第45話信頼
東京湾内、自慢の大型クルーザーの中で、氷室は会長の斉藤から連絡を受けていた。
「はい。予定通りに。大丈夫です。零士は今までヘマをした事はありません。任せて下さい。はい、それでは」
氷室の部下で、古株の
「氷室さん……」
「大丈夫、大丈夫ですよ。俺みたいな若い奴の下に付いて不安な思いをさせて申し訳ないって、歳上の部下皆んなに対して俺はいつも心に抱えています。
だけど、これが成功したら俺の下に付いて来てくれた皆んなに良い思いをさせる事が出来る。あと少し、あと少しで」
長門は少し照れ臭そうに話す。
「俺達は皆んな付いて行きますよ。歳上とか歳下とか、正直誰も気にしちゃあいません。貴方だから付いて行くんだ。
他の幹部は、下についた奴を手足くらいにしか考えてないのも多い。
だが氷室さん、貴方は皆んなを大事にしてくれた、だからですよ。
正直ヤクザと言うより経営者だと思っていたが、いざとなったら腹を
長門の言葉に、氷室は言葉を詰まらせた。
「…長門さん…泣かせる事言わないで下さいよ。俺はそんな柄じゃあないから」
「本当ですよ。じゃなきゃ、こんな台詞、シラフじゃ言えませんぜ。はっはっは」
「ありがとう。いよいよ明日か。頼むぜキリちゃん」
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4月25日、零士はゲンの工場で射撃の練習と銃の調整をしていた。
高性能双眼鏡で、標的を覗くゲン。
「問題ないな。やっぱお前スゲーよ。最初にお前の狙撃を見たブラジルで、こいつはお嬢を超える逸材かも知れないって思ったもんさ」
「随分懐かしいな、ブラジルか。ラウール司令とか思い出すよ。最初怖い人って印象しか無かったけど。
それにしても、ゲンさん持ち上げ過ぎだよ。あの時は仲間が居たから安心して撃てたし、何よりこの銃のお陰さ。完璧だよ。さて、いよいよ明日か。早いもんだな」
そこにコーヒーを持った彩が現れた。
「お疲れ様。ずっと
「時間が無かったからな。明日に備えておかないとさ。落ち着かないんだよ」
「ラウール司令は荒くれどもを纏め上げた、歴戦の強者だからな。俺が初めて司令に会ったのはニカラグアだったが、確かに怖かったな。ははは」
「何?南米ミッションの時の話し?私はいつも留守番で、有香さんに聞いた話しばかりだったけど」
「零士にとって初めての南米で、初めての長距離狙撃だったからな。今思い出してもギャグかよって、突っ込み所満載の珍道中だったからな。長くなるから、仕事が終わったら、ゆっくり聞かせてやるよ」
「ふふっ、楽しみにしてるよゲンさん」
零士は銃をクリーニングロッドで手入れをしながら、2人の話しを聞く。
「仕事が終わったら、日本を出る。氷室がちゃんと手筈を整えてくれている。キッチリやり通して見せるよ。」
「ああ、しっかりな。」
「私はまだ心配だけど、あんた決めたら譲らないし、もう好きにすればって感じだよ。信じるしかないよ」
コーヒーを三人はそれぞれ口に流し込む。今は、これから起きる事を忘れるかのように。
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