第63話死神再び( 1 )

ラリサは久しぶりの戦闘に興奮を抑え切れない様子だった。


「ふー、まさか日本で暴れられる日が来るなんて、分からないもんだねー。さてと、バッシー君後どれくらいで始まるの?」


「だからそのバッシーってのはやめろ。標的が出て来て、先頭の車が見えたらタイミング測ってやるぞ。ドローンの準備でもしていろ」


「はーい」


そんな2人を横目に、隊を率いるドゥーシャは内心ラリサの暴走を危惧していた。


「まったく、飛んだ貧乏くじだぜ。シリアでは勝手に単独行動するわ、街中で重火器を使うわで、どれだけヒヤヒヤさせられた事か」


それに気付いたラリサは。

「ドゥーシャ分隊長、心配しなくても大丈夫だよ。今回はミハイル隊長からシリアやアフガンとは違うんだぞって言われているからさ、指示に従うよ」


「どうだかな。バシーリー、ラリサはお前に任せたからな、頼んだぞ」


「え、丸投げ?」


「隊長のご指名だろ、役目を果たせよ」


「マジかよ」


ラリサは嬉しそうだ。

「よろしくねん!」


「あのなー」


ラリサを含む群狼の襲撃班が標的に向かって移動中、カーナビのTV画面からトーク番組が流れる。


トークの内容は戦争を題材にした物で、司会の男女を囲むように16人の芸能人がトークを展開する中、50代後半と思われる眼鏡を掛けた女性が、自論を興奮気味にまくし立てていた。


それに興味を持ったラリサは、隣に座るバシーリーに話しかける。


「ねぇ、バッシー君。このオバさんなんて言ってるの?日本語解るよね」


「ん?ちょっと待て。あー、わー、私は絶対戦争反対…もしー戦争が起きても…んー、息子は戦争に行かせない…憲法は変えちゃダメ、だな」


聞いた瞬間大笑いするラリサ。

「あっははは!バッカじゃないのこのオバさん。戦争なんて呼んでなくても向こうから来るのに、反対反対言ってれば起きないもんじゃ無いのにさ。言葉だけで身を守れるなら、私らみたいなの商売あがったりじゃん」


バシーリーは冷たく話す。

「空気と平和はタダだと思っているからだろ。白痴の末路だよ。そら、そろそろ到着だ。ラリサ、ドローンの方はどうだ?」


「いつでも良いよ」


「周りに人も車もなし、いいだろう。ドローンを出してくれ」


車のサンルーフを開け、上半身を乗り出したラリサはドローンを取り出し。

「良い映像撮って来てね。それはっしーん!」

モーター音を轟かせ、ドローンが上昇する。

【ブォーーーーーーーン】


「AI制御だから楽ちんだね。機体の操作したいけど〜。チラリ」


「駄目だ。あれ幾らしたと思っているんだ。*5万8千ドルだぞ。危なっかしくて触らせられるかよ。お前がやって良いのはカメラの操作までだ」*約634万


「バッシーのケチ!」

それから30分後


「ラリサ、ドローンの映像はどうだ?」


「変化なし、ずっと上空待機しているけど、バレないかな?」


「上を見張っている監視カメラは無いし、大体あの建物の50メートル上空なら気付かないさ。バッテリーの持ち時間は確か3時間だから、問題ないだろう。予備の方も準備しておくか」


と、その時。

「あ、玄関の扉開いたよ!中から怖い顔のオジサン達が出て来た。このパープルのスーツ着た人だよね?」


「ああ、そいつだ。遠藤組組長、遠藤登えんどう.のぼるだ。逃がすなよ」



「勿論。任せてよ!顔をロックオンっと、うん。ちゃんと追尾してる」


バシーリーはドゥーシャに話しかける。

「分隊長、遠藤を確認しました」


ドゥーシャは相槌を打った後無線機を取り出し部下達に指示を出す。


「各員よく聞け。竜星会のトップ斎藤は用心深い男でな、序列上位の幹部を月1で本部に招集しているんだが、幹部連中は遅刻しないよう車で1時間以内に着ける場所に組本部や別邸を置いている。 

 

おかげで此方は襲撃タイミングを計りやすい。だが護衛は武装しているだろう、油断するなよ」


無線機から声が響く。

「了解」

「了解」


「さて、いよいよだ。他のグループもそろそろ始めるだろう。合図を待て」


組長の遠藤を乗せたドイツ製高級車が門から出る。護衛の車が前後に1台づつ。眼光の鋭い男達が周囲を警戒しているのが分かる。



それを見たラリサは。

「車列は遠藤組の屋敷を出たよ。左側に行けば広い道路に出るね。そこで襲うの?バッシー君」


「まだだ。グリズリーが仕掛けるのを待つドローンを回収しろ」


遠藤の車列が出て8分後、待ちかねた連絡が入る。

「こちらパペット。了解。直ちに仕掛ける。よし、ブラボー1、2行け!」


「了解!」

「了解!」


ラリサとバシーリーも銃を構える。

「待ってました!私に任せて!」


そう言うとラリサはガンケースから取り出したアメリカ、ブッシュマスター社製自動小銃マグプルマサダを手にサンルーフから身を乗り出す。


それを見たバシーリーは。

「おいラリサ、お前まだマサダ使っているのか、皆んな*416なんだぞ」*ドイツH&K社製自動小銃


「私はこっちの方が使いやすいの。*大体カートリッジは共通なんだし問題ないじゃん」


*マサダとHK416はアメリカ、コルト.アームズ社製M4自動小銃をベースにしている他、口径もNATO標準の5.56ミリ


ブラボー1小隊の駆るレンジローバーが遠藤達の車列先頭の車に勢い良く突っ込む。

【キーーードガッ!!】


先頭車両に乗る3人の男達は、避ける事も身構える事もないなまま、強い衝撃に襲われ瞬間エアバッグが頭部を打ち付ける。

「がはっ!」

「ごばっ!」


 後部座席の男がアメリカ製拳銃コルトガバメントを抜こうとした瞬間、ローバーから出てきた隊員のHK416で上半身を撃ち抜かれ、他の2人は頭が起き上がる前に隊員達に撃たれる。


それを見た遠藤は。

「な、なんだ!?どこの組だ、いやチャイニーズマフィアか?も、戻れ!車を戻せ!」


助手席の男が後衛の護衛車に指示を出す間に、ラリサ達が迫る。

「やっぱり反応が遅いね。慣れてないのは仕方ないけど、バッシー君先行くよ!」


「おいラリサ!また勝手な行動をするな!」


バシーリーが止めるのも聞かずラリサは遠藤の車目掛けて走る。



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