With the Lights Out

第3話 今寝ると良い夢をみるだけ

　みんな、努力が好きだなあ、って、僕はあきれているんだよ。

　例えば、ハーバード大学の図書館の壁には、こんな落書きがあるらしい。

　Better do it today than tomorrow.

（今日やるほうが、明日やるよりも、良い。)

　……こういうものが、ずらーっと書き連ねてあるんだって。どうかしてるよね。

　本当にハーバード大学にそんな落書きがあるのか、って？

　そこは、どうでもいいんだよ。

　僕が気に入らないのは、なんでみんな、こういう話が好きなんだろ、ってこと。

　僕なら「明日できることなら、わざわざ今日やるな」って書くよ。

　今日はアレやらなくて良いんだ！　明日でいいんだ！　……って考えるの、幸せでしょ？

　幸せをかみしめながら、スーパーマーケットに、お菓子を買いに行くよ。

　Waking up earlier and working out harder is the way to success.

（他人より早く起きて、他人よりも努力すること。それが成功への道。）

　……ゆっくり眠って、いつまでもゴロゴロして、それで成功する道はないの？　僕がそれを探しちゃダメなわけ？

　もし失敗しても努力さえしていなければセーフって感じがしない？

　ってね。

　こんな感じで、まだまだ格言はあるし、すべてに文句があるんだけど。

　夜遅くまで起きてるとママが怒る。

　だから、最後にこれだけ言わせて。　

　Sleep now and a dream will come out; Study now and a dream will come true.

（今寝ると夢を見る。今勉強すると夢が叶う。）

　……あのね。そりゃ甘いよ。

　勉強したって夢が叶うとは限らないってことくらい、僕みたいな子どもでもわかるんだよ。

　でも眠ると、ほとんどの場合、夢がみられる。

　しかも、すっごく良い夢かもしれない。

　……こっちのが、幸せになる確率、高くない？

　なんてね。

　わかってるよ。

　いい子でいないとママが落ち込んじゃう。

　お酒を飲んで、くだをまいて、また会社をクビになる。

　だから、考えるだけ、誰にも言わない。

　僕は素直でいい子でいなくちゃいけないんだ。

　でも「ほんとはそう思う」ことは、口に出して言えなくても、大事にしなさいって、パパならきっと、そう言ってくれると思うんだ。

　……ああ、パパ、会いたいな。

　浮気してママを鬱病にして、離婚してママをもっと鬱病にしたパパ。

　おかげで、半年に一度しか会えないんじゃなけりゃ、最高のパパなのに。

　人生ってうまくいかないことばかりだね。

　でも、見えない裏側で、うまくいってることもたくさんあるから、気にしないよ。

　ってことで、おやすみなさい。

　良い夢を！

（了）