第24話

 エレベーターで1階まで降りると、そこはすでにイベント会場かお祭りでもやっているかのような賑わいだった。真田は自然とふたりの子供を抱きかかえるように傍に引き寄せる。恵理子は目的の店を決めているのか、脇目も振らずに早足でズンズンすすんでゆく。子供たちははぐれないように目を大きくして母親の背中から視線を外さない。真田も同様だった。

 恵理子が真っ先に入ったのは子供服の店で、出て来た時には大きな紙袋を重そうに提げていた。店の前のベンチで30分は優に待たされた。

 今度は肌着の店に行くと恵理子がいうので、すでに子供たちは嫌気がさしていたため、3階のアメニティコーナーで待ち合わせをすることにした。そのほうがお互いに無理がなくていい。

 荷物を受け取って3階の隅まで行くと、ところ狭しとのゲーム機が並んでいて、機械が発する電子音と子供の甲高い声がひっきりなしに聞こえていた。

 正也と明日実はゲームをしたそうな顔を見せる。ここまで来てただ見ているだけでは酷だと思った真田は、好きなゲームで遊んでいいよと300円ずつ渡した。

 ふたりはしっかりと硬貨を握り締めて、1台1台真剣な顔で物色をはじめている。真田は少し離れたベンチで子供たちを見守っていた。

 タバコが喫いたくてしかたがないが、店内はすべて禁煙になっているためにそうもいかない。苛々する気持を紛らそうと考えていた時、ふとあることを思いついた。

 ポロシャツの胸ポケットから携帯電話を取り出すと、登録しておいた番号を表示させて、おもむろに送信ボタンを押した。あの老人から聞き出した電話番号だ。呼び出し音が鳴っている。しかし一向に電話に出る気配がない。6、7回目で電話を切った。

(やはり土曜日ということで事務所に誰もいないのか――)

 安堵と諦めきれない気持の両方に揺れ動かされると、次はどのタイミングで電話したものかを思案した。

 ベンチを離れて子供たちのところに行くと、すでに使い切ってしまったのか、ふたりともよその子がやっているゲームをうしろから目を凝らして見ている姿があった。父親を見つけた正也はもっとゲームがしたいという顔で近寄ったが、また今度だと言い聞かせてその場を離れた。

 1時間もした頃、両手に紙袋を持った恵理子が肩で息をしながら歩いてくるのが目に入った。紙袋をどさりとベンチに置くと、ふうと息を吐きながら咽喉が渇いたと言って子供たちと一緒に自販機に向かった。戻った時には、緑茶のボトルと子供たちはそれぞれのジュースのボトルを手にしていた。

ひと息吐いたのを見て、

「随分と買ったもんだなァ」と、真田。

「これでも控えたほうよ。だって子供はどんどん大きくなるから、すぐに着れなくなっちゃうでしょ」

 恵理子は目当てのバーゲン品を手に入れたからか、満足げな顔で言う。

「ママ、おなかすいた」

 正也が恵理子の手を取って空腹を訴える。

「おなかすいた」

 明日実もお兄ちゃんを見習って渋い顔を拵える。

「そうねもうこんな時間になっちゃったもんね。何食べたい?」

 恵理子は明日実の顔を覗きこむようにして訊く。

「僕、ハンバーグがいい」と、横から正也。

「あたしも」

「じゃあハンバーグ食べに行こうか」

 ベンチから立ち上がった恵理子は、真田の耳元で、財布が空っぽになっちゃったから、パパお願いね、と子供たちに聞こえないように言った。スズメの泪ほどの小遣いしかもらってない真田だったが、子供たちの喜ぶ顔を見たら嫌とは言えなかった。

 専門店で鉄板の上で食欲をそそる音のするハンバーグを頬張った家族4人は、満腹感を抱いたまま家路についた。

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