理不尽のない世界の為に貴様を殺す

赤柴 一

開戦前1

「そろそろ本名くらい教えてくれ」


男は隣の座席に座る少年に話しかける。


「一ノ瀬白は偽名だな?それに日本人というのもうそだろ?目的、これから何する気なか教えてくれ。俺は秘密が嫌いだ」


少年はくすりと笑うと煽るように言った。


「秘密が嫌いねぇ」


嘘を吐いてきた男の発言とは思えないが、まぁいいや。


「僕の名前はシナーだ。なんのためかは知らないけど、何をするかは知ってるから、ある程度は教えるよ。これから始まるのは、単なるゲームだ。世界の支配権を争ってる。が、ただ勝ちたいだけ。引き分けしかしてこなかった僕らが、初めて勝者を決めようとしただけ。自分たちの作り上げた組織を使ってね」


飛行機の中であまり会話とかしたくないから、軽いルール説明だけでいいかな。


「これは何でもありの殺し合いだ。チーム数は4チーム。唯一のルールは、チームのトップが戦闘に参加してはいけないというもの。これは、僕らが参加してしまうと、トップ以外が全員死んじゃうから。だからこういうルールが存在する」


少年は不敵な笑みを浮かべる。


「ちなみに反撃は可だ。気を付けろ、喧嘩売ると死ぬぞ」


楽しそうに締めくくり、飛行機内での会話は終わった。


飛行機を降り、空港から外に出る。

約十二時間振りの外の空気。

シナー以外の三人は、初めて乗った飛行機でぐったりとしていた。


「ボス、こっちだ」


突然大きな声が聞こえた。

声の聞こえたほうを見ると、大きく手を振っている男がいた。


……何か考えがあるんだろう。


「悪いな、待たせて」

「別にいいですよ待つくらい。でもまぁ勇者とか言うから期待してましたけど」


品定めするように体を視線でなぞる


「期待していたほど強くなくて残念です」

「……僕が君より弱いとでも言いたいのか?」

「そう聞こえなかった?」

「待って、安い挑発に乗らないで兄さん」


黒髪の男はアルバ、彼はすでに実力を認められているようだ。

そして、アルバのそばから離れない女は、アルバの妻なので特に問題ない。

だが、アルバの兄にして勇者であるハンスは、実力不足だ。

突出した戦闘力も秀でた頭脳もない、けれど彼は、僕が今まで見てきた中で最も人類を守ることを優先する、勇者らしい勇者だ。

それに、相手を敵とみなせば、ちゃんと強いはずだし。


「それは無理だ。挑発なのはわかってる、こいつは僕を弱いといった。人であるシナーが言う分には別に構わないけれど、人ではないこいつに言われたのなら僕は、勇者としてこいつに勝たなきゃいけない。それがたとえ、格上であっても」


勇者として、人ではないものに負けることなど許されない。

それ故、たとえ相手のほうが強くとも、命に代えても、勝たねばならない。


「合格だ。実力はまだまだだけど、その心は素晴らしい。ハンス君、君がギルドに入ることを歓迎する」


後ろにいた二人のほうに視線を送り


「もちろん、君たちもね」


と微笑んだ。


もう素が出てる。


「はれて試験に合格できたんだしそろそろ日本支部に向かうよ」

「たたか……うんじゃ、ないのか?」


キョトンとした顔で言う


「戦う必要はない……」


そうかこう言ったほうがいいのか


「彼は人類の敵じゃないよ」


ハンスはじっと見つめ


「ならいいや」


そう、言って力を抜いた。




車に乗り、移動を開始する。

初めての車に、三人は不思議そうにしていた。


「ソルト、そろそろ変装といてもいいんじゃない」


そうシナーが言うと、運転席の男の体が形を変えた。

それを見ていたアルバは身を乗り出して声を上げ驚いた。


「な、俺の眼には何も」


自分の眼をどこまでも信じていたからこそ、信じられないといった様子だった。


「それが現実だ。そして、これが異能の力だ。君の知る魔術とは違い、痕跡の残らないものもある。彼の能力のようにね。さて、身体の造形を変えているとき君には何が見えた」


アルバは悔しそうに言う


「形を変えていることは分かっても、それ以上は何も」


その言葉にシナーは微笑んだ。


「それでいいんだ。あれが見えてしまっては、生きることが大変になってしまうからね」

「何のことだ?」

「内緒かな」


助手席から手をのばし、アルバを撫でた。


「説明しなくていいのですか?」

「いいのいいの、君の能力って、難しい能力なんだから」

「よくないだろ。これから仲間になるんだ、能力の詳細は……」

「なんで?」

「それは……共に戦って、連携したりとか」

「ないよ」


食い気味にボスが言う


「なんでだ、仲間なんだろう?」


では、仕事の説明をしよう、と話し始める


「ギルドの普段の仕事は依頼を受ける。そして受けた依頼を達成するというものだ。まぁ、いうなれば何でも屋だ。僕もいろんな依頼を受けた。たとえば、人を殺す依頼だったり、誘拐された子供を助けてほしいというものや、法律を変えてほしいだとか、世界を救ってほしいなんてのもあったね。すべて僕は一人でやった。他の者もそうだ、依頼は基本一人でこなす。協力の機会などほとんどない」


そしてと話を続ける


「今回のゲーム。ギルドの者達は、皆自由に、勝利のために動く。協力する者もいれば、しない者もいる。つまり、今回は例外的に連携の機会が今まで以上にある。しかしソルトと君はやることがかぶってないので、協力の機会はない。そういうわけだから、能力の説明はしない。いいね?」

「いや…」

「情報は何処から漏れるかわからない」

「……わかった」

「よろしい」


何か言おうとしたアルバだったが、威圧されてしまい引き下がった。


「早く納得してもらえてよかったよ、お客さんが来たみたいだからさ」

「む、そのようですね」


言われてソルトも近づいてくる何者かに気付いた


「私がやりましょう」

「ダメ」


ソルトの案は即却下された。

ソルトのほうは特に気にする様子もなく次の案を提案する。


「では、その者たちにやらせますか?」

「それもダメ、というか僕が却下した理由は君では勝てないからだ……本気の君でも、ね」


その言葉を聞き、ソルトは敵の正体に気付く。

本気のソルトが勝てない相手など、数多の世界があれど五人しかいない。


「ボス、まさか相手は」

「あぁ、魔法使いだ」


魔法使い。

想像するだけで事象を引き起こす、実在したかすら不明の者達。


「僕がやるよ」


驚いたアルバは反対する


「無茶だ相手は伝説上の存在だぞ。確かにお前の殺気に中てられ、俺はお前を恐れた。それでも格の違いは感じなかった。だが……魔法使いは格が違う。シナーお前では勝てないぞ」


その格の違う魔法使いに、あと数十年もすればなれるであろう君が言うのか。


「大丈夫。僕、イリスに負けたことないから」


そう言ってボスは車から飛び降りた。




玉座に一人、男が座っている。


「戦いの幕が上がるか。出来るだけ、早く終わってくれるといいのだが」


自分しかいない広い部屋を見回し、落胆したように呟く。


「一人というのは、寂しいものだ」


誰もいない城で。

誰もいない国で。

誰もいない世界で。

男は一人、復讐に囚われたあの日を思い出す。

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