暁焔vs紅月骸
炎を待とう一人の男が、宙に浮かび見下ろす。
「
――――⁉
私を謀りましたね、アインス。
「そうですか。では場所を移しましょう。ここは狭い、貴方も私も存分に力を振るえない」
神父はゆっくりと歩いていく。
背を伸ばして歩いていく。
人のいない大通り、その真ん中に立ち、まっすぐ前を見る。
移動に際して纏っていた炎を一度解除している焔が立っている。
「それじゃあ、始めよう」
「……ええ、始めましょうか」
骸の身体を骨が包み込む。
焔の身体を炎が包み込む。
「焔」
「骸」
「「腕‼」」
同時に地を蹴り、両者は異形の腕をぶつける。
消えることのない炎は、全てを裂く竜の骨に、抗うように再生し続ける。
超常を裂く竜の骨は、終わらない炎を前に、音を立て骨を軋ませる。
終わりが見えず一度距離を取る。
再度地を蹴り距離を詰め、格闘戦が始まる。
組み立てられた完璧な連撃。
骸の重く速い攻撃を、腕を弾かれながらもなんとか捌いていく。
その中で、他よりもほんの少しだけ甘い攻撃を流し、一瞬だけ出来た隙に蹴りを入れる。
だがそれを肘で打たれ、体勢を崩す。
そこに正面から拳が飛んでくる。
避けることは出来ず後ろに飛び勢いを逃がす。
だが、骸は一歩踏み込んだ。
後ろへと飛ぶ焔に追いつき、もう一撃。
突き出される拳は、焔へと迫りながら骨に覆われていく。
空中で動きが鈍い状態へ不意の一撃。
何とか腕で防ぐことはできたが、超常を裂く力は、焔の再生能力に作用する。
吹き飛ばされる焔の左腕から、血が流れる。
本来ならば一瞬で治る傷が治らない。
すぐに引くはずの痛みが残り続ける。
力の入らない左腕に、ぞくりとする。
これは、厳しいな。
《それはそうだ、相性だけなら不毛な戦い。決着はつかん。だが体術となると、あの男の方が圧倒的に上だ。だが体術に付き合わずに遠距離で戦おうにも、あの男に遠距離からの攻撃など効きはしない。お前に勝ち目はない》
それは、俺が無茶をしなければの話だろ。
無茶すりゃどこまでできる?
《こちらの攻撃が効くかはわからぬが、あの男からの攻撃を再生することくらいならばできる》
了解。
なら、全力で行こう。
纏う炎はより激しさを増す。
流れ出る血は止まり、傷は塞がり腕は動く。
辺りへの被害など考えず、全力を以てして骸と戦う。
炎の中で、骸は骨を纏い戦う。
繰り出される連撃は、より強く、より早く、攻撃は鋭さを増していく。
故に焔も今までの様に捌くことはできない。
だが、焔は痛みに顔を歪めながらも、絶え間なくつくられる傷をほぼ同時に再生させながら動き続ける。
骸の連撃とそれを捌く焔。
その動きが一瞬だけ止まる。
一瞬の溜め。
両者は拳をぶつける。
その衝撃に建物のガラスが一斉に割れる。
それと同時だった。
パリンという音の中に、一際大きく異質な音が混ざっていた。
道に隣接する建物が一つ崩れたのだ。
その中から人が背中から飛び出した。
それは真っ直ぐ二人の方へと飛んでくる。
「邪魔だ」
「邪魔です」
声を重ね、飛んでくる人に同時に攻撃する。
しかしそれを避け着地すると、二人の方に手をのばした。
二人は肩を跳ねさせ防御の構えをとる。
骨を、炎を、前面に押し出し感じた危険に対処する。
だが防御したにも拘らず二人は後方へと吹き飛ばされる。
「ん?お前は神父ではないか。久しぶりだな」
骸に声を掛けた。
「お久しぶりですね、署長。それで、何の御用でしょう?」
「お前を捕まえたいところだが……その余裕が俺にはない」
そう言って男は自分が吹き飛ばされてきた崩れたビルの方を見つめる。
砂煙を押し退けるように、笑う男が現れる。
「もっと、楽しませろ」
凄まじい速度で距離を詰め、二人の男が拳をぶつけた。
笑う男は力任せに吹き飛ばし貫かれたビルが崩れる。
署長が押し負けているところなんて初めて視ました。
確かギルドに居た方ですが、署長を圧倒している時点で実力はソルト以上。
ボスよりも強いということはあり得ないでしょうが、敵に回したくはありませんね。
警戒しながら分析していた骸の眼に、燃え上がる炎が映る。
「その男に攻撃など……」
焔の放った炎が男を飲み込む。
炎の中から声が聞こえた。
「おい、誰だよ。弱者が出しゃばるな。俺が戦うのは強者のみ、もしも俺と戦おうとする弱者がいるのなら……俺はそれを蹂躙する」
これは私ではどうすることも出来ませんね。
骸は諦めその場から退避した。
炎の中、人影が腕を振る。
薙ぎ払うように、右腕を力任せに振った。
その威力たるや腕を振った方向にある建物を粉々に粉砕し崩してしまうほどのものだった。
それを避けることもできず、防ごうとした焔は吹き飛ぶことなど許されずその場で消し炭となった。
な……これが彼の実力ですか。
本当に敵に回してしまうとどうしようもなさそうです。
驚きはしなかった。
ソルトよりも強い時点で自分にはどうしようもないことくらい理解していたから。
今更上限が跳ね上がったところで何も変わらない。
「あれ?あぁそういうこと。不死身だから少し調子に乗ってたんだな」
地面に残る塵が燃え上がり、その中に人の姿が形作られる。
「不死身にも優劣が存在する。お前のそれは平凡だ。だが、俺のは違う。俺の不死身に弱点は無く、たとえ殺せたとしても、俺は蘇る」
炎の中、膝をつき息を切らす焔は、自分を見下ろし笑う男を睨む。
「良い眼だ。不死身のよしみで今回は見逃してやる。今後は強者に喧嘩を売らないことだな、次は死にかねないぞ、不死身殺す術などいくらでもある。紅月骸、死を司るお前ならその辺りは詳しいだろう、教えてやれ」
「何故私の名前を、貴方に名乗った覚えはありませんよ」
それを無視して手を振ると、男は衝撃波を放ちながら駆け抜けていった。
「今のは一体何者だ」
「……私にもわかりません。ただ、どう足掻いても勝てない相手なのは確かです」
残された二人は目を見合わす。
「……………………」
「……………………」
「……それで、その、不死身の弱点ってなんだ?」
微妙な雰囲気に互いに黙ってしまっていたが焔が口を開いた。
「そうですね。上には上がいることを思い知らされ、決着など気にする程のものではないように思えてきました。この状況で本気で戦えるような人間ではないので、戦いに慣れていないあなたに戦いの何たるかを教えるとしましょうか」
骸は落ち着いた様子で微笑むと、座り込んでいた焔に手を差し伸べ立ち上がらせ歩き始める。
焔はそれを追い、二人は今までの戦いの中で残っていた建物の中に入っていった。
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