開戦前2
「久しぶりだな、シナー」
高速道路の真ん中、現代社会には似つかわしくない服を着た男が立っていた。
「イリス、君が他人を気遣えるようになっていたとは驚きだよ」
気遣い?私はそんなことをしただろうか……あぁ、人払いの結界のことか。
「まさか、久しぶりに君と戦えるのでね。邪魔されたくなかったのだ」
「じゃぁ、結界の外には君の部下がいるのか」
「何を言っている。私は一人で来た、君と一対一で戦いたかったのでね」
「ダウト、君は確かに一対一で戦いたがっている。というかそれしか考えてない、だから、結界の外側に一人いるんだ。僕に頭脳戦を挑むなんて無茶だよ、今の君じゃ僕には勝てない、頭脳も、戦闘も」
「今度こそ勝つ」
次こそ勝つって考え方は良いけれど、自分を認めない限り、君は弱いままだ。
「それじゃぁ軽くいこうか」
「君が油断している間に殺させてもらおう」
重心を前に掛け地面を蹴る、その瞬間シナーの姿が消えた。
ワンアクションすらなくいくつもの魔方陣が宙に描かれる、しかし魔法は発動せず陣は消滅した。
勝負は一瞬、速度が勝敗を分けた。
イリスが地面に膝をつき、血を吐く。
イリスの耳には、遅すぎる、そう聞こえた気がした。
「君は優しいな、一撃で私が身に纏う結界を、破ることもできただろうに」
一撃で粉砕すれば、衝撃で周りに被害が出てしまう。
だから結界を壊すために何度も何度も殴った。
シナー、君は四人の実力が拮抗していると言うが、間違いなく君が一番強い。
「逃げていいよ、まだゲームは始まっていないのだから」
「また私の負けか」
「いいや、引き分けさ、勝負はまだついていないのだから」
毎回私を逃がし勝負を引き分けと言い張る、屈辱だな。
イリスは何も言わずその場から消えた。
「やっぱり、僕が後押ししなきゃかな」
そう言って高速道路を走り出した。
「ソルトー、スマホとってー」
そう言って車の上にいる者が窓の外に腕を垂らす。
「はい、どうぞ」
ソルトは車の収納ポケットからスマホを取り出し、垂らされた手にスマホを渡した。
「ん、ありがとね」
「いえ」
んじゃ、連絡しますか。
警視庁内、電話のコールが鳴り響く。
警戒しながらも男は電話を取る。
「だれだ」
知らない番号だった。
それもそのはず、シナーは電話を持っていないので他人のを使用して連絡する、そのため毎度毎度表示される番号が違うのだ。
電話の向こうから聞こえたのは、明るい声だった。
「僕だ」
「誰だと言っている」
「わかんないか、
「…何の用だ」
「話が早くて助かるよ、今僕車の上にいるんだけどさぁ」
「ほう、それ…で……ん?いやそれは、法律違反だぞ」
一瞬頭が追い付かなかった
「わかってるよ、だから連絡してるんじゃないか。見逃してってね」
「馬鹿を言うな、俺は警察だ、犯罪者を見逃すわけが」
「君の天秤はどちらに傾く?」
シナーの言葉に、見逃すしかなくなった。
「……わかった。車の上に乗っている鴉の面をかぶった男は見逃せと、伝えておく」
「ありがとね」
そう言って電話を切った。
そしてスマホをソルトに返し、鴉の面をつけた。
「そういうわけだから、車止めなくていいよ」
「了解しました」
しばらく車を走らせると、目的地である高層ビルに到着した。
全員降りたのを確認するとソルトは、「車を処分しておきます」と言ってまた車を走らせた。
「改めまして、ようこそギルドへ。僕がボスのシナーだ。よろしくね、新人君達」
そう言って中に案内する。
中は最上階まで吹き抜けになっている、一階には受付があり、女性が三名座っている。
シナーを見つけると全員が立ち上がり、「おかえりなさいませ」そう言ってお辞儀をする。
三年ぶりに帰ってきたボスを見かけると皆が声をかける、すべてに返答し終えると、アルバたちのほうを向き、話し始める。
「ゲーム開始は明日から、日付が変わると同時にスタートだ。それまでの間に無理なく会える範囲の幹部たちを紹介しようと思う」
一旦きって、上を指差し続きを言った
「まずは二十二階、居住スペースに行ってみよう」
エレベーターを使い二十二階へと昇る。
魔術師たちも、魔術とは違う力で動く物に慣れてきていた。
「二十階から二十五階は居住スペースになってる。と言っても幹部連中くらいしか住んでないからかなり空いてて、何部屋も好きに使ってる人がいたりもする。それに、基本みんなその辺ぶらついてるから、本格的に住んでるのは、全然いない」
エレベータから降り、廊下を歩く。
シナーはしきりに、天井に着いている機械を気にしているようだった。
204と書かれた扉の前で止まる。
「ここに食事の時くらいしか外に出てこない引きこもりが二人いる。残念ながら今日のうちに紹介できるのは、この部屋の二人くらいかもしれない」
そう言ってボスはドアを開けた。
ドアに鍵かかってないんだ、というかノックしないのかよ。
中にはベッドが二つ、椅子が四つ、机が二つあった。
壁際の机には、モニターが三枚にキーボードが二個置かれていた。
その机の前には、寝不足なのか目の下にクマのある男が座っていた。
そして手前側のベッドには、サメのぬいぐるみを抱き、横になっている子供がいた。
子供は起き上がると、初めて見た三人を見つめ、椅子に座っている男に向かって聞く
「このこ達依頼人?それとも新人?」
「新人だ」
なぜ俺たちを連れてきたシナーではなく、部屋にいたあの男に聞くんだ。
新人だと聞いた子供の眼が光る、物理的に、赤く。
「なら、先輩として、威厳を見せなきゃだね」
そう言うと子供は魔術を発動させようとした。
先ほどまで完全に隠されていた膨大な魔力が放出され三人は警戒する。
特別な眼を持ったアルバ、そしてその眼の力を模倣した眼鏡を持つリブは、その大魔術がいかなるものかを解析しようとする。
しかしその結果は失敗に終わった。
くそ、俺の知る術式が一つもない、古代の術式までも網羅している俺が知らないとなると…まさか別の世界の術式、それしか考えられない、が別の世界って……いや考えるのはあとだ。
アンチマジックは通じるのか?
術式がかなり違う、故にどんな魔術なのかわからないが、根底が同じだ。
だからか、同じだから別の術式だと判断できた。
もしこれが、まったく違う未知の魔術だったならば、魔術と判断できたかすら怪しい。
同じ魔術から派生した魔術ならば、少し改良を加えれば、アンチマジックは確実に通用する……理論上は。
子供に向かい手を向ける。
眼の端で同じように手を向けたリブが見えた。
ん?アンチマジックではないのか。
それどころか、その術式では、何の効果もないのでは……いやまさかその術式は、あの魔術を無効化するために一から組み上げたというのか。
そうか、アンチマジックに対する術式を同時に展開しているのか。
しかしそんな術式はみえなかった……隠蔽魔術、しかしこの眼が隠蔽魔術ごときを見破れないなんてことあるわけがない……まて、もし何重にも重ね掛けしたならば、しかし痕跡すらないとなると、痕跡を隠すために隠蔽魔術を、そんなことしても何も変わらない、だったら痕跡を残さないように努力したほうが………こんせきを、のこさない、そんなことが。
思考がさらに加速する。
なぜ痕跡が残る…術式の組み上げ…魔術の発動…魔力操作。
魔力を完全に支配しきれれば痕跡は残らないのか?
しかし自分の魔力ならまだしも、周りを漂う自然の魔力を支配しきれるものなのか?
脳内に声が響く《可能だ》と。
はぁ、そうか。
そこまで考えて、対策魔術の組み上げを行ったのか、リブはすごいな。
でも、リブの脳では足りない、だから残りの術式は俺が組むわけか。
さてやってみようか。
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