第21話蠢く

お台場湾岸警察署に戻ると、既に情報を聞きつけたマスコミ関係者が押し寄せ、受付は彼等でうごめいていた。


♦️♦️♦️

「やれやれ、早速か。」


佐々木はため息をつく。

マスコミ関係者を掻き分け署内に入る。

捜査1課の部屋には課長の大竹が対応に追われていた。


「佐々木さん、やっと戻って来てくれた、良かったー。」

▫️▫️▫️

 安堵あんどした表情の大竹。

大竹良子おおたけ.よしこ54歳。捜査1課をたばねる佐々木の直属の上司。

 見た目はまんまオバサンと本人が普段から周りに話すが、洞察力は鋭く、頼りになる上司でもある。

♦️♦️♦️

「遅れました。警部、新堀についてですが、あれは間違いなく殺しです。

怨恨えんこんの線もあり得ますが、奴のバックには労働平和党の、木下幹事長が居ます。これは思ったより厄介かもしれませんね。」



「確かにね。もしかしたら政治のパワーバランスに変化が起きたせいかもしれないわ。

去年の統一地方選や参議院選挙、実質自由共和党の一人勝ちだった。

もう連立を組む労働平和党の力を借りなくても勝てる事を証明した戦いでもあったものね。」


「ええ、それ以前だったら、誰も新堀には手を出せなかったでしょう。しかし、危ない橋を好んで渡る政治屋もいないでしょうし。

 誰かの怨恨を利用した線か......あるいわ......」


「あるいわ?」


「いえ、この国の中枢ちゅうすうで起きている変化に、警察が立ち入れるとは思えません。取り敢えず怨恨えんこんの線や、新堀は薬物にも手を出していたと噂されています。暴力団関係やチャイニーズマフィアを当たります。」


「忙しくなりそうね。分かりました。私はマスコミの対応をします。正式な検死の結果がでるまでは、事故死が濃厚としておきましょう。」


「了解です。」


湾岸警察署があわただしくなる中、一方では別の動きがあった。


————————————————————

▫️▫️▫️

新宿区内、高級料亭周防すおう

政財界の重鎮や芸能人も上客にする料亭だが、その密室性から、しばしば議員同士の密会が行われている。


朱雀の間には、既に労働平和党幹事長、木下学の姿があった。


豪華な料理が運び込まれていたが、まだ会う予定の人物が来ないのか、手は付けられていない。

▪️▪️▪️

(早く来すぎたか......)


スマホを取り出して、予定をチェックしようとしたその時、ふすまが開く。


「木下さん、大変な事になったね。」


襖の奥から現れたのは、白髪も目立つ眼鏡の高齢の男だ。


「ああ、中内さん。態々わざわざすいません。」


「いや良いんだよ。菅田さんと福岡さんももう着いたから、ゆっくり話そうか。」


「はい...」


中内明男なかうち.あきお労働平和党党首、68歳。元々は支持団体、統一平和教会と言う60年代に生まれた宗教団体に、学生時代に入信した事がきっかけで政治家になった人物。


年功序列で党首になったせいか、決断力に乏しい。


中内の後ろから、更に男性二人が現れる。一人は如何いかにも気難しい感じで、もう1人はまだ黒々とした頭髪で若々しい。気難しい顔付きの男が木ノ下に気付く。


「息子さんは不幸な事になったね。しかし、誰がやったか知らないが、こんな事してただで済む訳が無いのに、どうなっているのかね?」


「菅田さん、ありがとうございます。」


菅田直紀かんだ.なおき61歳。副党首を務める実力者。


「木ノ下先生、御悔おくやみを。誰であれ、このままは良くないですよ。」


「すまないね福岡君。地元からとんぼ返りさせてしまって。」


福岡哲雄ふくおか.てつお48歳。選挙対策本部長を務める若手政治家。バックにパチンコチェーン店の組合が付いており、政治資金で大きな役割を果たしている。


「構いませんよ。木下さんにはお世話になりましたから。」


四人は車座に座り話し合った。

最初に口火を切ったのは中内だった。


「以前なら有り得なかった、これはやはり、阿賀野あがのが我々を切った証拠なんじゃないかと私は思っているよ。」


中内に同意する菅田。


「ええ、参議院選挙で共和党は勝ちすぎた。もう用済と言うメッセージかも知れませんね。散々世話になってこれとは......」


2人の会話が進む中、福岡は別の可能性に触れた。


「怨恨の線はないんですか?失礼ですが、息子さんは女性関係でかなり酷い振る舞をしていたと聞きますが。」


福岡を止める中内。

「だとしても、手が込んでるだろう。酔っ払って東京湾に車ごと突っ込んだんだぞ。」


そこまで言うと、木ノ下は深いため息をつく。


「バカ息子だった事は認めるよ。薬物で何人か女性を病院送りにしている。

死亡事故まで起こして、法務の寺澤や警察庁の矢田、検察の熊谷に何度手を回したか———」


「見つけ出して、始末屋に消させるか……」


中内の言葉に、他の三人は反応する。


「えっ?」

「!!」

「なっ!?」

続ける中内。

「これが我々に対するメッセージなら、相応に応えてやる必要もあるだろう。」


「しかしそれは...」


うつ向く木ノ下。


「実はね、これはまだ、ここにいる四人だけの秘密にして欲しいのだが、オリンピック、パラリンピックの直後、中国本国と半島が動くそうだ。」


三人は更に驚く。


「!?」


「それは本当ですか?」

菅田は驚愕きようがくしつつもたずねた。


「ああ、オリンピック時には、日本国内にいる中国人と韓国人は、合わせて1000万を超えるだろう。いよいよ我々の時代さ。」


「国内の邪魔者を消す必要がありますね。」


「ああ、君のつてを使いたいのだが、頼めるかい?」


驚く菅田。

「連中の力を借りるのですか?かなりリスクがありますよ。」




「なに、その時は本国から工作員も数十万人は行動する事になる。警察は勿論、自衛隊でも手に追えないさ、はっはっは。」


中内の笑い声が部屋内に響いた。

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