第4話

 ふたりの向かった先は、会社にいちばん近いJRのS駅近くにある。

 真田は、例の会社のことを中西に話そうかどうしようか逡巡しながら歩いている。中西のほうも話しかけ辛かったのか店まで終始無言だった。

 縄のれんをくぐった居酒屋の名前は『半次郎』と言い、落ち着いた雰囲気で、料理も結構旨いので折があればよく利用している。

 店内はすでに会社帰りのサラリーマンで繁盛していた。店の奥がタバコの烟で霞んで見えないくらいだ。

 ふたりはあいていたカウンターの席に並んで坐った。

 生ビールで乾杯を済ませると、タバコに火を点けながら真田が訊いた。

「どう、契約取れてるか?」

「いえ、このところさっぱりです。最近は営業に顔を出そうものなら、疫病神のようにあしらわれて、まともに話を聞いてもらえないくらいですよ」

 中西は悔しそうな顔でジョッキを呷った。

「まあ、な。いくら減税だ、補助金だと政府が後押ししてくれても、消費者がその気にならなければ何ともならんよ。今後の経済動向からすると、おそらくまだ2年はだめだろうな」

 そう言いながらいびつなアルミの灰皿にタバコを圧しつけたあと、店員を呼んでキープしてある焼酎のボトルを持って来させ、ついでにサンマの刺身と鶏軟骨の唐揚げ、それと蓮根の煮物を注文した。

 真田は焼酎のお湯割りをふたつ拵えると、中西の前に置いた。

「じつはな、エリアAに気になる会社があるんだ」

 真田は独り言を洩らすように、ぽろりと喋ってしまった。

「エリアA?」

 はじめて聞く言葉で、中西はそれがどのへんのことを言っているのかさっぱり見当がつかない。

「ああ、T駅の西口を出てすぐのところで、きょうもそこに行って来たんだけどな」

「何をやってる会社なんです?」

 焼酎のお湯割りを啜りながら中西は訊いた。

「看板には、小さな字で『日本臓器製造株式会社』と書いてあるんだ」

「じゃあ、臓器に関係した商売をしてるんでしょ」

 中西はまったくといっていいほど興味を示さない。どこがどう気になっているのか訊き返すこともしなかった。

 真田は、中西の出方を見て、詳しく話そうとしたのを思い留めた。こんなことを仕事以上に気にしている自分が病的なように思えたからだ。

 1時間半ほど仕事の話を続けて店を出た真田は駅で中西と別れた。

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