第30話
中西が真相を究明するために、自分に黙って行動を起こしたような気がしてならない。まるで根拠はないが、ただそんな気がしてならないのだ。
真田は月曜に休暇を取ったことを伏せて、どうしても車で行かなきゃいけないところがあると嘘を言って自家用車で家を出た。しかし真田が行動しようとする時間は夕方からだ。それまでどこかで時間を潰す必要がある。いろいろと考えた末、1時間ほど喫茶店でコーヒーを飲み、10時過ぎになって郊外にあるパチンコ屋の駐車場に車を乗り入れた。ここなら何も考えずに玉の行方だけ見てればいいと思ったからだ。
真田は玉がどれだけ持つか知れなかったが、とりあえず時間が過ごせればいいという気持で台の前に坐った。往々にしてこういった時に幸運が巡ってくるもので、真田は3千円の投資で5万円の見返りを得た。
真田は上機嫌でエリアAに向かって車を走らせる。現場に着いたのは4時を少し過ぎたぐらいで、時間的には丁度よかった。
車を道路に停め、あのふたりが出て来るのを待つことにする。
真田が週末に秋葉原に行ったには理由があった。この前の二の舞にならないように車両追跡機を買おうと思い立ち、何軒も通信機器の店を覗いたのだが、3、4万と高価なものばかりで、とても真田の小遣いで買える代物ではなかった。だが、パチンコでこんなに副収入を得られたのであれば、買っておいてもよかったと後悔をする。
そんな無意味なことを考えていた時、例のふたりが判を捺したようにいつもの時間に姿を現した。きょうこそは絶対に見失わないぞ、と気合を入れた真田は、いつでも発進できるようにエンジンをかけた。
この頃では日脚が早くなり、ビルの外壁に浮かんだ幾何学模様の影が寂しさを呼び寄せる。つい中西のことを思い出してしまった。
真田の胸中には、説明のできない確信のようなものが蔦のように張りついている。間違いであればそれに越したことはない。いや、間違いであって欲しいと望むほうが強いと言っても過言ではない。取り払おうとするが、すればするほど色濃く浮かび上がってくるのだ。その思いに白黒つけたくて、いまここに来ている。
白の乗用車はすぐ横を走り抜けて行った。この前と同じコースで第一京浜を南下しはじめる。なぜか道路はそれほど混んではいなかった。この分だと見失うことはまずない。会社の名前が入ったライトバンでないだけに、気にすることなくピタリと後ろについた。
やがて車は、第一京浜から産業道路に入って行った。両側にホテルと大きな倉庫が見えはじめる。真っ直ぐ走れば羽田空港だ。ここまで来ると極端に交通量は少なくなったものの、その代わりに大型車両が目につくようになった。間にトラックが入ると見失うおそれがあるので、なるべく離れないように追跡を続けた。
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