能力「反転」

「アルバ、仕事の時間だ」

「了解。行ってくるよ」


行ってきますのキス、新婚特有のこういうの見られながらもするのかすごいな。

というか舌入ってるよなあれ、アルバは驚いてるから、リブからか。

見てるの辛いんだが。


それは完全なブーメランで、普段皆が思ってることを初めてシナーも思ったのだった。


「イチャイチャしてるのは結構だが、急いでくれよ」


もう見ていられないと、部屋から出て一階へと飛び降りた。

ボスに忍び寄る影。

後ろからボスの眼を手で覆い耳元で囁く。


「だ~れだ」


耳に残る可憐で澄んだ声がした。


「久しぶりキャロル」

「正解よ」


振り返るとそこには、ころころと笑う可愛らしい少女がいた。


「もういいわよジャック」


そう言われキャロルを腕に座らせ落ちないように支えていた、ジャックと呼ばれた者は、キャロルを地面におろした。


明確な殺気。

逃れられぬ恐怖が、ジャックを襲った。


「行っていいよ」


動けるならね、という含みを持たせそう言った。


「シナー」


キャロルに名を呼ばれ、殺気を放つのをやめる。

跪き動けずにいたジャックは、すぐさま逃げ出す。


「あなたが怒っているように、私も怒っているのよ」

「すまなかった」


咄嗟に謝った。


「なんで私が怒っているのかわかる?」


笑顔だが、目が笑ってない。

こわい。


「えっと…あれだあれ、そうその~…ジャックに嫌がらせを、違うんだな分かった。えっと……そうだな、あ~久しぶりに帰ってきたのに会いに行かなかったからだな」

「違うわ」


あてずっぽうで、必死に怒っている理由を当てようとするが、無情にも否定される。


「あなた、面をつけたでしょう」


離れたところにいるソルトを見る。

首を横に大きく振っている。


「なんで……わかった?」


隠し通せる気がせずあきらめた。


「だって顔の上半分だけ焼けてなかったんだもの」


もう一度ソルトを見る。

またも首を横に振る。

ソルトが気付けなかったのではもう、キャロルが異常なだけだ。


「約束したわよね、面は私がつけるって」


嘘など初めから通じなかったのだ。


「悪かった、僕の持ってるスペアも渡すよ」

「よろしい」


先ほどとは違い本当に笑顔だった。


「それじゃあ、今度こそ私が」

「あぁ、今度こそ君につけてもらうよ」


そう言い、キャロルの手が届くように跪き目を瞑る。

キャロルが持っていた面をシナーにつける。

面は暖かかった。


「ふふっ、私のぬくもりよ。肌身離さず持ってたんだから」


なんだかいやらしく聞こえるというか、いやらしいというか、そういうとこよくないと思うが。

好きになった時点でもう、この愛が心地いいんだ。


エレベーターからアルバが降りてくるのが見えた。


「それじゃあ行ってくるよ」


キャロルの額にキスをする


「僕の愛する人」

「ええ、行ってらっしゃい。私の大好きな人」


外へと歩き出す


「ジャック、メイジー、ロビン」


呼ばれた三人が瞬時に現れる。


「キャロルの護衛を任せる」

「御意」


命令を下し外へ出た。


目的地は地獄。

楽しい旅の始まりだ。




歩いていたボスの横に、突然アルバが現れた。


「なんで置いてくんだよ」

「おそいから。どうせ付いてこれるだろうし」

「まあそうだけど。それでどこに行くんだシナー」


歩きながら二人は会話する。


「旅をするんだよ。目的の鳥居を探す、旅をするんだよ」

「鳥居ってなんだ」

「知らないだろうから、これから一基見に行くよ」

「ん」


近くの神社に行き鳥居を見せる。


「何色だ」

「赤…いや朱色か?」

「細かくは聞いてないから別にいい。まぁ赤だ。これから僕らは日本を旅して、黄色か青色の鳥居を探す」

「ふーん、鳥居ってのにはいろんな色があるんだな。日本を旅するってどれくらいかかるんだ」

「鳥居の色は五色くらいあったかな。ただ、僕が探してるのは特殊な鳥居だから別の色の鳥居じゃなくて、人によって違う色に見える鳥居だ。それと期間は気にしなくていいよ」

「ふむ、確かにそれは特殊だな、探すのが大変そうだ。期間を気にしなくてもよいと言うが、早く帰れるに越したことはないだろう、さっさと行こうシナー」

「ああそうだね、さっさと行こう、あっそうだ、忘れるところだった。ギルドに入った祝いだ、受け取れ」


ボスがアルバに触れる。

その瞬間体に力が流れ込んできた。

アルバは膝から崩れ落ちる。

辛うじて意識がある状態で、倒れないよう必死に体を支える。

何かがせりあがってくる、我慢ができず吐く一度吐いたくらいでは足りずその後も数度にわたり吐く。

最後には大量の血を吐いた。

吐いた後も咳をする度喉に絡まった血が口から出る。

呼吸がとても荒いが、ようやく口から何もでなくなる。


「これはグロイな」


そうつぶやいたシナーが、アルバの腕をつかみ人のいない路地裏に放り投げる。

路地裏で地面に倒れうめき声をあげる。

肌がただれ骨が見える、その骨も崩れ始める。

アルバは動かなくなった。

動かなくなった時には骨も肌も、すべて治っていた。


「そろそろかな」


またも、ボスはアルバに触れる。

しばらくするとアルバが飛び起きる。

起きたアルバは自分と周囲を確認する。


何が起きた。


《肉体の再構築が行われた》


それってどういう意味?


《今の数分のうちに、お前から三大欲求などが消えている》


どんな魔改造されてるの。


《食事・睡眠・性欲・排便・疲労などなどいろいろとあるが、何より…寿命が消えた》


え、子供作れないのか。


《三大欲求に関しては、腹が空かないだけで食べられる・眠くないだけで寝られる・子孫を残そうという本能はないが子供は作れる》


良かった。

ずっとずっと続いているこの血を、絶やしたくなかったから。

それに子は親に似ると言う、俺とアルトの子はきっととんでもない魔術師になるよ。


《そうだろな、その眼と二人の思想を受け継げば、魔術を何世紀分も発展させられるだろうな》


ああそうだな。

でも子供が作れるようで安心したよ。


目を瞑り自分の中にいる者と話していたアルバが顔を上げる。


「確認は終わったか?」

「ああ、問題ない。それで、お前の能力はなんなんだ」


不敵な笑みを浮かべシナーは答える。


「僕の能力は…死を付与する能力だ。わかりやすく言うなら、僕の意志一つで生き物はもちろんのこと、植物も、自然も、それこそ惑星ほしだって殺せる」


驚愕した。

ギルド内をうろつき能力についてわかってきていたから、あまりにも強大な能力ちから、普通なら暴走するような能力を完璧に制御しきっている。

その事実に驚愕した。

だが、その能力では肉体を改造することも、まして生き返らせることなど不可能だ。


「もう一つの能力はなんだ」

「反転、それが僕のもう一つの能力。と言っても能力ではなく、能力のようなものだけどね」

「?」


まあそうだよな、わかりずらいよな。


「反転、有るものを無くし無いものを有るとする」


ひどい説明だ、だが続けよう。


「生と死は対とはならない、魂が消失することを死と呼ぶ。魂が無い、それを有るとするならばどうなるか、簡単だ、だれともわからない魂がその肉体に宿る。つまりは、中身が別人になるんだ。これを回避する方法簡単、死神が魂を回収する前に蘇生すればいい、まだ魂がそこにあるからね。これが今君が生き返った方法だ。まぁ、回収されてないから、死んで無いんだけどね」


死神はいるのか?


《いる》


魂の回収が仕事であり、殺すことは仕事ではないのか?


《そうだ》


今ので生き返れるもんなのか?


《可能だ、証拠はお前だ》


お前が言うなら間違いはない。


「それで能力のようなものっていうのは」

「それはいい」


ボスの言葉を遮る。


「気にならないの?」

「時間がないんだろう」

「そうだね行こうか」


道に出るとボスは走り出した。

アルバはボスの後を追う。


これは肉体改造されてなきゃついてけなかったな。

それであれだけ無理やりやったのか。


二人はとてつもない速度で、目的の鳥居を探して駆け回った

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る