強者との戦闘

一秒の間に数度刃が火花を散らせる。

二人を囲むようにして炎が上がる。

炎は、正体不明を貫き、穿ち、焼き尽くす。

それをものともせず、否、透過する。

炎を無視してハンスを吹き飛ばし距離を取る。


ねぇ、どういうこと?

攻撃が通用しないどころかすり抜けてったんだけど。


《攻撃が当たったというのを当たってないという風に書き換えている》


事象の書き換えなんてどうやって勝てばいいんだよ。


《簡単だ、即死させればいい、肉体を一撃で破壊すれば殺せる。だが、場合によっては魂も同時に消さねばならないかもしれぬ。ただこれは、相手の技量しだいだ》


わかった、殺すだけなら簡単だ。


ハンスが駆ける。

向かってきたハンスに意識が向いたその一瞬を逃さない。

足元の地面が消え空中に放り出される。

挟むようにして高速で岩の壁が迫ってくる。


今、俺のこと一瞬忘れたろ、多対一するときは全員意識しとかないと、足元掬われるぜ。

さすがに空中じゃあ身動きとれねぇよなぁ。

死になぁ。


ぶつかった岩同士が砕けるほどの力で潰された、生きているはずがない、ないのだが、ソレは、砕けた岩の上に軽々と着地をした。


《そこにいたという事象を書き換えたのか》


は?瞬間移動とかふざけんなよ、と言いたいとこだが、血ぃ流してんだよなぁアイツ。

それってつまりは、避けれなかったってことだよなぁ。

なら勝てる。


「はっはっはっは、最高だぜお前ら」


ソレは、岩の上で高らかに笑った。


「俺を相手に近接戦で遣り合える実力者に、もう片方は俺に傷をつけられる奴ときたもんだ、最高だぜ。ここ千年以上血なんざ流した覚えがねぇ、ほんっとうに最高だぜお前ら」


先ほどまでとは比べ物にならないほどの殺気を放つ。

それと同時何かが飛び出し、頭をつかんで木に激突した。


「帰るよ」

「断る、ようやく面白くなってきたんだ遊ばせろ」

「すでにお前の対策が立てられつつある、これ以上情報をくれてやるわけにはいかない。それに、あいつらにお前の人格が引っ張られている、帰るぞ」

「何、組長の命令?」

「いいや、違う」

「なら帰らない」

「だが、俺のお願いだ」

「ん……それでもダメ。久しぶりの好敵手だここで中断なんて我慢できねぇ」

「それでもお前は帰るさ」

「は?」

「だって俺が、ズルするから」


そう言った酒呑童子は、倒れた。

倒れる酒呑童子を受け止める。


「な、お前、毒抜けてないのに来たのか、確かにこれはズルいな。俺は友を見捨てれるような奴じゃない、俺の心に、優しさに付け込んだズルか。確かにこれで俺は帰らざるを得ないわけだ」


ご丁寧に帰り道まで用意してくれやがって。


「そういうわけだ、じゃあな」


そう言ってアルバに向かってきた、さっきよりも速く。


な、まだ上があるのかよ。


咄嗟に魔術を発動させた。

周囲を電気が奔る、しかしすでに靄となって消えていた。


《我が最後までその本質を見抜けなかっただと⁉屈辱だ》


何だ今の、移動とかそんなもんじゃねぇ、能力だとか魔術だとかそんな生易しいもんでもねぇ、あれはアイツにとってはただ走っただけと同義なんだ。

なんつーバケモンだよ。

二人がかりで、不意を突いての初見殺しでたかが傷をつけただけ。

その上あれはただの妖、俺の力が使えない以上勝ち目がない。

こっち来てからこんなんばっかだ、自信無くすなぁ。

まぁそもそも、俺の力が通用する奴のほうが少ないから仕方ないけど、勝ちたいなぁそろそろ。


《何かがくる》


見上げた空に燃え盛る炎が現れた。


いつの間に、またそういうずるい移動をしてくるやつなの?


《いや、というかあれは……龍だな》


えっと、確かこの国においての龍って


《あぁ、カモだ》


ようやく俺が有利な相手に会えた。


「お前たちは陰陽師か?」


炎を身に纏っている者が話しかけてくる。


陰陽師ってのは確か化け物を狩る奴らで、この国じゃ組織されてるんだよな、だったら。


「違う、そんな組織には属してない。だが、人を護るために戦っているという点については同じかもな」

「そう。なら、俺たちの敵だ。妖を護るために俺たちは戦っているのだから」

「人の身で妖の味方をするのか」

「それが契約故に」


ハンスに近づき耳打ちする


「兄さん、戦える?」

「無理だ、あれは人、俺には戦えない」

「わかった、じゃあ俺一人でやる」


そう言って前に歩き出す。

後ろを振り向きハンスに言う。


「あいつを人だと言うならば、俺も人だってこと忘れないでね」

「わか、った」


顔をゆがませそう返事をした。

今、人と人ならざる者、その間で揺れる二人は、護るもののために殺し合いを始める。


揺らめく炎が先に動いた。

一瞬で距離を詰め首を掴む。

しかし、掴んだのではなく掴まれていた。


「吹き飛べ」


そう言ったアルバの腕に橙色に発光する文字列が浮かび上がる。

その時炎はより一層大きく、その勢いを増す。

大爆発が起き、辺りに暴風が吹き荒れる。


何今の。


《刻印魔術と呼ばれるものだ……と思う》


いやそっちじゃなくて、突然位置が入れ替わったやつ。


《わからん、原理も何もかも不明だ》


そう、わかった、じゃあいつも通り


《だめだ、奴の攻撃には当たるな、何か嫌な予感がする》


根拠は?


《勘だ》


オッケー、じゃあ当たらないよう気を付けながら戦うってことで。


「なぁ、名前教えてくれよ、日本での初勝利なんだ、名前くらい覚えててやる」

「……暁焔あかつきほむら、冥土の土産に覚えていけ」


互いが同時に動き出す。

燃え盛る炎、轟く雷鳴。

二人は同時に急停止した。


《神が動いた》

《地上に神が》


場所は?


何処で?


《エジプト》


それって


《知り合いかもな》


「悪いけど用事が出来た」

「な、まさか行くのか、エジプトに」

「当たり前、また今度相手してやる。兄さん、先帰ってていいよ」


振り向いて言ったアルバにハンスは、俯いて問う。


「なぁ、アルバ、人と人ならざる者、そして、人であり人ならざる力を操る者を俺はなんと定義したらいい。俺は一体何を護ればいい」

「……それは兄さんが決めること」


冷たくあしらうように答える。


「だけど、人ならざる部分があるなら、それはもう人ではないんじゃない」


そう言ってアルバは虚空へと消える。


《もう時間だ、帰るぞ》


あぁ。


焔は天へと昇っていく。


一人の男がハンスの肩を掴む。


「ここで起こったことをすべて教えてもらおうか」


そう言って男は、ハンスに手錠をかけた。




「今のは……勇者か?」

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