第19話綺麗な月の夜

突然後ろから日本語が聞こえて来る。


「てんで駄目ね。有香さんが連れて来たって聞いてたから、どんな奴かと思ったけど。貸してみなよ。」


振り向くと、そこには見た目10代前半位の金髪の少女が立っていた。


少女は強引に銃を奪うと、射撃を始める。何発かは外したが、零士より確かに腕は良かった。


「まぁ、ざっとこんな所ね。フフン。」


なんだか得意げだ。


「えっと、君は...」


待ってましたとばかりに自己紹介を少女は始めた。


「私?私はウルスラ。因《ちな》みにアイルランドとフィンランドのハーフだよ。先輩なんだから敬語ってやつ?日本人は使うんだよね。」


「え?あ、うん。まぁ、そうだけど。」


「じゃあこれからウルスラ先輩と呼ぶように。」


なんだかよく分からないが、不思議な子だなと思った零士。だが、ずっと1人で練習するよりはと、ウルスラの話しに乗っかる事にした。


「ウルスラ先輩。よろしければ銃の手解てほどきをお願いします。」


満面の笑みを放つウルスラ。

「よろしい!ふっふっふ。それじゃ良く見ていなさい。」


[パンッ!パンッ!パンッ!]


先程見せた時より精度は下がったが、10発撃って3発命中した。


「あれ?何か変ね。さっきより当たらない。


冷静にウルスラの射撃を見ていた零士だが、緊張がのせいか、ウルスラの肩にやや力が入った事に気付く。


「少し力が入りすぎだよ。」


「う、うっさいわねー。見てなさい!」


[パンッ!パンッ!パンッ!パンッ!」


今度は10発中5発が命中する。


「ほら、やっぱり流石私だわ。ほら、零士。ウルスラ先輩ってもう一度呼んでくれるかな?」


ウルスラの態度に思わず吹笑ってしまう零士。

「ははっ。流石だね。ウルスラ先輩。」


「よろしい!これかもウルスラ先輩と呼ぶように。」


すると後ろから有香が現れる。


「なーにがウルスラ先輩と呼ぶようにですって?あんた、正規の隊員でも訓練生でもないでしょうが!」


ウルスラは飛び上がって驚く。

「ヒャッ!何時の間に……」


「有香さん。この子関係者じゃないんですか?」


「違う違う。この子はシュネイドCEOの娘さんよ。時々ここに来て射撃訓練してるんだけよ。いくらなんでも、11歳で訓練生にはなれないわ。」


「なるほど。」


有香さんはウルスラのほおを両手で摘まむ。[ムニっ]


「ごめんなさいは?」


「ホ、ホメンラハイ……」


「よろしい。」


「零士君、ちょっと外の空気を吸おうか?」


「はい。」


ウルスラは有香が零士の方を向いている間に逃げようとする。


(んも〜。何でこの時間に……)



「あんたもよ、ウルスラ。」


飛び上がって驚くウルスラ

「ヒャアッ!」


有香と一緒に施設のから出てみると、外はすっかり暗くなっていた。


「地下にいると時間の感覚が分からなくなるから、ちゃんと毎日外に出るようにね。」


「はい。有香さん。」


「なに?」


「ありがとうございます。俺、有香さんには感謝しかないです。」


元気の無い顔になる有香。

「気にしないで。感謝の必要はないわ。むしろ零士君の両親を守れなかった事を、申し訳なく思っているから……」


「いえ、やっぱり有香さん達が居なかったら、俺はワルシャワの自宅でマフィアに殺されてました。咲だって生きて無かったかも知れません。」



「そう言ってくれるのね。分かったわ。零士君。強くなりなさい。」


「はい!もちろんそのつもりです。」


「うん。貴方なら大丈夫だと思う。貴方の目を見ていれば解る。なんだか昔の私を見ている気分になるくらい、貴方には不思議な何かを感じるは。貴方なら、戦う力のない人をしっかり守れる気がするの。」


「それ、持ち上げ過ぎなんじゃない?ボーッとしているように私には見えるんだけど。」


「貴女もねウルスラ。可能性のある子よ。」


「え?ホントに?やっぱそうか~。まぁ、有香が言うんだから間違いないか。フフフ。」


「零士君と良いパートナーになれそうね。」


零士とウルスラは、ほぼ同時に同じリアクションを取ってしまった。


「えー!?」

「えー!?」


気にせず夜空を見上げる有香。

「月が綺麗ね。良い夜だわ。」


見上げると満月だった。なんだか不思議な感覚になったが、この人なら信じて行ける。この時零士は本当にそう思った。



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