妖たちの暴走

朝、起床すると窓から差し込む日の光がいつも以上にまぶしく感じる。

そのまぶしさに、目を開けていられず、布団をかぶり二度寝しようとする。

しかしながら、なぜかついているテレビに気付き、消そうと、いまだ開かない眼をこすりながら、手探りでリモコンを探す。

ベッドサイドテーブルの上にいつもなら置いてあるがなぜか今日は置いていない。

ようやく意識がはっきりしだし、テレビの内容が分かってくる。

内容は、街で多くの変死体が見つかったというものだった。

その死体は、全身が焼け焦げたものだったり、何か爪のようなもので引き裂かれている者だったりと、様々だった。


あれ?なんで報道規制されて…今何時だ。

……四時、いや三時くらいか。

おそらく規制が入る前に見つけて、それをニュースで取り上げたってところか。

詰めが甘いな、まぁ仕方ないことか、情報を全然持ってないからな、あれば署長ならこれくらい予想できただろうに。

今テレビに映っている内容についてはわかったが、これを、だれが見ているんだ。

カラミティは報道番組なんて興味ないし、かんなぎはテレビではなくネットで情報を集める。

俺の部屋によくいる二人ではないとするとアルバかハンスってとこか。

許可も取らずに人の部屋に入るとか常識無いにもほどがあるけど、今回のは全部ボスが悪いしな。

さてもしハンスならやばいなぁ。


ようやく光に慣れてきて、ゆっくりとまぶたを開く。

そこには、予想通りアルバとハンスがいた。


「おはよう、二人とも」


後ろから突然呼びかけられアルバの肩が跳ねる。


「ん、おはよう、アインス」


ハンスのほうはテレビに集中していて全く聞こえていないようだった。

テレビでは、先ほどの変死体について話していた。

焼死体の近くでは、火事などは起こっておらず、遠くから運ばれてきたのではとの見解が述べられていた。

引き裂かれた死体については、人間業ではないが、既存の動物にもこれほどのことが出来るとは思えないとのことで、新種の動物か、それこそ化け物でもいるのではと言われていた。

そこで初めてハンスは口を開いた。


「あれやったの何?」

「妖、かな」

「そう」


協力して!


《任せろ》


アルバが短距離ワープを発動させハンスを窓の外へとワープさせる。

それによって、窓から飛び出そうとしていたハンスによってガラスが割られずに済んだ。


「ありがとアルバ」

「ううん、間に合ってよかった」

「ねぇ、大丈夫なの?彼」


いつの間にか起きていたカラミティが、あくびをしながら訪ねる。


「大丈夫だよ。兄さんは人以外が相手なら、特に人に害をなすような奴が相手なら、とんでもなく強いから」

「ふぅん」


その答えに興味を失ったように返す。


「あれ?ちょっと待て」


何かに気付いたのか、アインスは首を傾げベッドから降りてパソコンを起動する。

しばらくすると一言「やっぱりか」とつぶやいた。


「なんも大丈夫じゃねぇなこれ」

「え、なにが?」

「まだ早朝だからあんま件数ないが、それでも京都での目撃情報が圧倒的に多い。京都から離れるにつれ大体のところは少なくなっていってる、例外はあるがな。一番多いのが京都、なぜか四国が二番目で、北海道が三番目、残りは京都から順番にって感じなんだが、問題はハンスがどこを目指しているかだ。四国に行くぶんには問題ないんだが、京都と北海道はまずい。京都で質の高い妖がいるとこは何処だねアルバ君」

「え?……っ!妖組」


突然振られて驚いたがアルバは答えた。


「正解。あそこには酒呑童子によくわからん奴、妖でなくとも人ならざる者達がうちより多くいるだろうね。その上、下っ端構成員のほとんどが妖だ、つまり、京都に行くと強い奴らが数の暴力してくるから死ぬだろうね。では北海道、これはたぶん妖じゃなくて魔術師だ。なんぞ生贄でも欲しかったんかね、でも魔術師だから、人が人を殺してるならハンスもいかないだろう。もし行ったら、あそこのトップは壊れてるらしいから、問答無用で殺されるかもね。四国は……どうでもいいかな、まぁ気になるのは、京都が原因で妖が暴れてるのに、なんで離れてる、それも海を挟んでる四国で妖が活発に暴れてるんだろ程度には思うけど、情報不足だしあんま興味ないから無視、それにハンスも四国行くつもりでも京都を通ることになりそうだし、四国は今はいっかな。ってことで君はどうすんだ?アルバ」

「それは俺に兄さんを連れて帰って来いって言ってるの?」

「あぁ」

「無理だよ。勇者として本気で戦ってる兄さんに俺は勝てない」

「それはハンスが、勇者だからかい?」

「……あぁ」


ニコッと笑ってアインスは言う。


「ならアドバイス、アルバ、ハンスはお前の兄だぞ」

「……!混ざってるのか。お前、どこまでわかって」

「ふ、お前が想像してるよりは」

《そこの知れぬ男だ、我ですらその心の内を探れぬとは》


君に無理なら俺にも無理だな。


「京都か。わかった、連れて帰ろうとは思うけど、連れて帰れるかわからない、俺優しいから」

「知ってる、初めてお前を見た時から、優しすぎる奴だって思ってた。まぁ俺からの要求は一つだけだ、二人で生きて帰って来い、わかったら行ってらっしゃい」

「あぁ、行ってくる」


アルバは外へとテレポートした。


《……》


どうしたの?


《お前が気にするようなことではない》


そう、ならいいけど俺と君は一心同体、あんまり一人で抱え込まないでね。


《あぁ、わかっている》


空中で消失と出現を繰り返す。


京都まで行ってたらまずい、ホントに戦うことになる。

いない、いない、いない……どこにもいない。

もう京都についてたりして。

道中妖などは見かけなかった、今だってそうだ、敵を倒しながらでこれほどの速度で移動してるとか我が兄ながら気持ち悪いな。


《なんだこれは》


なにが?


《お前の兄とは別の者が妖を倒している。それも、おそらく妖の手で》


同族殺しがいるってのか?


《あぁ》


それって、協力関係になれる奴がいるってことだよな。


《そうかもしれぬが、あまり期待するなよ》


ん?まぁわかった。


京都上空から街を見下ろす。

探し人のハンスがいた。


やっぱ京都までついてたか、って誰かと戦ってる。


《な、アレと戦ってはだめだ、お前の勝てる相手ではない、逃げろアルバ》


兄さんは勝てるの?


《勝てぬ》


なら、アレを倒すしかない。


《無茶だ、アレを倒すなど》


何でアレをそこまで恐れてる。

俺からしたら大して強いようには見えない。


《アレは強い、我の眼でその本質を捉えられないと言うのは我を圧倒するほどの強者であるということだ。それすなわち、どうあがいても勝てぬ相手である》


そう、でもさ、それを聞いたらますます兄さんを一人で戦わせるわけにはいかなくなった。

俺に死んでほしくないなら、協力してアレを倒すしかない、わかった?


《……あぁ、わかったとも、お前はどうしようもない奴だ、本当にどうしようもない、我がいなければ何もできぬ小童だ、我も協力しよう、アレを倒すために》


ありがと、それじゃぁお前は、アレを殺す算段を立てて。

あとは、演算頼むよ。


《任せておけ》


アルバは地上へと転移した。


「兄さん、あれから逃げるってのは考えてたりする?」

「人を護るのが勇者だ、アレから逃げるなど言語道断、アレを倒さねば人は護れない」

「わかったよ。兄さん、俺も協力する、一緒にアレを倒すよ」

「あぁ」


人類の護り手たるアルバとハンス対実像すらつかめぬ人ならざる者との戦いの幕が上がった。

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