情報収集
畳の上で暇そうにごろごろしている者がいた。
「クロ、そろそろ命令を出すなり何か行動してくれ」
クロと呼ばれただらけたそれは、めんどくさそうに話しだす。
「だってさ~、初日にさ~、襲われたから期待してたのにさ~、何もないんだもん、嫌になっちゃうな~もう」
無駄にため息をはさみながら話したと思えば部屋の隅に転がって移動する。
「あ、ここ涼しい」
なんか言ってる。
「はぁ」
ため息がうつった。
咄嗟に口に手を当て、咳払いしてごまかす。
「それは当然でしょう、クロが相手なのだからやってくるのは捨て駒だけ。そのうえ今回は、クロが望むような強い相手は、捨て駒に使っては敗北につながってしまうので、送れるわけないだろう」
それを聞き壁の方を向いていたそれは、振り返り笑って言う。
「いいこと思いついた。イザヤを呼んで」
いいこと、クロはそう言ったが、確実に悪いことだ。
ただ今回その悪いことに自分が関わらなさそうなので、素直に了承する。
「了解です」
そう言って部屋を出る。
しばらくすると男を連れて帰ってくる。
「何の用だクロ」
男は馴れ馴れしく仰向けで寝ている組長に話しかける。
天井を見ながらクロは口を開く。
「ちょっと殺してきてほしい奴がいるんだよね」
「わかった、どこの誰だ」
即了承する。
これがここでは普通だった。
戦闘が好きで好きでたまらない奴ばかりだから、殺しだとかは大歓迎なのだ。
と言っても、即答した男は別に、殺しも戦闘も好きではなかったのだが。
「あ~……どこだろ、だれかってのは内緒。鎧着てるやつを連れてるからわかりやすいと思う」
うめき声をあげながら考える。
体をくねらせ「どこだろ~な~」と声を出す。
何かわかったのか、動きを止める。
「人多い場所嫌いで、自然が好き、というか森が好き…誰もいない森にいる。屋久島…かな」
頷きイザヤを見る。
「屋久島でツアーとかで通らない場所、見えない場所にいると思う。そこにいなかったら、白神山地とか行ってごらん、日本国内の森林にいるから」
「了解。行ってくる」
そう言うと目の前の空間に穴をあけ入っていった。
空中に穴があき、そこからイザヤが落ちてくる。
ここで間違いない、地図で見た形状と一致する、屋久島だ。
あとは標的がどこにいるかだが。
――——!
どういうことだ。
屋久島には観光客がいるはずだろう。
何故会話が聞こえない、ガイドはついていないのか。
そもそも、なぜ足音がしない。
いや、二つ確かにおそらく人の足音がする。
片方からは金属同士がぶつかる音がしていいる。
なら標的は鎧を着てないほうで間違いない。
間違いないのだが、異常だ、なぜ人がいない。
時間的にやっていないとかか?
だがなぜキャンプ客もいないんだ。
これ以上考えても結論なんか出そうにない、偶然と納得しておくか。
考えをまとめ標的を仕留めることに集中する。
落ちていくイザヤの下に穴があき、その穴に飲み込まれる。
地面に穴があき、そこからイザヤが現れる。
距離およそ百メートル、イザヤなら気づかれるより早く仕留められる距離だ。
いつから持っていたのか、漆黒の剣を構え狙いを定める。
イザヤは地を蹴った。
如何な達人であれど、その動きを捉えられない。
極限に至るため、裏社会に足を踏み込んだ者達、彼らですらその動きは捉えられないだろう。
イザヤの動きを捉えられるのは、極限のさらに先、人智を超えた化け物たち。
殺し屋ギルド、英雄騎士団、妖組、その幹部連中くらいなものだ。
そして、幹部連中ならば捉えることはできるだろうが、それに反応できるものはもっと少ない。
まして、不意打ちならば反応できるものはいないだろう。
左足が相手の間合いに、支配する空間に入り込んだその時、全身を恐怖が襲った。
この場所にいてはいけない、ここにいたら消されると本能が訴える。
咄嗟に距離を取る。
二百メートル、最初ここに来た時感知されないであろう距離、その倍離れた。
なんだ今の。
死ぬ、そう確信した。
自分より小さい少年に殺されると、そう本気で思った。
少年がこちらを向く。
「君は誰だい?」
神経すり減らして今の状況を整理しどうするべきかを考えていたイザヤに、その言葉は届かなかった。
勝てない。
どうする、というか俺が勝てないうえで俺が会ったことない奴は……俺がここまでやばいと感じた時点で答えは出てる。
ようやくクロが俺に行かせた理由が分かった。
確かにこんなの相手じゃ送られた奴は捨て駒だ。
これってつまり最近目覚めたばかりのこいつは、情報がほとんどないから俺が情報を集めに行かされたのか。
確かに俺なら危なくなってからでも逃げられる、格上相手にはもってこいなわけだ。
さぁ、無茶してみようか。
「君は誰?」
今度は聞こえる、ハッキリと。
「誰でもいいだろ」
名乗らない。
空中に無数の穴があきその中から剣が少年に向かって飛んでいく。
そのすべてが、少年に近づいただけで消滅した。
その距離約十メートル。
はは、本能は優秀だな、あそこにいたら消されてた。
さて、専門外だが魔術でも使うか。
物質は消せるようだが、魔力は消せるのだろうか。
陣が展開されていく。
「赤く、紅く、炎よ燃えろ」
炎の魔術が真っ先に浮かぶなんて、あいつを意識しているみたいで最悪だ。
「その命に、苦しみを、その命に、絶望を」
四つの陣が重なる。
「その業火にて、世界を焼け」
陣を炎が奔る。
「リバース」
陣から炎が飛び出す。
炎は少年を包囲し高く高くとぐろを巻く。
逃がさないように、逃げられないように。
そして炎は、上からとぐろの中へと入っていく。
逃げ場なき敵を焼き尽くすために。
中の様子は見えないが、その炎は跡形も残さず消え去った。
ふむ、魔力を媒介とした炎だったが、消されるか。
物質、魔力とダメだったのなら次は概念だ。
集中しろ。
正体隠したままこれ使うのなんて普通できないんだから。
それに今の俺が使えるなんて普通ありえないのだから。
かなり無茶だがやるんだよ。
だって最初に決めたのだから、無茶をすると。
手を上げ、振り下ろす
「ホーリーレイ」
葉に覆われ、薄暗い森の中に、一筋の光が差し込む。
それは天からの光、何者であろうと遮ることの出来ない聖なる光。
その光は、すべてを浄化する。
何もかもを、消し去るという形で。
「―———」
誰にも聞こえないような小さな声で少年はつぶやいた。
耳のいい、イザヤはそれを聞き取った、自分の正体に気付いた少年のつぶやきを。
ばれた、それに嫌な予感がする。
咄嗟に持っていた剣を少年に向かって投げる。
剣は先ほどよりも少年から離れた位置で消滅する。
やっぱりか、奴の空間が広がっている。
どこまで広がるかわからない以上逃げるしかないな。
後ろに穴をあけ、そこに飛び込む。
上空に現れ周りを確認する。
すでに光は消されていた。
あの光を消すとなると、情報子を消してるのか。
解析して相殺する、そのほうが正しい気がする。
情報量の多いものならば解析までの時間がかかる。
だから俺は入った瞬間に消されなかったのか。
とりあえず報告に帰るか。
その時、北東にまばゆい光が見えた。
これは…フレイか。
光は飛んできた方向へと帰っていった、飛んできたとき以上の速度で。
フレイ、お前も俺みたいに情報集めにでも行かされたのか。
幹部の中で一番強いってのも困りものだよな、規格外の相手をさせられるんだもの。
そんな風に、自分と似た扱いをされているフレイの好感度が少し上昇したが、どちらかというとかわいそうにという思いが強かった。
なぜなら場所が場所だから。
攻撃対象が、東京だったから。
そこにいるのは格の違う化け物だったから。
そんな風に、フレイに同情しながらイザヤは帰っていった。
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