第21話

「いや、そうじゃないんだけどね。その人、どういう仕事してるって言ってた?」

「そうねえ、はっきりとは聞いてないけど、医療関係のようなことを言ってたわ」

 ママの話を聞いて、真田は中西と顔を見合わせて片目を瞑った。

「俺はこの店で他のふたりを見たことないんだけど、前からのお客さん?」

 真田はソフトいかに手を伸ばしながら訊く。

「いえそんなことない。そうねえ、ここ1ヵ月くらいってとこかしら」

「どんな仕事の人?」

「確か、食品冷凍の機械メーカーのはずよ」

「そうなんだ」

 真田は興味を示していることを悟られないようにあっさりと返した。


 スナック『トトロ』の勘定は、中西に半次郎での借りがあったのと、思わぬ収穫に気分をよくした真田が払った。

「すいません、先輩。ゴチになります」

「いや、きょうは俺が誘ったんだから、気にしなくていい。だけどこの次は割り勘だぞ」

「もちろんです」

「そんなことはいいんだが、さっきのママの話を聞いたか」

 駅に向かう途中、歩きながら真田が思いついたように話しかけた。

「ええ、ちゃんと聞いてましたよ」

「連れのふたりは食品冷凍の会社だと言っていたが、そんな会社がなぜ日本臓器製造という会社の箕浦と言う男を接待しなきゃならないんだ?」

 真田は立ち止まって胸ポケットからタバコを取り出した。

「ただの知り合いということも考えられますよね」

「いや、あのふたりの態度からするとそれはないだろ」

「まあ」

 中西はそこまで観察していなかったためにまともな返事ができなかった。

 思いも寄らぬ場所で不可解な事実に遭遇したことで、真田の頭の中にまたひとつジグソーパズルのピースが増えてしまった。

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