第5話 残響世界

 この世界では一度発した声は二度と失われることはない。心ならず口にした言葉は永遠に響き続けて、忘れた頃に戻ってくるから要注意。


 かく言う俺は恋人に振られたばかり。幼少期に垂れ流した悪口が巡り巡ってファムファタルを撃ち抜いた。傷ついた彼女は胸元から真珠のような涙を流し二度と戻ってこなかった。


 ガキの頃、俺は言ったのだ。髪の青い女なんてブキミだと。


 今の俺は叫ぶ。君の髪は海の色。品種改良された薔薇の色。リュウノヒゲの実の色。女王のドレスの色。宝石の色。虹が空に溶けた色。観念としての青の色。最高に美しい色。特別な色。かぐわしい色。艶っぽい色。君の色。


 ……もう遅い。俺は過去から彼女を傷つけてしまった。一度言ってしまったことは二度と取り返しがつかないこの世界で、変声期前の甲高い声で、俺は永遠に最愛の女を罵り続け、同時に俺を罰し続けるのだ。


 君の青。被差別の青。不可触の青。少数民族の青。悲しみの青。抑圧の青。いとしさの青。


 俺は死ぬまで叫び続けるだろう。

 死んでも歌い続けるだろう。

 その声もまた永遠に世界に反響し続けるだろう。


 救いは、もう、そこにしかない。

 そこにだけ、救いがある。

 だから俺は歌う。シャウトする。


 君の青い色。俺の愚かさの色。人類の冷たさの色。人類の優しさの色。歴史の苦しみの色。


 それは、地球から見上げた太陽光が微粒子に乱反射して創造される、プリズムの色。


(了)

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