第61話戦士の休息(3)

アドアーズ渋谷店内。

クレーンゲームに集中している零士と梨沙は、次々とプライズをゲットしていた。

「この角度なら、引っ掛けるのが良いか。よし、これなら、取れる」


零士は自信を覗かせ、宣言通りゲット。


「凄い!アームで一度ずらしてから、ぬいぐるみのタグに引っ掛けるなんて、霧島さん本当に上手なんですね」


「自分の為と言うより、仲間の為に取る事が多かったかな。はい、プニ猫のミケをゲットです」


「そうなんですね。ありがとうございます!」


そんな和やかな空気包まれる2人、その2人から少し離れたゲーム台では。

「はい勝ち〜。久しぶりだけど腕は衰えてないって分かったから、よしとしますか」


対する相手の男は。

「そんな…」


「はいはい。私も忙しいから、これくらいにしてね」


圧倒的なウルスラに、男は落胆したように席を立つ。


「ツエー!マジかよ。全く勝てる気がしねえ」


男が去る姿を確認し、ウルスラは再び梨沙達の方へ顔を向けた。

「これで梨沙達に集中出来るわ」


と、その時。

【ニューチャレンジャー!】


「へっ?」


振り向くとそこには、黒いブラウスにジーンズ姿のラリサが目を輝かせてゲーム台の向かい側からウルスラを見下ろしている。

「ねぇ貴女、かなり強いみたいだけどさ、私と対戦してくれない?」


(うわ、マジか。スゲー可愛い子だ。顔はヨーロッパ系な感じだけど)


つい見惚れるウルスラ。

「ねぇ聞いてる?対戦したいんだけど」


「えっ、ああ、うん。ちょっと待って〔素早く零士の方を確認し〕(あの様子なら後少しなら大丈夫かな?)うん。良いよ。用事あるから少しだけね」



「OK。じゃあ久しぶりにやってみますか」


席に着き、キャラクター選択をするラリサ。

「ふむふむ、知らないキャラも居るけど、勝ちに行くなら慣れた方が良いか。よし、これで行くか」


一方ウルスラは。

「何か自信ありげな子だけど、お、選んだのはゲイルか、堅実な子かも。なら私はシュンリーで行きますか」


【ラウンド1、ファィッ!】


激しい蹴り技を浴びせるシュンリー、しかし間合いを読み、素早く下がるゲイル。この動きにウルスラは。

「ふーん。読まれてたか。なら、これで!」


シュンリーは逆さまになり、回転しながら蹴り技を使う。その隙をゲイルは衝撃波を打ち出した。ラリサは興奮気味に。


「へー、やっぱり強いじゃん。そうこなきゃっ!当たれ!」



【ガシッ!】

衝撃波がクリーンヒット。すっかり零士達の事をウルスラは忘れつつあった。


「このー!この子可愛いから油断したけど強いよ。これは手抜けない」


それから10分後。

【シュンリー、ウィン!】


「ウッシャァ!これで引き分けね。あっ」


慌てて後ろの零士達を確認するウルスラ。

「いけなっ!2人とも居ないし」



ウルスラは席を立つとラリサに向かって事情を説明し出す。


「ごめん!今友達を探していて、今直ぐ行かなきゃなんだ。これ私の連絡先だから、また機会があったら遊んでね。それじゃっ!」


一方的なウルスラに押されるラリサ。

「えっ?ちょっ、待ってよ!って。もう行っちゃったし」


後ろで見ていたバシーリー達はウルスラの動きに気づいてはいたようで。

ラリサに話しかける。


「もしかしたら、あの子は霧島零士か、一緒に居た女の仲間か友人かもな。名刺渡されたんだろ。今時律儀な事だ。それさえ有れば、また会えるチャンスはあるさ」


「それはそうだけど〜。なんか中途半端だなー」


ラリサは納得出来ないようだが、取り敢えず席を立つ。


一方ウルスラは零士達を必死に探していた。


「あーもぅ!なんでこうなるのさっ!次は食事、それとも…一回りしたけど、中には居ないから外に急がないと」



その零士達はと言うと…


「もう1時か。武田さん、お腹空きませんか?」


「そうですね。今日緊張していたせいか、朝食べてなくて。近くにお店があるなら。あ、その、あまり敷居が高い所はちょっと難しいんですが」


「うん。了解です。この近くに確か人気のパスタの店があるから、そこ行きましょう。パスタなら高くないだろうから」


「お任せします」

それから凡そ8分後。


創作パスタ料理の店『ピントル』40種類のパスタ料理を揃えるリーズナブルだが味に定評のある人気店。


「霧島さん、お洒落なお店を知っているんですね」


「ああ、たまたま以前来た時に見かけて、ちょっと気になってて。ググったら評判良いみたいだから。さっ、遠慮なく選んで武田さん」


「すいません。私から誘ったのに…」



ウェイトレスが零士達に近づいて来たその時。

【キーーー!ドンッ!」


店の前の横断歩道で、車が1人の男性を跳ね飛ばし、ガードレールに衝突。それにいち早く気づく武田。

「えっ?!」


店内は騒然となり、店の外に出てスマホで撮影を始まる者まで出る始末だった。

「武田さん」


「あの、霧島さん」


「行って下さい。俺も行きますから」


「は、はい!」


自分の意思を伝える前に、零士に促された事で、梨沙は迷いなく走り出す。


一方ウルスラは。

「あー、完全に見失ったは。とほほ。ん?あの人だかり、あ、交通事故か。そうだ!梨沙ならこう言うの放って置かないから居るかも!」


走り出すウルスラ。


ウルスラが現場に着くと、そこでは梨沙が跳ね飛ばされた男性の救護処置をし、零士は男性を跳ねた後、ガードレールに衝突していた車の運転手を救出していた。


その光景を見たウルスラは。

「やっぱりね。跳ね飛ばされた人も車の運転手も生きているみたいだし。このデートはお流れかな?」


そうこうする間に救急車が到着。

梨沙は救急隊員に事情を説明している。


その後…

「霧島さん、その…」


「これは仕方ないでしょう。武田さんのせいじない。デートの機会は、また巡って来る筈だから気にしないで」


「ありがとうございます。今度は私が美味しいお店紹介しますね」


「是非!楽しみにしていますね」


救急車に乗り込む梨沙。それを見送る零士。まるで離れる恋人を愛おしそうに見つめ合う2人だった。


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