開戦
「アインス邪魔するよ」
入ってきた男は、部屋の中を見回すと。
「…忙しそうだから今度にするよ」
何かに気付いたのか逃げるようにして部屋を出ようとする。
「待て待て待て待て待て、これのどこが忙しそうだって?」
画面はすでに、ビル内の映像から幼女の画像に切り替わっていた。
「ごまかせないでしょ、今新人があいさつに来てる上に、監視カメラのハッキングがまたばれて怒られるんでしょ、俺まで巻き込まないでよ」
たった数秒でどうしてそこまで理解できるのかが、アルバたちにはわからなかった。
「お前も協力していたのか」
シナーが男を疑い始めた。
「ちょっとお前のせいであらぬ疑いを」
視線の先、アインスはにやにやと笑っていた。
アインスによってはめられたのである。
「疑わしきは罰せよ、だよな」
笑いながらシナーが歩み寄ってくる。
もう逃げるしかない。
ドアを勢いよく開け、外に飛び出す。
「親友、俺を裏切るのか」
「共犯者に仕立て上げようとする親友なんて俺にはいない」
廊下に声がこだまする。
シナーから逃げ切れるわけもないのに脱兎のごとく走る男。
シナーがドアを開けてから、ドアが閉じるまでの間に、男を捕まえ、シナーは帰ってきていた。
ドアは閉まることなく再び開けられた。
男は部屋の中に放り投げられる。
「座れ」
シナーの一言で、二人は床に正座で座った。
「ゆるせ
アインスは隣の男に堂々と胸を張って言った。
「ほんとにやってくれやがったな、というか許しを請うなら少しは申し訳なさそうにしやがれ、このロリコン」
ロリコン、その単語に反応したのは、アインスはもちろんのこと、
カラミティ、そしてシナーまでもが反応したのだ。
皆反論があり喋ろうとしたが、やはりシナーは早かった。
「ロリコンじゃない!」
失言した。
ロリコンという単語に対する異常な反射速度と否定の言葉、これではまるでロリコンだ。
皆にロリコンだと思われる、そう思ったシナーだったが、それは杞憂に終わった。
アインスが庇護したのである。
だがすでにシナーがロリコンなのは周知の事実のとなっていたので、今更ではあった。
「その通りだ、俺たちはロリコンじゃない。たまたま、そうたまたま好きになった女性が、少しばかり幼い見た目をしていただけだ」
カラミティもまた、アインスの意図を汲んでかばった。
「そういうことだ、別に僕らはロリコンじゃない僕の好きになった女の子だって見た目は幼かったけど、行動の一つ一つが大人びていた、年齢はわからないけどきっと大人だったに違いない」
二人の言葉を聞き、ボスは頷き言った。
「カラミティ、実は僕は君のことも疑っていた、だが結論が出た。カラミティ、そしてアインス、君たち二人を今回に限り見逃そう」
その言葉を聞き歓喜する二人と、一人でアインスの手のひらで踊らされたと気づき絶望する者がいた。
「とまぁ、茶番はこれくらいにして彼らを部屋に案内しないとだ、どうせ君たちしか今いないだろう?」
「あぁ、皆外に出ている」
「ん、わかった」
会話を終えると、新人三人を外に出し、ボスも後に続いた。
ギルド最上階、電気のついていない暗い部屋。
シナーは椅子に座りゲーム開始を待っていた。
開始までの時間はすでに三十秒に迫っていた、三十…………二十…………十。
時計は秒針を進める、残り五秒。
椅子から立ち上がり、椅子と机を壁に向かって蹴り飛ばす。
零。
日付が変わると同時、窓を割り、武装した男たちが侵入してきた。
しかし、侵入と同時にその首は切り落とされる。
侵入時の勢いが殺されず切られた首は床を転がり壁にぶつかり動きを止めた。
殺し屋の顔が月夜に照らされる。
だれもが恐怖する笑みが、そこにはあった。
「嫌がらせのためにイリスが雇ったか」
同時刻、京都にて。
刀を差し、男は夜道を歩いていた。
日付が変わるその時を、今か今かと待っている。
日付が変わり、自分を追跡する者たちが襲い来るのを、待っている。
日付が変わるまで五秒を切った、三…二…一。
男は刀に手をかける。
零。
日付が変わると同時、屋根を飛び越え軽装の男たちが姿を現す。
しかしその者たちが地面につく頃には、その心臓は、動きを止めていた。
身体が力なく崩れ落ち、あとから首が落ちてくる。
「忍び装束ってことは、イリスの嫌がらせか。この先が楽しみだ」
男は不敵な笑みを浮かべた。
朝四時ごろ、ギルド内は大騒ぎだった。
理由はもちろん、夜中にボスが襲われたからだ。
「ボス、あなたは襲撃されることを知っていましたね」
ソルトが、シナーを問い詰める。
対してシナーは、無言で笑った。
「ボス、昨日我々に休んでおけと言ったのは、襲われるためですか」
シナーは表情を変えず無言を貫く。
「ボス、今回の相手が誰だかわかっているのですか、そんな自分をおとりにするようなこと」
今まで何も言わなかったシナーが、ここで初めて言葉を発した。
「今回の敵?わかってるとも、君以上にはね、それと囮?何を言ってるんだ、僕を狙うバカは僕の手で殺す、君たちは自分の仕事をしたまえ」
不満はあるが、ボスの決定を否定しなかった。
「わかりました。ですが、決して油断なさらないようお願いいたします」
「はいはい、わかったわかった、それじゃ誰連れてこうか」
軽い口調で言うと、辺りを見回す。
すごい勢いでソルトが言う
「でしたら私を」
「だめだ、君はうちの防衛なんだから、連れてけない」
即却下された。
それもそのはず、ソルトは自分の能力で、このビルの内部構造を変えることができるため、攻め込んできた者を、殺す役目を担っている。
私ではだめとなると、不本意ですが奴を
「でしたら……」
「それもダメ、最悪に備えてここにおいてく」
言葉にする前に却下された。
ソルトが言おうとした者はギルドにおいて、ボスであるシナーに次ぐ実力を持っている。
しかし、非常識だ、故に街中を歩かせられるわけがなかった。
「そうだ、アインスを連れてこう」
その発言に思わず反論する。
「な、アインスですか、奴には戦闘能力はない、護衛にはもっと適した者を」
慌ててしまい、いらぬことまで喋ってしまった。
「僕の手で殺すって言っただろう。連れて行こうとしてるのは護衛じゃない、話し相手だ」
ソルトに向かい、威圧するように言う。
「申し訳ありません、いかなる罰もこの身で受ける所存でございます」
ソルトは、膝をつき頭を垂れる。
「罰か、わかった」
そうつぶやき、ソルトの首を切った。
「それが罰だ、お前は今ここで死んだ、次のお前は過保護じゃないといいのだけれど」
そう言って、アインスを呼びつけ外へ出かけた。
落ちた頭がしゃべりだす。
「ボスは優しすぎる、首を切り落とすだけとは、本当にお優しい」
そう言って、首を体に取り付けた。
外に出て、もう六時間が経とうとしている。
「シナ~、歩きっぱなしでもう疲れた~」
「それもそうだね、そこのベンチに座ろうか…君は向こうのベンチに座り給え」
「あっれ~、俺そんな嫌われてたっけ」
冗談交じりに言って、アインスは少し離れたベンチに座った。
ボスはアインスが離れていくのを確認すると頷いた。
宗谷岬上空、羽を広げはるか遠くの男を見つめる者がいた。
フレイという名の、エルフ。
フレイはイリスに、遠くからシナーを攻撃しろと命じられていた。
フレイの目の前には小さな魔方陣があり、それにより千四百キロ離れたシナーを見ることができている。
「目標、移動を停止。狙撃する」
フレイの左手に弓が現れる。
弓は、植物と金属を魔術によって混ぜ合わせた、特殊な素材で作られており、色は明るい緑色をしており、ツタが巻き付いたような装飾がされている。
ツタが左手に巻き付き、フレイから魔力を吸い取る。
フレイは弓を構える。
心を落ち着かせるように深呼吸をして静かに言った。
「術式……展開」
その言葉と共に。
緑の弓は赤色に、張られていなかった弦の部分には炎が、弓には青く光る電気がつがえられている。
そして、フレイの前に魔法陣が五つが順番に展開される。
すべての魔方陣を展開し、準備が完了する。
「光よ…奔れ」
放った矢は、陣のど真ん中を突き抜け、その輝きを増しながら、速度を加速させ、空に光の道筋を残し一直線に進み続ける。
東京にて、何かが空で光っている。
とある公園めがけて、その光は落ちた。
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