第64話死神再び( 2 )

バシーリーが止めるのも聞かず、車のサンルーフから飛び出すラリサ。 


「動き鈍いから大丈夫っしょっ。さっさと死んでね!」



追いかけるバシーリーは。

「シリアの時から成長してねーじゃねぇか!油断するな」


一方で遠藤の車列の後衛の車に乗る護衛達もラリサの接近に気付く。


「ちくしょう!どうなってやがる!ん?なんだ、後から黒いマスク被ったガキみたいなのが、銃構えて突っ込んで来るぞ」


「前から襲って来ている奴の仲間だ、構わねえから撃てよ!組長を守れ!」


拳銃を抜く男達。手にはブラジル、タウラス社製PT92が握られている。


しかし、圧倒的にラリサの方が早かった。

ラリサは手に持つ消音器付きマグプルマサダ自動小銃から護衛の車目掛けて銃弾を放つ。

【プシュシュッ!プシュ!プシュシュッ!】


護衛車両の3人の男達は銃を抜く間もなく薙ぎ倒され、動く者はいない。

「ほらやっぱり。ゲリラより弱いじゃん」



護衛車両の後部からジャンプしてルーフ、ボンネットと軽やかに飛び越えるラリサ。


遠藤の車の天板に乗るラリサ。

「この位置かな?」


ラリサは言うなりマグプルのトリガーを引く。

【プシュッ!プシュッシュッ!】


悲鳴も呻き声も聞こえないが、次の瞬間。

車内から発砲音が響き、ラリサを銃弾が襲う。

「パンっ!パンッ!」

ラリサの前髪を銃弾がかすめた。

「うわ!あっぶなー」


「プシュ!プシュ!プシュ!】

銃声が響き、ラリサが振り向くとバシーリーが遠藤の車目掛けて銃撃している姿が。


「もういい!引き上げだ!」


「えっ、もういいの?」


「遠藤は仕留めた。ギャラリーも集まる。急げ!」


やや不満そうなラリサだが、渋々聞き入れ車から降りる

「はーい」


ラリサ達が車に戻ると、間髪入れず車は走り出す。まだ不満なラリサ。

「なんかアッサリし過ぎてモヤっとするよ」


それを見たドゥーシャは。

「標的を仕留めたなら長居は無用だ。お前は目立つ事をやり過ぎる。 

 急いで予定ポイントに向かうぞ」


「了解〜」


不満なのはラリサだけではなかった。ドゥーシャも、度々命令無視をするラリサにイライラを募らせている。


(全く、隊長もこんな厄介なガキをいつ迄飼っておくつもりだ。次はまた別の隊に押し付けないとな)


月下の群狼が竜星会幹部を襲撃している間、零士達はと言うと……


————————————————————

東京麻布 氷室の用意したセーフハウスに零士達は集まっていた。


🔹

「氷室は竜星会の会合か。さて、何もする事が無いってのも困りものだな」


「そう言うな零士。後少しの辛抱さ」


「うん。分かっているよゲンさん。ん?」


零士はスマホにメール通知振動が来た事を感じた。

(誰からだ?これは…まさか、このアドレスは限られたメンバーしか知らない筈。 

 セイバー隊以外で知っているのは、ウルにロウにミハイルくらいしか…)


メール内容を確認すると。

『指定された場所に17時迄に1人で来られたし。久しぶりの再会を楽しみにしている』


(誰だ?この文面からして…)


急に黙る零士にゲンは。

「どうかしたのか?」


「あ、ああ。昔の友達が久しぶりに会いたいってね。 

 場所はそれ程離れてないし、予定もないから行ってみるよ。 

 夜、そうだな、11までには戻るって、氷室と彩には伝えといてよゲンさん」


「そうか、分かった。」


「ありがとう」


「今直ぐ行くのか?」


「うん。5時迄に来てくれって。大丈夫だよ。知った中だからさ。それじゃあ」


「気をつけてな」


「ああ、分かっているさ」


だが直ぐゲンは異常に気付いた。

(待てよ。零士のやつ、日本に戻ってから友人と接触するのは危険だからと、誰とも会わないって言ってたのに…)


————————————————————


横浜港 


夕方の何度目かの横浜の港は、いつもより静かだった。


(指定の場所はここで合っているよな。しかし、なんだってこの場所を…あの文面からして多分ミハイルだよな。あいつ、何で日本に居るんだ?)


指定された場所。そこは横浜港に浮かぶ船、氷川丸の前だった。

(暫く来る事もないだろうと思っていたけどな。さて、ミハイルは)


辺りを見回す零士 それらしき人物は見当たらない。波の音と、時折行き交う人の会話が辺りを包む。


ミハイルの姿を確認出来ない零士は、氷川丸の前を横切ろうと脚を進めて行く。氷川丸横を半分程進んだ所で、不意に後ろから声が掛かる。


「やぁ、久しぶりだな。やはり時間通りとは、そこは変わってないか」


振り向くとそこには、青いスーツにノーネクタイの白人の男が1人ポケットに両手を突っ込み、俳優のような爽やかな笑顔で立っていた。

「やはりお前かミハイル」


零士の反応にやや拍子抜けな表情のミハイル。

「おっと、こいつは予想通りって感じだったか。まぁ想像はしていたがな。 

 ふむ[マジマジと零士の顔を見ながら]零士、お前顔付きが変わったな。 

 近くで見ると分かるぞ。目付きがすさんでいる。ふっ、無理もないかな?」


警戒する零士 


「おっと、そんな怖い顔するなよ。俺とお前の仲だろ?」


屈託のない笑顔を見せるミハイル。しかし零士は。

(こいつは…まさか俺が始末人をしている事を…いや、それより他に仲間が監視しているんじゃ…)


「おっと、こいつはいきなり失礼だったかな。それと、他に仲間を連れて来てはいないから安心しろ。 

 俺だけだ。それに武器も持ってないぞ。ほら」


にこやかに話すミハイル。背広の内側を無防備に拡げる。しかし零士はその言葉を額面通り受け取る事は出来ない。


「どうだかな。それより、何故日本にいる?今迄何処で何をしていたんだ」


「んー、やっぱりそこだよな。日本には仕事で来ているんだ。

ヴァルハラを辞めた後、暫くはヨーロッパを放浪していたが、ボスニアで多国籍の傭兵部隊と出会ってね。


そこの隊長に気に入られてれさ、2年くらい部隊に居たんだが、その隊長が負傷して指揮が出来なくなってな。  

 お前が指揮を取れって指名されたのさ。

驚きだろ?で、今もその部隊の隊長って訳さ」


「…なるほど。数奇な運命だな。他にも色々聞きたい事はある。答えてくれるか?」


「ああ、良いぜ。他ならぬお前と俺の仲だ。聞きたい事も分かる。有香さんと最後の任務の事だろう」


「ああ、そうだ」


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