第29話  7

 横浜から戻った真田は定時きっかりに退社をすると、秋葉原に寄ってから家に帰った。

 家の玄関ドアを開けると、キッチンにいた恵理子が驚いた顔で迎えた。

「どうしたの? 金曜はいつも遅くなるのに……」

 カバンを受け取りながら訊く。

「うん。会社でいろいろあってな。詳しいことはあとでゆっくり話す」

 真田は余程疲れているのか、がっくりと首を落としながら寝室に入った。

「お風呂いま入れはじめたばかりだから、あと20分くらい」

「それはいいけど、おまえたち夕飯は?」

「きょうも遅くなると思ったから、子供たちと先に済ませちゃった」

 真田の着替えを手伝いながら恵理子はすまなそうに言う。

「そんなことはいいんだ。連絡を入れなかった俺が悪いんだから」と言ったあとで、「風呂までに時間があるんだったら、先に飯にするか」真田は独りごちるようにいった。

 紺色のジャージの上下に着替えた真田は、ダイニングの椅子に腰掛けておもむろに夕刊を拡げる。いつもと違ってまず社会面から目を通しはじめる。ひょっとしてという気持が先立った。他でもない、中西に関した記事である。

 2面とも隈なく捜したが、幸いどこにもそれらしきものはなかった。とりあえず安心をする。真田はこの状態がいつまでも続いて欲しいと願いながら1面に目を移した。

 子供たちは帰った父親の顔を見て、「おかえりなさい」と言ったきりテレビのアニメに夢中になっている。

 真田はビールをつぐ恵理子に、

「じつはな……」

 ひと口ビールを飲んだあと、恵理子に中西が無断欠勤していることと、一両日の出来事を掻い摘んで話して聞かせた。

「じゃあ中西さんはいまでも行方不明っていうこと?」

 向かいに坐った恵理子は信じられないといった顔で真田を見る。

「ああ、残念ながらそういうことだ。でも警察に捜査を頼んだから、もう心配はいらない」

 恵理子を安心させるために真田は心にもないことを口にした。


 真田は土、日の2日間は胸の内に引っ掛かるものがあって、テレビを観ていても本を読んでいてもまったく集中できなかった。

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