第3話

 まさか――でも、世の中にホームページを拵えてない会社はゴマンとある、きっとそうに違いない。真田は気を取り直して今度は電話帳で調べることにした。ところが意外にも電話帳に載っておらず、意地になった真田は電話局の番号案内に問い合わせてみた。しかし戻ってきた返事は予想していた通り、先方の都合で報せることはできない、という味気ないものだった。

 真田は出口の見つからない迷路に入り込んでしまった気がした。

はじめて看板を見た時から自分なりの想像をしていたものの、それを確かめるべく術もなく、結果的に存在しないものとされてしまった。これまでずっと頭の中で燻っていたものは何だったんだろう。釈然としない気持を抱えたまま喫煙スペースに向かった。

 タバコを2本と自販機の缶コーヒーを飲んで席に戻った時、細い目をさらに細くしながら、3年後輩の中西敦なかにしあつしが小太りの躰を揺らしながら声をかけてきた。ネクタイがずれてダンヒルのタイピンが落ちそうになっている。

「真田さん、明日は休みですから帰りに一杯どうです?」

 中西は40才になろうとしているのに、一向に結婚する気がない。そんな中西はほとんど家で食事をしないため、よく晩飯代わりに真田を飲みに誘う。

 真田は結構中西と気が合うので、他の連中よりは一緒に飲みに行く回数が多かった。

「ああ、いいね。俺はすぐにでも出られるけど、中西はどうなんだ」

 真田は書類をまとめながら椅子から立ち上がる。

「僕もすぐ出られます」

 中西は二重アゴをさらに大きく見せて言った。


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