第65話旧友

零士と対峙したミハイルは、有香の事から話し出した。

「そうだな…実は俺も有香さんについては何も知らない。大体、あの責任感の強い人が何もかも放棄して行方不明ってのも可笑しいだろ?」


零士の顔をうかがうミハイル。

それに対して零士は。

「…それは確かにな」


ミハイルは左の眉尻を下げ

「そんなあからさまに残念そうな顔をするなよ。まぁ気持ちは分からないでもない。俺だってまだ生きていると思う。確信はないがな。


さて、余り時間が無いから次は最後の任務についてだな。実を言うとな、そうだお前、ピーター副司令の事を覚えているか?」


「ピーター副司令?何回か見かけた事があるだけだな。普段は北米支部を仕切っていたから。それが関係あるのか?」


「ああ、あの任務は、ウクライナに居た中国人の化学兵器技術者をアメリカに亡命させる任務だった。

だが、それだけじゃなかったのさ」


「それだけじゃない?」


「ああ。あの中国人な、中国政府の内部情報を持っていたのさ、それも指導部の上の方、外部に出たら政権が世界中から攻撃されかねない情報がな。 


それは、邪魔な各国の指導者の暗殺だ。正確には生物化学兵器を特定の場所で使う予定だった」


「なんだと!?それはヴァルハラの司令部は知っていたのか?」


「副司令だけはな」


「まさか、買収されていたのか?」


「ああ、その通りだ。本部に来ていた副司令を、俺を含めて5人の隊員が護衛していた。


お前達セイバー隊が出発する当日の話しだ。

何故副司令が本部に来ていたのかは、俺も分からなかったが、副司令が本部ではなくホテルに宿泊していてな。


その日の夜、俺はたまたま副司令が誰かと通話しているのを聴いちまったのさ。


セイバー隊が予定通り出発した事、何処にどのルートで向かうのか、正確な日時も含めてな」


「何故せれを本部に通報しなかったんだ?」


「しようとしたさ、その時はな。だが直ぐ後ろに気配を感じて振り返ってみれば、そこにはリヴが居たんだ。 

 流石驚いたし、一瞬話そうともした、だが彼女の目は仲間のそれじゃなかった。つまりグルだったのさ。


 何事もなかったかのように装って、俺はそろそろ交代の時間だからと誤魔化しつつ、ホテルの地下駐車場へ、本来なら護衛用の車に飛び乗ると急いでホテルを出たのさ。


あの時は本当に怖かったよ。バックミラーには怖い顔をしたリヴが居てさ、ジーッと俺を睨んでいた。

 

 流石に本部までは追って来なかったが、本部にも副司令の仲間が居るかも知れない、そう思った俺はドミニクのオッサンにだけ真実を話しヴァルハラを抜けた。


  そのあと副司令にリヴ達も行方不明になった それはドミニクのオッサンから聞いているだろう?真実はこんな所だ 」


「辻褄が合うから本当なんだろう。もっと早く知りたかったよ」


「すまんな。俺も色々余裕がなかった。さて、ここまで聞いてまだヴァルハラを信用出来るかかどうかなんだが」



「ドミニクは、オッサンは何故俺やゲンさんには教えてくれなかったんだ?」


「オッサン自体誰が裏切り者か分からなかったし、司令を含めてオッサンの話を直ぐには幹部達は信じなかったってのもある。


だが、どうやらセイバー隊にも裏切り者が居たようだな。ドミニクのオッサンはセイバー隊には知らせていた筈だ。

 その時連絡を受けたのは誰だ?」


「隊に知らせていたのか?…確か本部との連絡役はバートと……ゲンさんだ…まさか、そんな…」


「今生きているのはゲンさんだよな。零士、仲間にも気をつけろよ。 世の中には、そのまさかがあるもんだ。 

 さて、話せる事は全て話した。で、どうなんだ?俺達と一緒に来るか?」


少し間を置いて


「今直ぐには判断出来ない。お前の話しを聞いたら俺は…」


「まぁ分かるよ。誰だって仲間が裏切っているかも知れないとしたら、動揺するだろうからな。 

 さて、そろそろ時間だな。その気になったら何時でも連絡してくれ。

 ゲンさんの事はまだ確定じゃない。思い詰めるなよ。それじゃあな」


笑顔で手を振った後、背中を向けるミハエル。全くの無防備だ そのミハエルを零士は黙って見送る。


(ゲンさん…そんな訳ないよな。あの時、俺と彩を逃す為に負傷したのは確かなんだ。そんな筈はない)


一方で、正体不明の襲撃犯によって、次々と組幹部を失っていた竜星会本部は、混乱の中にあった。


会長の斎藤は怒鳴り散らす。

「これはいったいどう言う事だ!まだカチコミかけて来た連中の正体は分からねえってのか?


ここも安全とは言えないかも知れん。人を集めろ!氷室はどうした?」



「ここに居ますよ。俺の組の本部は横浜なので、今の所無事ですが。何人か応援を寄越させます。それと、ここ以上に安全な場所はありませんよ。守りを固めましょう」


氷室の言葉を聞いて落ち着く斎藤。

「そうか、そうだな。分かった。そうしてくれ。そうだ、植田の奴はどうした?この非常時に何をしていやがる」



興奮する斎藤を他所に、氷室は冷静に分析していた。

(植田さんは来ないだろうな。恐らくこの時期に会合が行われるのを襲撃側にチクったのは植田さんだろう。 

今頃安全な所で高見の見物だろうよ。自分だけ助かって、その後乗っ取るつもりか…)


眼光が鋭くなった氷室は、即座に気持ちを切り替えて斎藤に話しかける


「親父、ちょっと植田さんの事で話があります」

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