第11話

 真田も中西も仕事の性質上時間には正確なのだが、地元にいた真田のほうがわずかに早かった。真田が約束の時間までいつもと同じスケジュールでエリアを回り、コンビニの前でタバコを吹かしていた時、すぐ目の前に見慣れたロゴと社名の入った車が停まった。ウインドーを降ろして顔を覗かせたのは、笑顔の中西だった。

 真田は一計があって、営業車を1台融通してここに来るようにと、けさ連絡のメールを中西に入れたのだ。

 営業マンの仕事は、結構自分なりのスケジュールを組み立てて行動するので、自由といえば自由だ。もし上司か何かあっても言い逃れはいくらでも見つかった。

 真田は中西を誘導してコインパーキングに車を入れさせると、真っ先に中西をビルの前に連れて行き、話に聞かせた看板を見せる。次に6階の部分を指差して事務所のある位置を教えた。中西は何を思い浮かべながら聞いているのか、何度も点頭している。

 少し早かったがランチを食べることにし、仕事をするには勿体ないくらいの天気だな、と暢気な会話をしながら真田はいちばんお気に入りの食堂に中西を誘う。

 ふたりが足を踏み入れた東西の通りは、南北のビジネスビルが多い通りに較べるとタバコ屋、クリーニング屋、花屋、文房具屋などの小ぢんまりした店舗が目立った。このあたりは11時半頃になると、あちこちの店から吐き出されてくる匂いが入り混じって独特な雰囲気を醸し出す。食欲をそそるような、そうでないような複雑な匂いだ。

 食堂は通りの中ほどにあった。いつも並ばないと入れないのだが、少し時間が早いこともあって意外とすんなり席に着くことができた。ふたりは750円の日替わりランチを頼む。きょうはアジフライの定食だった。揚げたてでちりちりと音を立てているフライにウスターソースをたっぷりとかけた中西は、サクサクと音を立てながら旨そうに食べた。

 勘定を払って店の外に出た時には、もう5、6人の客が空腹の顔で並んでいた。

 時間まで数軒回る時間はあったものの、中西が一緒にいたのと、老人のことが気になって仕事どころではなかった。

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