第23話

 真田はタバコを咥え、新聞を手にしてテラスに向かった。自宅では室内でタバコを喫ってはいけないルールになっている。

 ダイニングに戻ると、皿に載った鮮やかな黄色い色の円い塊りが白い縁取りの中に艶やかに耀いていた。別段いつも朝食に出されるものと変わるところはないのだが、休日というスパイスがそのように感じさせた。

 ライ麦パンのトーストを頬張りながら新聞の続きに目を通す。目を惹く記事はまったくと言っていいくらい載ってなかった。

 気がつくと恵理子の姿が見えない。出かける用意をしているのかもしれないと思いながらコーヒーを啜っていた時、正也が部屋から姿を見せた。

「お、は、よ、う」と、真田は息子に笑顔で話しかける。

「おはよう」

 正也は父親の顔を見ることなくぼそりと言った。

「正也、ちゃんと勉強してるか?」

「ちゃんとやってるよ」

 指先をいじりながらようやく父親の顔を見る。

「そうか。そんならいいけど、勉強でわからないところがあったら、パパかママかに訊くんだぞ」

「うん」

 思春期を迎えはじめている正也は、このところあまり父親と話したがらない。淋しくはあったが自分もそんな時期があった経験を持つ真田は、なるべく理解してやろうと努力している。

 その時、明日実が公園から戻って来た。

「明日実、公園で遊んでたのか?」

「うん、マキちゃんとすべり台やってたの。パパまだイオンに行かないの?」

「ママの支度ができたら出かけるから、その前に手を洗っといで」

「はーい」

 小学校3年の明日実はとことこと洗面所に向かった。

 正也はリビングのソファーにうずくまるようにして携帯ゲームに熱中している。


 ほどなくして家族全員で家を出た。目的のスーパーまでは車で30分近くかかる。家を出た時にはそれほど道路は混んでいなかったが、スーパーに近づくにつれて徐々に混みはじめてきた。真田はハンドルを握りながら、周りの車がすべて同じ場所に向かっているかと思うとぞっとしなくもなかった。

 そう言えばあの日の夕方も丁度こんな感じだったのを思い出した。2、3台先の車を見ようとするが、図体のでかいRV車が邪魔をして思うように確認ができない。中西が途中で見失ったのも無理はないと胸の中で呟いた。

 自走式の駐車場に車を停めると、明日実の手を引いて店内に向かう。すでに満車に近い数の車が停められてあった。

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