすむ。両耳に神経を集中させて少しずつ慎重に移動する。時々遠くから小さな音が聞こえてくるが、近くに人のいる気配はない。少し安心しながら通路の角から様子を覗おうとした時、車の停まる音が聞こえた。真田は、箕浦たちだと直感した。すぐそこに正面からのドアがある。いまここを開けて入って来られたらどうすることもできない。
真田は急いで3つある真ん中のドアを開けて中に入った。そのとたん、動物の排泄物から出る刺激臭が鼻腔を突いた。しかしそんなことにかまっている場合ではなかった。
ドアを閉め、鍵がかかってないことに安堵した瞬間、足が震えてきて床にへたへたと坐り込んでしまった。いま真田は失禁してもおかしくない精神状態に陥っている。鼓動も尋常でない打ち方がずっと続いている。
息を整えるのに深呼吸を繰り返していた時、突然話し声が聞こえた。息を殺して耳を傾ける。男と女が短い会話を交わしている。どちらも聞き覚え声だった。箕浦と安伊という事務員の声に違いない。しかし、跫音からしたら他に3、4人が歩いているように思えた。
話し声は段々小さくなっていった。とりあえずこちらに来る気配は消えた。
これからどうしたものか思案しはじめた時、背中で声が聞こえた気がした。空耳だろう――そう思った真田は振り返ることもしなかった。というより、恐怖が先に立って自分の目で確かめることができなかったのだ。
このままずっとここにいるわけにもいかなくて、膝を突いたままノブに手をかけた時、またしても声が聞こえた。今度は空耳ではなくちゃんと聞こえた。真田の躰が小刻みに震えた。ひょっとして――。
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