第67話ヴァルハラの戦士( 1 )

零士は武田梨沙の携帯番号をタップする。いつなく緊張する零士。

すると3コールめで反応が出た。

「あ、あの…武田です。その…霧島さんお久しぶりです」

(そんなに間は空いてない筈なんだが。そうか、やはりサネみたいにマメな男がモテるんだろうな)


「ああ、武田さん。実は込み入った話しがあって。今時間大丈夫ですか?」


「あ、はい。後少しで会議が始まるので、10分位なら」


「それで充分です。実は仕事の都合で急に日本を出る事になって、シンガポールに移住する事になったんです。それで挨拶しとかなきゃなって」


「えっ!?霧島さん海外に引っ越すんですか?」


「はい。どれくらいの期間になるか分からないけど、暫くは。でも日本には妹もいるし、友人もいる、武田さんも。だから戻って来ます、必ず」


最初は余りに突然過ぎて動揺した梨沙だったが、戻って来ると言う零士の言葉に落ち着きを取り戻す。


何より、戻る理由に自分も含まれている事が嬉しかった。


「突然過ぎて驚きました。でも、仕事の都合なら仕方ないかなって。私なんかに気を遣って貰って、寧ろ申し訳ない気持ちです」


「ああ、いや、そんな事は」


2人のやり取りを側で聞いていたゲンは、内心もどかしかった。

(なんだか他人行儀でモヤっとするな。知り合ったばかりにしても、お互い好意があるんだろうが、もっとハッキリ言ってやれよ)


彩の方は黙ってはいるがイライラが顔に出ている。(あーもーイライラするー!何やってんの!)


そんなゲン達の視線に気づいた零士は。

(なんだ?ゲンさんも彩もイライラしている顔つきだな。あまり時間かけるのも良くないか)


「武田さん。そろそろ時間みたいです。落ち着いたらまた連絡します。必ず」


「あ、はい。またいつでも」


「それじゃあ」


「はい」

零士はゲンと彩の方を向き。

「良いのか?」



「ああ、よし、行こうか」


「そうだな」


「ええ、急ぎましょう」


車に乗り込む直前零士は、ふと戦闘が起きた時の事を思い単眼鏡を装備の入った袋から取り出す 


(現役時代に使っていたが、今回は持っておこう)


それに気づいたゲン。

「随分懐かしいな、確かブラジルの時に初めて使ったっけ。武器の長物はヴァルハラみたいにヘッドレストを持ち上げると銃が収納されているが、まさか戦闘にはならんだろう。何より目立つからな」


「そう願っているよ、ただ、なんだか妙に心がザワつくのさ。持って行くよ」



零士と長門がそれぞれ運転する車、2台の前後には護衛の車が1台づつ。周囲を警戒しながら空港へ進む。


その車を遠巻きに後方から監視する3台の高級オフロードカー。

その先頭車両の助手席に座る男が反応した。

「出たか、やはり竜星会が混乱している今だろうとは思っていたがな。さて、隊長に連絡だ」


スマホを取り出すと。連絡先からRDと書かれた文字をタップ。直ぐに反応が出る


「俺だ。零士達が動いたか?」


「はい。2台の車に分乗する形ですが。それを護衛の車が前後に1台づつ。前から2台目に運転士と霧島零士が、その後ろに仲間の例の2人を氷室の組幹部長門が運転する車に乗っています。どうしますか隊長?」


「そうだな、恐らく襲撃を受けるだろう。ドノバン」


「なんでしょうか?」


「いいか、もし零士達が襲われる事があれば、何を置いても零士達を護ってやってくれ」


「えっ、霧島達を護るのですか?」


「そうだ。零士達は日本政府内部の重要人物から何度も殺し屋として依頼をこなしている事は説明しただろう。

 これはロシア大使館に対するカードであり、日本政府に対するカードにもなる。頼んだぞ。俺もそちらに向かう」


「はぁ、そう言う事なら了解です。えっ、隊長が!?」


「そうだ。重要人物だからな。零士達を襲うヴァルハラも本気で来るだろう。俺達の仕事は実質終わった、後はクライアントが仕上げをするだろうさ。 

 部隊全体が日本から脱出する事になるが、上手く行けば南の島でバカンスだ。相手はヘリを使う筈だ、銃火器の使用も許可する。着かず離れず頼んだぞ」


通話が切れた後、不満をぶち撒けるドノバン。

「チッ、全く運の良い奴等だ!まさか護れとはな。しかし隊長の命令なら仕方ない。後を追うぞ!」


だが、零士達を監視しているのは、彼等だけではなかった。

「こちら山猫、アルファー応答せよ」


「こちらアルファー隊。動いたか?」


「ああ、4台の車に分乗して移動を開始した。2台目に運転士と霧島零士。3台目に源啓一と伊崎彩を確認。運転しているのは赤龍会幹部の長門、指示を乞う」



「了解した。追跡を開始してくれ。此方はヘリを使う。クライアントから許可は降りている。GOサインが出れば発砲も許可する」


「手筈通りか、了解。追跡を開始する」



ホテルラングウッド

「ロウ隊長。霧島零士達が動いたと山猫から報告が。先行しているジョナサン達をヘリで追跡させます」


「そうか、今がチャンスだろうからな。分かった。俺達も行くぞ」


側に居たウルスラが反応する。

「えっ?ちょっとロウ、零士達を追うの?それに、この重装備って、今竜星会を襲撃している武装集団と戦う為じゃ…」


「それは別の隊がやる。行くぞ、先を越される訳には行かないからな」


「ちょっと待ってって!まさか零士達を撃つの?」


数秒の沈黙の後、ロウは口を開く。

「そうだ。お前もアルファー中隊だろう。任務を忘れるな。クライアントからの指示には零士達の殲滅も含まれている」


「えっ、なんでさ!?」


「そう言う命令だからだ。零士達もテロリスの一員だ。そこを退くんだ」


「何でテロリストになるの?」


「全く、呆れたな。会議で話しを聞いてなかったのか?零士達は竜星会お抱えの始末屋だ。殺しをしていたんだ。危険因子なんだよ」


「そんな…零士やゲンさんに彩まで…」


うつむくウルスラを他所に、ロウは扉を開ける。各所と連絡を取りながら、内心疑念を感じていた。 


(竜星会はめられたんだろう。しかし、零士達をテロリストにして始末を俺達にやらせるとは、この国の内側も他と変わらずって事か)


部屋を出ようとするロウ そこにスマホの着信音が響く。

「誰からだ?…これは…」

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影の国のアサシン ROI @roideena

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