第66話言えない気持ち

千葉県木更津市 世界平和統一教会日本支部ビル


その日本支部ビルの8階にある、黒崎の自室には、竜星会幹部の植田が教会幹部である黒崎と竜星会の今後について話し合っていた。


「情報ありがとう植田さん。予定通りに進んでいる。君の組本部ビルの方は犠牲者は死者は3人、負傷は5人みたいだね。だいぶ少ない方だ」


「それもそうですが…」


「何、犠牲は付きものだよ。今日君は体調を崩して検査を受けた後、大事を取ってホテルに居た事にすれば問題ないと思うがね」


黒崎の顔を見て、一瞬視線を下げた植田だが。

「分かりました、それでお願いします」


黒崎は植田と視線をわざと合わせず、上を見上げながら話を続ける。


「竜星会の処理についてはだが、君に任せる事に依存はない。ただし、本国から来る党幹部はあくまでも此方に従う事を要求している。


治安はこれからある程度下がるだろうが、いずれこの国は中国の物になる。

君達は協力者としてなら繁栄は約束されるだろう。


【植田は黒崎の顔を無言のままみる。黒崎はそんな植田の心を見透かしたように少し間を空け】


…さて、そろそろ私は本国の幹部と会議の時間でね。君はこの場所で暫く大人しくしていたまえ」


そう言うと、書き殴ったようなメモを差し出す黒崎、それを見た植田は。


「ここは?」


「教会御用達のホテルだよ。最上級スイートだ。護衛も付けよう。さぁ、もう行きたまえ」


「ありがとうございます。時期会長の件感謝します。後はお任せしますので、何卒宜しくお願いします」


黒崎は微笑み。

「ああ、心得ているとも」


黒崎に一礼して部屋を去る植田。植田が部屋を出たその後で。


「竜星会を傘下に抑えるにはこれが一番いいだろう。役に立ってくれればそれでいい。 


いずれ用済みになるにしてもな。 しかしまぁ、生殺与奪の権利を他者に与える恐怖をこの国の人間は余りに知らなさ過ぎるな。これが敗戦国と言うやつか」 


————————————————————


一方で竜星会の氷室は、ある思いが心にあった。

(組はだいぶ混乱している。今ならキリちゃを達を逃すのに良いタイミングなんじゃないか?よし!)


そして零士は


「ただいま。彩、ゲンさんは居るかい?」



「いるよ。今竜星会が大変な事になってるって長門さんが。氷室大丈夫かな?」


「ああ、氷室は1番安全な所に居るから大丈夫さ。それで、ゲンさんはどうした?」


「さっきシャワー浴びてたよ」


「そうか。ここも襲われる可能性がある。いつでも出られるようにしておいた方が良いな」


「うん。確かにね。大丈夫だよ、準備はさ」


「そうか、それなら良いんだ」(どうする、ゲンさんが居ない今の内に彩に言っておくか?いや、ダメだ。まだその時じゃない。だが、このままでいいのか…)


彩は零士の顔を覗きこむ。

「どうしたの?暗い顔して」


「ん?ああ、なんだか戦争みたいになっているからな。誰が仕掛けて来ているのか気になったのさ」


「ふーん」


その時、サッパリし、首にタオルを下げたゲンが現れ。

「お、帰って来たのか。要は済んだのか?今竜星会が厄介な事になっているようだし、ここも安全とは限らない、何時でも出られるよう準備しておこうぜ」


「ああ、俺はとっくに出来ているよ。その…」


「?どうした」


「いや、何でもない。車はサネが用意してくれていた。銃も分からないよう隠してさ。奴は何時も用意が良いよな もしかしたら混乱している今をチャンスと見て連絡がくるかも知れない」


「ああ、確かにな。氷室が居てくれて本当に良かったよ。そうだな、氷室ならそう考えるかもな。分かった、車を出せるか長門さんに話してみるか」


長門の居る部屋に向かおうとしたその時、零士のスマホから着信音が鳴り響く。


「誰からだ?ん、サネか」


通話をタップする零士

「サネ、今大丈夫なのか?」


「ああ、心配ない。ところで、今全員揃っているか?」


「ああ、皆んな居るぜ」


「よし、やっぱり今だな。キリちゃん。今なら竜星会も混乱している。今の内に日本から脱出してくれ。長門さんには手筈を説明してある。俺のプライベートジェットがある。それを使ってくれ」


「え、今か?それにお前、プライベートジェットってそんな物まであるのかよ」


「備えあればってやつさ、いつでも出せるように準備はしていた。取り敢えずそれで香港へ、そこからシンガポールさ」


「サネ、お前…」


「なーに、生きていればまた会えるって、だから気にせず行ってくれ。俺は親父を守らないといけない。また一緒に遊ぼうぜ、キリちゃん」


氷室の子供の頃ような言動に零士は寂しくも口元が緩む。そして氷室の言う通りにすべきタイミングだと言う事も理解出来ていた。


「そうだな。生きていれば、また会えるよな。分かった、サネ、感謝するよ」


「おう!おっと、まだ色々連絡しなきゃだから、これが最後じゃないぜ。兎も角急いでくれ」


「分かったよ。またな、サネ」


心配そうに零士の顔を見る彩とゲン。

「氷室は何て言ってたの?」


「ここもヤバいのか?」


「ああ やっぱりサネは、竜星会が混乱している今が日本を脱出するチャンスなんじゃないかってさ。でだ、長門さんがサネが所有しているジェット機がある空港までエスコートしてくれるから、今の内に日本を離れてくれってさ」


零士の言葉に驚く2人。

「えっ、本当に今なの?しかもジェット機って」


「なるほど、氷室らしいな」


更に続ける零士

「どうするって、もう動き始めているんだけど」


「…確かに今なら行けるかもね」


「だな。これ以上はないかもな」


2人の表情を観た零士は

「よし、決まったな。行こうぜ!」


そこに長門が現れて。

「話しは纏まりましたか?此方は何時でも良いですよ」


零士は深く頭を下げ。

「ありがとうございます長門さん。万が一に備えて、2台に分乗したいんですが、良いですか?」


「そうですね。リスク分散は必要でしょう。分かりました。護衛が前後に1台づつ付きます。今混乱の最中ですから大丈夫でしょうが念のため。さぁ、行きましょう」


同時に応える3人。

「お願いします」


車に乗り込む前に、ゲンがある疑問を零士に投げかける。

「なぁ零士。あの女刑事さんに連絡しないで良いのか?」


「考えてはいたよ、そうだな。ありがとうゲンさん。ちょっとメールしてみる」






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