妖組の日常
和室で胡坐をかき、組長は報告の確認をする。
「相手の能力は消滅なのかい?」
「そう思うが、消すために何らかの手順をふむ必要がある…と思われる」
「その根拠は?」
「剣や魔術は、奴の支配する空間内に、入った瞬間消滅したが、俺は消されなかった」
「つまり、情報を解析しその情報を消し去る能力、これであってる?」
「あぁ」
「ふーん、じゃあ君が消されなかったのは情報量が多く、解析されるより先に逃げられたからってわけ」
「おそらくは」
「了解。君は剣での近接戦が主体だから、彼には近づかないように。もう行っていいよ」
「わかった」
そう言って、イザヤは部屋を出ていく。
会話をしているとき、イザヤは不自然だった。
と言っても、普段のイザヤを知っていても気づけない程度だったが。
いつもよりほんの少しだけ、表情が硬くなっていた。
理由は簡単で、いつも以上に周りの音を拾い、何かを警戒していたからだ。
そして、早くこの部屋から退出したそうだったので、頭領は自分の口から予測を話し、報告を早めに切り上げたのだ。
イザヤが警戒する、そんな相手はあまりいない。
この屋敷にいる者の中には二人だけ。
組長であるクロと、今まさにこの部屋に向かってきている者の、二人だけ。
扉を開け中に入ってる。
「クロー」
清らかで女性らしい、それでいてどこか色っぽい声で組長を呼ぶ。
その女性は、服とは呼べない、半透明の布、そう呼ぶのが適しているであろうそれを、ただ羽織っただけの、ほぼ裸の状態で宙に浮きながら入ってきた。
中に入ってきた者、その姿を見て、組長は頭を抱える。
「あのさぁ、ずっと言ってるけど、服を着てくれ」
「着てるわ」
心外そうに羽織っている布をひらひらとさせる。
それは、着ていると言わないだろ。
でもまぁ、裸だった頃に比べればマシにはなったが
「はぁ、それを服と認めてやるから、下着をつけろ」
「いやよ、あれ窮屈だもの」
まるでそれが当然のように拒否した。
そうだよな~、服を着たがらない理由も服が重いからだったし、嫌がるよな~
「それじゃぁ、男が素っ裸で歩いているのを見たらどう思う」
「細切れにするわ」
そういうことじゃないんだけどなぁ、まいっか。
「なんか違う気はするが、それがお前を見たほかの奴らの反応だ」
「私を細切れにしたいと思ってる方がいるの?」
何かめんどくさくなってきた
「そう、そういうやつがいるから、下着をつけて」
「私のほうが早く、細切れにできるわ」
そこじゃないんだよ
「あ~えっとじゃあ、裸のお前を見て欲情するやつがいる、お前も犯されたくないだろ」
「そんなやつ殺すわ」
どうすりゃ良いのこれ、もうわかんない。
「じゃあえっと、俺が裸で歩いてたらどう思う」
「欲情してしまうわ」
自分の発言で何かに気付いたのかハッとしている。
「そういうこと、私に欲情しているのはあなただったのね。それならそうと早く言ってほしかったわ。さぁ、寝室へ行きましょう」
「行かねぇよ」
「あら、ここでがよかったのね、我慢できないの?それとも、そういうプレイがお好み?」
「ちっげーよ、そういうのはあとだ……って違うそうじゃない。今は戦いで忙しいからまたこん、ど…あーあれだ、酒呑童子、かえっていいぞ」
「わかりました」
そう言って、先ほどまで空気だった酒呑童子は部屋を出る。
部屋の中は二人きりとなった。
「イチャイチャするのは今度な、それで何の用だ」
服を着せるのは無理だと諦め、ここに来た理由を聞く。
「あぁそうだったわ、料理を作ってきたの、お好み焼きよ」
その上品な言葉使いからは想像できない庶民的な料理名が飛び出してきた。
……先ほどまでの会話とその服と呼べない服のせいで上品さなどかけらも感じさせないが。
「けれどこれは、もう食べる人がいないわね」
「ん?なんでだ」
「私は魔女よ」
その一言で理解できた。
恐る恐る聞いてみる。
「何が入ってる」
「媚薬」
ふむ、どうしよう。
酒呑童子を帰らせたのは失敗だったな。
いや、まだ食わせられるかもしれない。
うん、いけるな。
「酒呑童子に食わせる、油の用意をして」
「わかったわ」
縁側から外に出る。
転がっている岩を二つ、間をあけて並べる。
その上に今しがた創った妖刀を石の上に置く。
妖力を込めるとその刀身が熱を帯びる。
次にナイフ、フォーク、鉄串を作る。
ドロシーの持って来た油を妖刀にかけ、お好み焼きは一口サイズに切り分ける。
油が薄く広がったのを確認し、熱々の鉄板ならぬ熱々の刀身で、お好み焼きの断面を焼いていく。
焼きあがったものを、串に刺してソースをかけたら完成。
串に刺さったお好み焼きを手に持ち、クロはとてつもない速度で移動する。
玄関にいた酒呑童子の口に勢いよくそれを突っ込む。
酒呑童子は、間一髪のどに刺さる前に串を噛んで止めた。
状況が理解できない酒呑童子だったが、口に入ったものが美味しかったため、口に入ったものを食べる。
「これなんだ?」
「お好み焼き串?」
「何で疑問形ってのはいいとして、味はうまいから、次は急に突っ込まないでくれ」
「わかった、次があったらそうしよう」
お好み焼き串を食べ終えた酒呑童子は、首をかしげる。
「なんかこれ、変な感じがするんだが、毒でも入ってんのか?」
「毒~…でいっか、うん入ってるよ、媚薬」
「やっぱり、毒が効かないからいいけど、他の奴には毒盛るなよ」
その言葉に目をそらす
「いや、その~、申し訳ないんだけどそれ、魔女の作った媚薬っていうか~」
「まさかお前」
先ほど毒が効かないと言っていた酒呑童子に焦りが生じる。
「ごめん、俺の妻が作ったやつだ」
「魔女の薬って、マジもんのやべー奴じゃねーか」
「そや本業だしね」
「おい、なんでんなもん食わしやがった」
「えっと、最初は俺に食わせる予定だったらしいんだよ。ただ俺が、後で相手するって言ったから、薬で理性飛ばして襲わせる計画を止めにしたらしくて、俺に食べさせたくなくなくなったらしい。かといってあいつが食べたら俺が襲われるからそれもダメってことになって…君に食わせた」
・・・何言ってんだこいつ
「おかしいだろ捨てろよ」
「捨てるのはもったいないっていうかさぁ」
「犠牲者が出てんだよ」
「まだ出てないよ」
「これから出る時点で大問題だ」
「それはそうだけどさぁ」
組長は笑う。
見たものが恐怖するような笑顔。
「暴走する君を殺すシナリオも面白そうだなって」
全身の毛が逆立つ。
心が、身体が、逃げ出したいと叫びだす。
酒呑童子も笑う。
その言葉の意味が分かっているから。
「それは困るなぁ。意地でも…気合で何とかしなきゃだ」
深呼吸をして胸を押さえる。
肉体に影響を与える能力や魔術は、それを上回る力があれば打ち消せる。
しかし魔女の薬は打ち消せない、それは調合だから。
肉体に影響を与えるのは、作られた薬だから。
だから組長も自分で食べようとしなかった。
ただし、酒呑童子の持つ能力ならば、場合によっては打ち消せる。
それは、どんな能力、魔術であってもだ。
酒呑童子の妖力が膨れ上がる。
その妖力に中てられ、屋敷中を殺気が飛び交う。
それをものともせず、薬の効果を自分の力で抑え込み、そのまま消し去った。
酒呑童子はかなり消耗しており、息を切らせている。
「今度からはこんな無茶な真似させないでくださいよ」
殺しても面白いかもと言われていたにもかかわらずその顔は笑っていた。
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