第62話序曲

日曜日の朝、竜星会系日下部組の本部ビルから3台の車が出ようとしていた。


周囲を警戒しながらビルから出て来る3台の車。2台目の車には日下部組組長。日下部徹の姿があり、助手席には若頭の井上がスマホで組員達と連絡を取っている。


「警戒を怠るな。今が1番狙われる可能性が高いんだからな」


「了解です」


そんな日下部達をドローンを使って監視する者達が。

「日下部を乗せた車の車列が出ました。数は3台。日下部は2台目です」


報告を受けたジャンは。

「分かった。チャンスは逃すな。他の組幹部も一斉に襲撃するんだからな。総員戦闘態勢を取れ!」


「了解!」


日下部達の車列がビルを出て左折しようとしたその時。監視していた者達は一斉に動きだした。


「よし、報告通り車列は左側に出たな。竜星会本部に向かうつもりだ。今だ!アルファー1、2、突入せよ!」



ジャンの指示が飛び、アルファー1と2は前後から日下部の車列を襲う。


左折した日下部達の先頭車両の目の前に、黒塗りのワンボックスカーが急停止、中から黒尽くめの男女4人の持つサプレッサー《しょうおんき》付ドイツ、ヘッケラー&コッホ社製自動小銃HK416が咆哮する。

[パシュシュシュシュ!]

[パシュシュシュ!]

[ビシッ!ビシッ!ビシッ!]


先頭車両の運転手の頭部に銃弾が命中し、血飛沫が飛び散る。余りの事に助手席の組員は唖然とするが、組長の日下部を守る井上は即座に車を本部ビルの地下駐車場に戻すよう指示を出した。


「クソが!どこの組のカチコミだ!構わねえ、応戦しろ!お前ら何の為にはじきを持っていやがる!撃て!」



日下部は不安そうな表情だ。


「あ、ああ相手は黒尽くめだと?山城組か?早くビルに戻せ!」



日下部の車が動くと同時に、後方から1台の黒いRV車が突っ込んできた!そのRV車はそのまま後部を守る護衛の車に体当たりする。

[キュキュキューキー!ドガッ!]


護衛車内部の男達は衝撃で身動きが遅れる。それに構わずRV7車から容赦なくサプレッサー付きHK416自動小銃から放たれた5.56ミリ弾が襲う。


[パシュッ!パシュッ!パシュッ!パシュッ!]


的確な射撃で内部の男達の急所を射抜く。

(うがっ!)

(ぐわっ!)

(ぐっ!)


日下部達は後ろの護衛車に構わず本部ビル内にバックで強引に入ろうとする、だがその時。


「重要対象を逃がすな!」

指揮を取るジャン大声で怒鳴る。それに気付く井上。


「な、英語だと?こいつら外国人か!?何故うちの組長を」


語気を荒げる日下部。


「それはいい!それよりも早く逃げんかい!奴等俺を狙ってるんだぞ!」


前衛の車の男達を始末した群狼の隊員が、HK416を手に日下部達の車を狙う。


「こいつ!死にさらせっ!」


井上は右手に持ったアメリカ製拳銃コルトガバメントを連射するが、隊員は素早く体勢を逸らし反撃。パシュッ!パシュッ!]弾丸が井上の右腕を貫通する。


「ぐっ!」


日下部の姿を確認したドアンは、日下部に向かって銃弾を放つ。 

「逃すか!」[パシュッパシュッパシュッパシュッ!]

日下部は頭部を始め、上半身に10発以上の弾丸が命中、声を発する事もなく絶命した。


井上は叫ぶ。

「くっ、組長!てめえら、なんて事しやがる!」


日下部の死を確認した群狼の隊員達は、素早く撤収しようと動く。


「重要目標の死亡を確認、撤収する。予定通りだな。合流地点に急げ!」


他のまだ生きている組員には目をくれず。車に乗り込み日下部達の車列を前後から挟んでいた車は、それぞれバックで走り出す。


[キュキュキュキュキュー!]タイヤの回転音が辺りに響く。

逃げ出す群狼の車に、井上は銃弾を放つが全く効果がない。


[パンパンパン!][ピシッ!ピシッ!キンッ!]

「どうなっていやがる!弾かれてんぞ!このクソッたれが!」


群狼の車はそれぞれ十字路に出ると反転し、猛スピードで走り抜けた。

先頭を走る車の後部座席に座るジャンが後ろを確認しながら話す。


「想定していた通り護衛は銃を持っていたが、大した事は無かったな。負傷者はいないな?」


助手席の女が応える。


「ええ。ドアン達も皆んな無事みたいです。分隊長、日本人は銃撃戦に慣れていないって隊長は言ってたけど、隊長が良く使う拍子抜けってこの事ね」


「だな」


————————————————————


「グリズリーより連絡、日下部の死亡を確認。死傷者なし、襲撃成功です。予定通りホワイトロックに向けて移動中」


「パペットより連絡、鬼竜会組長坂下の死亡確認。現在護衛の組員と交戦中。死傷者なし」


「こちらグリム.リーパー、作戦成功。緑竜会組長金子の死亡を確認。ルート2で撤収中、死傷者無し」


観光用の大型バスの中で、次々と上がる報告にミハイルは耳を傾けていた。


「そうか、順調で何よりだ。ラリサがゴネなくて良かった」


隣に座るゴメスは笑いながらそんなミハイルに話しかける。


「ははは。しかし、この国の報道機関なら心配は要らないとクライアントが言っていた通りになりましたね。これじゃあ独裁国家の情報統制と変わりません。つい油断してしまいそうですが」



「ゴメス、日本のメディアは戦後CIAが日本人の愚民化と情報操作の為に立ち上げた組織なんだよ。だから本当の危機的状況にあっても真実を報道したりしない。


クライアントの連中は、裏からメディア支配をしている側なんだろう。 

 首都で派手な銃撃戦をして、騒いでいるのはネットだけだからな。さて、俺も動くとするか……大尉、暫く頼む」


「了解しました。その呼び方は久しぶりですな」

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