第47話近づく瞬間


2020年5月10日午後1時15分。港区赤坂にある衆議院議員宿舎。そこを黒塗りの高級車が駐車場から出ようとしていた。


▪️「この時期呼び出しか、暫くはないと思っていたが。司祭も焦っているのか?まぁ、良いさ。次の選挙でも支援して貰わないと困るからな。出してくれ。予定通り司祭に会いに行く」



運転席の金子は軽く会釈すると車を発進させた。議員宿舎の管理室から監視カメラのモニター越しに注視する男。


無言で、それが衆議院議員木下学の乗る車である事を確認すると、モニターを見ていた男はスマホを取り出す。



🔹「榊です。今、木下を乗せた車が出ました。行き先は千葉にある平和統一教会日本支部だと話してました。はい。仕掛けは間違いなく…了解です。では」


————————————————————


氷室から事前に連絡を受けていた零士は、レインボーブリッジを支える4本の支柱、東京川向かって左の支柱の中に居た。


🔹「やっとこさ出番か。さて、後はタイミングか」


それだけ言うと、マクミランTac-50スナイパーライフルの入ったガンケースを開く。


それを見ながら話し始める氷室。


「今日は渋滞もないみたいだし、恐らく後15か17分くらいしたら、木下を乗せた車が見えて来る筈だ。俺の部下の車も監視しているから、タイミングは心配ないぜ。

いよいよ本場だな。頼んだぜキリちゃん」


🔹「ああ、任せろ」


————————————————————

そんな2人をレインボーブリッジ近くに浮かぶクルザーから、高性能双眼鏡で監視する複数の男女の姿があった。


🔸「まさかとは思うが、狙撃をするつもりなのか?」


ポツリと呟くミハイル。


それを聞いたゴメスとラリサは驚いた。

「幾ら何でも、それは無理なんじゃ」


「もし狙撃ならかなりの凄腕だよね。隊長と張り合えるレベなんじゃないの?」


「ははは、そりゃ高く評価されたな。俺でも1キロ超えのスナイプは難しいんだがな。相手が動体目標なら、尚更だ」


その時、ゴメスの表情が険しくなった。

「どうした?ゴメス」


「……実はクライアントについて調べたのですが、俺達を雇ったのは、どうやらこの国の政治家だと判明したのは昨日説明しましたよね」


「ああ、そう聞いたな。それがどうかしたのか?」


「その政治家の1人は民生党の木下学と言う男なんですが、今日の午後千葉にある半島系の宗教団体の支部施設に、移動するみたいなんです。俺達の目の前にあるこの橋を渡ると、近道みたいなんですが、まさか木下を狙撃するつもりなんじゃないかと……」


ゴメスの話しを聞いたミハイルは黙ってしまう。


「隊長、この事をクライアントに知らせますか?」


「隊長、私達犯罪現場の目撃者になるって事?何それ凄いじゃん!でも阻止したらお礼貰えたりして、何てね〜。チラリ」


2人の視線を遮るように、ミハイルは端的に答えた。

「いや、駄目だ。黙って見ているとしよう。零士の腕も見たいからな」


無表情で答えるゴメス。

「了解です」


一方ラリサはつまらなそうだ。

「えー、何でさ。まぁ、隊長が決めたなら従うしかないけどー。つまんないのー」


「ラリサ、不満は分かるが、恐らく奴の狙撃が戦争開始の狼煙になる。俺達の出番が来るのさ。クライアントは俺達を呼んでおいて慎重に過ぎるからな。楽しみにしておけ」


それを聞いたラリサは満面の笑みを浮かべ。


「なるほどー!それなら了解だよ。退屈してたんだ〜。シリアじゃあんまり暴れられなかったからさ」


「あれで足りなかったのかよ!」


ラリサが振り向くとバシーリーが呆れたと言わんばかりの表情をしていた。


「あ、居たの?」


「居たの?じゃねえよ!暴れ過ぎるなよ。お守りは御免だからな」


「大丈夫大丈夫」


ミハイルは2人のやり取りを見て笑う。


「ははは、良いコンビになって来たな」


「えー、そうかな?」


🔸「隊長、ラリサとのコンビは疲れるから、そろそろ勘弁してください」



ミハイル達が会話している頃、零士達は緊張の中に居た。


🔹「今監視している中島達から連絡が来た。後8分だ。見えたら知らせる。いよいよだな」


「ああ」


零士がマクミランTAC-50を構える中、何も知らない木下を乗せた車から、レインボーブリッジが見えて来ていた。





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