第22話幼馴染み

零士は彩と連絡を取っていた。

「氷室には辞める事を伝えたの?」


「いや、これからだ。だが、まぁ氷室の事だ、分かってくれるさ。」


「辞めた後の事だけど、どうするの?」


「そうだな。ヨーロッパかアメリカに渡るのも良いかもな。咲の事だけどさ、中高一貫の全寮制の学校だから、後6年間は心配ないと思う。」


「入学式、出てあげれば良かったのに......」


「柄じゃないさ。久恵ひさえ叔母さんに頼んでおいたから、大丈夫だよ。」


「ぷっ、確かにあんたにスーツは似合いそうにないけどね。」


「まぁ、そう言う事だな。」


その時、氷室からメールの着信が入って来た。


(ん?氷室か。)


「どうしたの?」


「丁度氷室からメールが来た。また後でな。」


「うん。それじゃ。」


メールには簡潔にこう書かれていた。

「予定より早く新堀が見つかった。連絡くれ。」


零士は早速氷室に電話する。


プルルルル。ガチャ。

「出るのはえーな。」


「当たり前だろ霧ちゃん。予定より早く見つかって、ちょっと騒ぎになってる。もしかしたらなんだが......」


「お前が出るの早いって突っ込んだんだけどな、まぁ良いか。もしかしたらなんだ?」


「たれ込みさ、組の内部に、警察に通報した奴がいる可能性があるのさ。だとしたら不味まずいいよな。」


「考え過ぎな気もするけどな。」


「とにかく、ちょっと会わないか?霧ちゃんもさ、もしかしたら俺に話したい事があるんじゃないか?」


「え?」


「へへっ、これでも察しは良い方なんだぜ。話してくれよ。」


そうだった。だからこいつとは、氷室とは仲良くなれたのかも知れない。


「さっすが、若手ナンバーワンの氷室さん、おみそれしました。」


「ふっ、まぁな。で、何処で会うかなんだが、例の場所で会うか。」


「例の場所?」


「察しが悪いな、俺達が初めて会った場所だよ。想い出の場所ってやつだ。」


「妙な言い方するなよ。気持ち悪いぞ。」


「ノリが悪いなー。分からないのか?」


「サッパリ」


「横浜だよ。中華街。近くの公園。山下町公園な。明日12時くらいに。」


「分かった。じゃあな。」


————————————————————

横浜中華街。言わずと知れた食の街。


(俺が有香さん、ゲンさんに彩と日本に戻ってから、暫くして辿り着いた街。有香さんが行方不明にならなければ、氷室と会う事も無かったとは思う。


 ろくな想い出がない。何故ヴァルハラは、有香さんにあの任務を任せたのか———いや、もうそれはどうでも良い。過去に戻れる訳じゃない。)


明くる日。


やけに目覚めの良い朝だった。


「まだ10だが、準備はするか。」


 零士は身支度を整える。中華街までは車で30分くらいしか離れていない。

 大して時間も掛からず準備は出来た。そのまま、普段はTVは点けないが、リモコンに手を伸ばす。


 テレビ画面には新堀の特集が映っている。

コメンテーターの中年の男が、元警察官の犯罪心理の専門家に、険しい表情で事件性について聞いている。


「どうなんですかね山下さん。」


「新堀さんは関係者の話だと、怨みを買う事もしていたと噂されていますが?」


「そうですね。警察の方も怨恨えんこんの線でも捜査をするとは思います。しかし、車にはワインボトルがブレーキペダルに挟まっていたと言う情報もありますから......」


大体予想した通りの内容だった。

チャンネルを変えると、どこも似た内容で見る気が失せた。


「どれも同じか。」


スマホを見るが、新堀の情報はTVとそれほど変わりない。しばらくそのままにしていたが、やがて11時に。


(時間通りに着く保証はないし、そろそろ行くか。)


が、途中渋滞に捕まり、ノロノロ運転になる。


(これも予想通りではあるな。)


 11時48分。少し早いが、近くのコインパーキングにつく。車を止めた後、山下町公園を目指す。公園に入ると同時にスマホを見る、すると直ぐ様着信が来た。


[プルルルル。ピッ]


「ちょっと早くね?」


「なんだ、もう来てたのかよ。」


「へへっ、まぁな。俺からは見えるぜ。霧ちゃんから見て、右側な。」


スマホを片手に手を挙げる氷室が見えた。


(サネの奴……いや、1人って事はないか。)


零士は氷室に近付く。


「そんなに俺に会いたかったのか?って振りは無しな。」


「何それ、ニュータイプ?」


「そう言うの良いから、本題に入ろうか。」


「へいへい。実はな。家宅捜索の可能性を親父かいちょうは心配しているのさ。完璧だったんだろ?」


「ああ、事故で処理されるようにしたさ。」


「だがな、警察内部の協力者からは、事件を担当する湾岸警察署は、事故死に見せかけた殺しで新堀が病院送りにした女の捜査をしているみたいなのさ。」


氷室を見る零士。


「ヘマをしたとは思ってないぜ、組に裏切り者がいると俺は見ている。だが、新堀の件はもうすぐ型がつく。」


「型が付く?」


「以前心配するなって言っただろ?事故死で終わるのさ。政治の権力構造に変化が起きたって事だよ。」


「ふーん。」


「なんだよそれ、反応可笑しくね?」


「それなら良いのさ。話が終わりなら、俺の方も話して良いか?」


「ああ、なんだよ、改まって。」


「実はな.........この仕事を、終いにしたい———」


予想した通り、2人の間に沈黙が訪れる。

先に口火を切ったのは、氷室だった。


「………まぁ、そろそろかな?とは思ったよ。」


「そろそろ?」


「察しは良い方だって言っただろ?伊達に幼馴染みやってないぜ。」


「なるほどな。」

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