第23話思い出の地

「サネ、護衛は連れてないのか?」


「ああ、正直、誰が裏切り者かまだ分からないんだわ。ここに俺が居るのを知ってるのは、親父かいちょうと長い付き合いの長門ながとさんだけだ。」


「そうか……」


周囲には、それらしいのは確認出来ない。遠く離れて見ている可能性はあるが、今は信用しよう。


竜星会で1番信用出来るのは氷室しか居ないだろうし。


何度も会って会話しているはずが、微妙な空気が流れていた。


意味も無く氷室が俺を山下町公園に呼んだとは思えなかった。

昔の想い出に浸りたい、そんな性格でない事も理解している。


「サネ、俺に頼みたい事でもあるんだろ?」


「霧ちゃんニュータイプって奴だな。」


「いやそんなんじゃなくても解るだろ。山下町公園とか。」


氷室は空をあおぎ見るような仕草を見せる。


「ふー、5年ってさ、思ったより短いよな。へへっ。昨日事みたいに、ずぶ濡れな上に血だらけの服着た霧ちゃんを思い出すよ。」


「サネには感謝しているよ。彩も助けてくれたし、ゲンさんと再会出来たのもサネのお陰だ。」


「彩ちゃんの必死に助けを求める姿見たら、ただ事じゃないのは誰でも分かるし、助けなかったら人間じゃないだろ?


まぁ、それはともかくだ、親父には俺から話しておくよ。心配ない。霧ちゃんと彩ちゃん、ゲンさんも含めて誰にも手は出させない。


俺に任せろ。」


「なんだか頼もしいな」


「ふっ、まぁな。まぁ、俺程の男はそうは居ないぜ。」


なんだか得意げだ。


「自分で言うなよ」


零士の口元もゆるむ。

氷室は話を続ける。


「でだ、俺からも話がある訳だが。」


零士の切り返しは早かった。


「そう来るだろうとは思ってた。」


「話が早くて助かるよ。実はな、多分内部抗争が始まるかもしれないのさ。」


沈黙は短かった。何となくだが、竜星会内部で何かあったから、氷室が会おうと言って来たのも、内心は解ってはいた。


「穏やかじゃないな。誰が齊藤組長を裏切るって言うんだ?」


「植田さんだ。若頭の片桐さんが体調を崩していてな、次は植田さんが有力なんだが、どうも外部の勢力の力を借りて、組を乗っ取るつもりらしいんだわ。」


植田と言うのは、組のナンバー4に位置する実力者だ。やりかねない存在ではあった。


「それで?」


「そこでだ。霧ちゃんは俺の側に付いて欲しい。霧ちゃんまで敵に回ったら目もあてられないだろ。それに、労働平和党の連中の動きも気になる。」


「復讐される可能性か......」


「無くはないだろ?」


「ああ。」


「まぁ、そう言う事だ。今後に付いてはまた連絡するよ。で、力を貸してくれるか?」


「選択肢はないさ。俺もサネまで敵に回ったらキツイからな。」


氷室は、はにかむような笑顔を見せた。


「さっすが解ってらっしゃる。はっはっは。」


「話しはこれで決まったな。」


「ああ。じゃあな、サネ。」


「まてまて、せっかくだ、少し歩こうぜ。」


「暇なのか?」


「ストレートに言わんといて~。ああ暇さ、今はな。動きがあれば忙がしくなるんだよ。」


「ははっ。まぁ、良いけどな。」


「よし決まりだ。俺がおごるから心配いらないぜ。」


二人はそのまま中華街へと繰り出した。


横浜中華街。言わずと知れた日本有数の観光名所だ。ちょうど昼時と言う事もあって、かなり賑わっている。


「5年経っても、そんなに変わってないな......」


「そうか?俺は何度も来ているから、変化にはそれなりに気付いているぜ。ちょっと裏道入ろうぜ。」


「裏道?」


「まぁまぁ、俺に任せろって。ここは俺のホームグラウンドだからな。」


「そう言えば地元だったな。」


見覚えのある路地裏に、氷室はスタスタと進んで行く。


「少し思い出した......」


「そうか。もっと懐かしい所に案内するよ。実は霧ちゃんに会いたがっている人が居てさ。」


「俺に?」


「誰だか分かるか?」


(横浜で俺に会いたい人物か……)


「サネ、まさか……」


「ああ、期待しないで付いて来な。」


笑顔を見せる氷室。


更に細い道に入ると、くたびれた感じがする5階建の雑居ビルがあり、そのビルの前には10代後半くらいの少女の姿が見える。


「あれ?氷室さんだ。後ろの人は......」


零士は妙な懐かしさを感じ、それまで忘れていた事を思い出す。


「見覚えがあるビル……そうか、氷室が会わせたいってのは、じゃあ、あの子はまさか……」

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