■■■vs安倍晴明
「まったく、現人神にも拘らず自分の身に宿す神の力も把握できないとは、なってないな」
遠く離れた建物の屋上で、鏡を介して戦場を見る。
「……おや、お客さんか。私としてはあまり戦いたくないんだけどなぁ」
囲むようにして札が空中に配置される。
「だけどまぁ、来てしまった以上は仕方ない。戦うとしようか」
周りを浮いていた札が燃えて灰となり消え去った。
私としては早くアインスと話をしてみたいのでこれで終わってほしいのだが……まぁ、終わらないか。
一人の男が扉を開けて屋上に上がってきた。
「君は誰だい?私に狙うだけの価値は無いと思うのだが」
「いいや、あるとも。僕の名は安倍晴明、卑弥呼という女に会いに来た」
「それなら残念、他を当たってくれ。ここには卑弥呼という男しかいない」
「いるじゃないか。ここに、女神を宿していたせいで女と認識されていた卑弥呼という男が」
はぁ、二千年近く前の話をよくもそこまで調べたな。
迷惑なストーカ―だな……あぁ私もか。
ともかくこれでは逃げようにも逃げられん。
「それで、目的は?私との対話なら、私も一人話をしたい男がいるので彼を交えて話がしたい。私との戦いなら早く始めよう、私は彼と話がしたいのでな」
「そうか、ならば会話はよくない。君との会話となると、長くなりそうだからな。やはり、互いを理解するには、ぶつかるのが一番だな」
晴明は懐から一枚の札を取り出した。
「そうなるか。なら一応問おうか、君に、天を相手にするだけの覚悟はあるかい?」
卑弥呼は優しく微笑み問い掛ける。
だが、その優しい声とは違って、前に立つことすら許さぬような圧倒的な存在感であった。
身体が震える。
恐れからだろうか、僕にはわからないが、それでも、屈するわけにはいかない。
「覚悟なんて僕にはわからない。けど、神の権能を前に、引き下がるわけにはいかない。僕は、君の力を手に入れる」
落雷。
快晴だった空を雲が覆い、天から雷が落ちる。
晴明に直撃すると、雷は晴明の身体を覆う装備となる。
電気とはまた異端な……その程度の話ではないか。
「それはゼウスの持つ武器ケラウノスの力だろ?神の権能をすでに手にしているというのに、なぜ君はさらなる力を求める」
晴明の表情が変わった。
怒りからか、悲しみからか、晴明は声を荒げる。
「神の権能だと?この程度、こんなものが神の権能であったのなら……母上は死ななかった。神がこの程度であったのならば、母上が負けることなどありえなかった‼」
……理解してしまうことがこんなにも嫌だとはな。
本当に、神というのはろくでもない奴ばかりだ。
神使が必ずしも好きで神に使われているわけじゃない、か。
「確かにそうだな。彼女であれば、今の君にも負けることはないのだろう。まぁ、推測でしかないがな」
謝罪は無かった。
だが、それでも構わなかった。
憧れともいえるような感情を寄せていた相手が、母を称賛してくれたのだから。
その言葉だけで、十分だった。
「話もここまでにして、そろそろ戦おうか。かかっておいで」
落ち着くまでにそう時間はかからなかった。
呼吸を整え、ゆっくりと眼を開く。
迸る電撃は、当たりに巻き散ることなく、完全に支配されている。
異常なまでの速度で奔る晴明。
空気との摩擦で音を轟かせ軌跡を残して攻撃する。
それを卑弥呼は涼しい顔をして軽々と避ける。
昔を思い出すな。
……何が
ただ恋をした少女が、天から降りただけだろう。
騒ぐほどのことではない。
……出来ることなら、もっと長く共に在りたかった。
感傷に浸り涙を零す。
それと同時に、雨が降り出す。
雨雫を浴びて、我に返る。
「……私はね、君や彼とは違う。術によって真似た訳でもなければ、複製されたものでもない。私の力は、正真正銘本物の、天照大神の権能だ」
感情の機微で、天すら変わる。
激しい感情の揺れは、世界すら崩壊させる。
あまりにも強大過ぎる力。
少しづつ広がる炎の霧。
そこに二度目の攻撃を行おうとする晴明が飛び込むと、その瞬間、晴明の身体を包んでいた雷が、消え去った。
「これが私の権能、浄化だ。あらゆる力は私の前で無力となる。たとえそれが神の権能であったとしても」
茫然とする晴明に、語り掛ける。
「越えられない壁というものが存在する。今、私と君の間には越えられない壁が存在する。越えてみせなさい。君は、神を殺すのでしょう?ならば、私の隣に立てるくらいには、強くなりなさい。もし私に追いつけたのなら、そしたらその時は、共に協力して戦いましょう。それでは、またいつか」
背を向けて去っていく卑弥呼を、見送ることしかできなかった。
あれが、卑弥呼か。
神をその身に宿した、日本最古の現人神。
あまりに……実力がかけ離れている。
なにも、出来なかった。
晴明はその場に膝をつき、泣き崩れた。
嗚咽を漏らし、足りない自分を嫌う。
泣いて泣いて、涙が枯れた時、ようやく少し自分のことを認めてあげられた気がした。
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