第46話追跡者


ホテルラングウッド。


5階の508号室内。ゴメスが成田から移動中の仲間から連絡を受けているその時、監視を終えたザーラとエーニャが戻って来た。


「ただ今戻りました。監視はエリクとユーリーに引き継ぎました。スマホの画像じゃ分からない所もあるかと思って、ビデオカメラで撮影したのですが、隊長は何処に?」


「そうだ、ああ、予定通りだな。ん?ザーラ達が戻ったか。ああ、了解だ。じゃあな。

 ご苦労だった。カメラの映像は後で見ておく、隊長は今シャワーを浴びているよ。ゆっくり休んでくれ」



「了解です。じゃあ隣の507に行ってますよ。今回はクライアントが金持ちで良かった」


「私は506に、ラリサは大人しくしてしてると良いけど」


「ラリサはさっき出掛けたぞ。バシーリーが付いてるから問題ないだろ」


「それならゆっくり眠れそうです。それでは」


一方で、零士は監視が付いてるとも知らず、ゲンの工場を出ようとしていた。

「それじゃあ、仕事が終わったら、また連絡するよ」


ゲンは手を振って見送る。


「ああ、期待してるぜ。俺は工場を引き払う準備をしておく、またな」


彩は何か胸騒ぎを感じ。


「普段はあまり感じないんだけど、何か妙な予感がするんだよね。なんだろ?」


「最後の仕事だからだろ?」


「どうだろうね。ゲンさん、またね」


「ああ、またな」


そのやり取りをドイツ製のオフロード車から、双眼鏡で覗≪のぞ≫く2人の男の姿があった。

「監視対象を確認。どうやら出るみたいだな。ユーリー」


「分かってるよ。俺は女を追う」


そう言うと、ユーリーと呼ばれた男は車から出て、後ろに止めてある別の車に乗り込む。


「さて、何処に行くつもりなんだ?ユーリーには女の方を任せたが、男の監視なんてつまらない仕事だぜ。ふぅ」


エリクは退屈な表情になるが、零士と彩は同じ車に乗り込むのをしっかりと確認する。


「一緒か。まぁ良いさ。さて」

車を動かすエリク。ユーリーも続く。


車での監視だが、異国での運転は勝手が違うものだった。


「分かっちゃいたが、どうも左側通行ってのは苦手だ。インドでの嫌な事を思い出すぜ」


そして零士の方は。


「彩、気づいてるか?」


スマホを見ながら応える彩。


「うん。私が気付いたのは10分くらい前からだけど、付けられてるね。どうするの?渋滞、このままだと後5分とかからず捕まるよ。


仕掛けてくるか?いや、幾らなんでも目立つから無いか。多分寝床を特定する気だろうな。上手く巻くさ」


「ふふっ、何だかウクライナの時を思いだすわ。あの時のロシアマフィアは、本当にしつこかったよね」


「嫌な想い出しか無かったな。酷い目にあってばかりで、そら、そろそろ脇道に入るぞ。付いて来れるか見ものだな」


「楽しそうで何よりね」


零士はそう言うと、左にハンドルを切る。そして狭い脇道に入った。


それを見ていたエリクは動揺する。


何だ?気づいたのか?クソったれ!

スマホを取り出してユーリーに連絡する。


「気づいたかもしれん!左の脇道に入ったぞ!俺が追うから、お前は別の道から追跡してくれ!」


「土地勘も無いのに別の道って言われてもよ」


「ナビ使えナビ!見失うぞ!」


「分かったよ!」


それから零士は細い道ばかり選び、エリク達を嘲笑あざわらうかのうように走り抜けて行く。


「何処の誰か知らないが、ご苦労さん」


ガードレールにぶつかりそうになり、車を急停止させるエリク。

【ギギーーー!】


ブレーキの掛かる音が響く。


「クソが!なんて狭い道なんだ!やってられっか!あ、ユーリーの奴は……『スマホを取り出し』ユーリー聞こえるか?こっちは巻かれちまった。追い付けてるか?」


「……すまん、見失った」


「やれやれ。隊長に怒られるなこりゃ」


エリク達を巻いた零士達は、悠々と帰路に着いていた。


「誰が監視させていたか気になるな」


「そうね。でも気にしても仕方ないよ。やるって決めたんだからさ」


「そうだな」

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