第20話それぞれの思惑
新堀を始末した夜から、既に3週間近く経過しようとしていた。
10日経った辺りから、少しづつ新堀が失踪した情報がTVやネットを
そして———
お台場。お台場湾岸警察署。大した事件もなく、暇を持てあまし気味の捜査1課に匿名のたれ込みが届いたのは、昼頃の事だった。
「はいこちらお台場湾岸警察署、あ、え?なんですか?」
受話器の向こうからは、加工された音声が流れる。
「1度しか言わないからよく聞け。今メディアを騒がしているヴィーナススターの社長の新堀が、愛車のブラスカ.バティーニごと新お台場埠頭13番倉庫近くに沈んでいる。目印は壊れた車止めだ。」
「え?ヴィーナススターの新堀社長が?新お台場埠頭13番倉庫近くに?もしもし、あ、ちょっと。」
そこまで若手の刑事が聞いた所で通話は切れた。それを見ていたベテランの刑事がたずねる。
「どうした?イタズラ電話か?」
困惑した表情の若手刑事は答える。
「それが加工された声で、今失踪中の新堀が、愛車のブラスカ.バティーニごと新お台場埠頭の13番倉庫近くに沈んでいるって。目印は壊れた車止めみたいなんですが。佐々木さん、大竹課長に報告して良いですかね?」
「イタズラにしては手が込んでるな。ま、ヴィーナススターの新堀失踪事件は、手がかり1つないのは事実だし、俺が行くよ。
新お台場埠頭13番倉庫近くだな。大竹さんには報告頼むわ。」
「分かりました。」
まだ寒い2月初旬。佐々木はコートを手に取る。それを見た、去年配属されたばかりの若い女性刑事が佐々木に近づく。
「佐々木さん、外出するって事は、事件ですか?」
目を輝かせる女性刑事に、少し笑みを
「ああ、多分な。ガセかも知れないが、例の新堀で匿名のたれ込みがあってな。武田、お前暇なら来るか?」
「はい!是非お願いします!」
大きな声で答える武田。
武田梨沙は今年24歳、飛び級で大学を卒業し、熱意と能力で刑事となった才女で、お台場湾岸警察署に今年配属になったばかりの新人刑事。
親子程歳の離れた上司と部下だが、不思議と馬があった。
「よし、行くぞ。付いてきな。」
それだけ言うと佐々木は部屋を出た。それを見て慌てて追いかける武田。
お台場湾岸警察署から現場までは20分程の距離でしかない。
車の中で武田は思っていた事を早速佐々木にぶつける。
「佐々木さん、匿名のたれ込みが捜査1課に直接掛かって来るってあるんですね。ドラマとか、フィクションの世界の事だと思ってました。」
ハンドルを握る佐々木は興奮する武田とは対称的だった。
「まぁ、胡散臭いたれ込みだがな。だがよ武田、ドラマみたいに簡単に解決する事件なんてないんだ。」
「そ、そうですね。すいません。」
「ふっ、何も怒ってなんかいないさ。ただ、お前を見ていると駆け出しの頃を思い出すんでな。ま、
「似ているんですか?」
「ああ、無鉄砲な所とかな。はっはっは。」
「からかわないでくださいよ。」
「いや、実際その通りだろ?それはともかく、初めて水死体を見る事になるかもしれんが、大丈夫か?」
「大丈夫です。死体なら配属されてから何度か見ていますから。」
そんなやり取りをしながら、二人の乗る車は目的地に到着した。
「人気のない寂しい所だな。まぁ、倉庫街なんて、どこもそうか……さて、13番倉庫だが......」
埠頭の管理所から場所を聞き出して、大体の場所は分かっていたが、似たような倉庫が建ち並ぶ。
「あ、壊れた車止めがありますよ佐々木さん。」
「あれか......さて、ガセか事実か。」
13番倉庫前で止まる車。車から降りた佐々木と武田は、壊れた車止めに近づく。
車止めから東京湾を覗く佐々木と武田。
「ん?油が浮いているな。若干だが、何か青いのが見える。あれは車の屋根か?確か新堀の車は青だったな。」
「佐々木さん、これってビンゴなんじゃ...…」
「かもな。やれやれ。署に連絡してくれ、新堀の車らしき車両を見つけたとな。鑑識と車を引き上げるクレーン車とダイバーの手配もだ。」
「分かりました。」
およそ40分後には、現場は騒がしくなった。
クレーン車によって引き上げられた車は、新堀の愛車の青のブラスカ.バティーニだった。
「まぁ、忙しくなりそうだ。」
引き上げられた車を調べる鑑識は新堀の遺体を調べる。
「どうだった?」
「監察医に見せないとなんとも、水温が低かったとは言え、腐敗もだいぶ進んでいますし。ただ、ブレーキの所にワインのボトルが挟まってました。酔っ払ってアクセルを踏み込んだんじゃないですかね?」
「なるほどな。」
黙り込む佐々木。
「佐々木さん?」
心配そうに佐々木の顔を覗き込む武田。
「こりゃ出来すぎてるな。
「嫌な予感ですか……」
「ああ。」
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