第12話戦士の感
ワルシャワ市内845号線。ヴァルハラの隊員に守られて移動中の、零士の父親が野付乗った車列が移動していた。
父親の乗る車はドイツ製のジープタイプで、前後を守る車はイギリス製のオフロードタイプの車だ。
その車内で零士の父親は彼を守る隊のリーダーレナートに、5度目の同じ質問をしていた。
🔹🔹🔹
「私の家族は、今どの辺りなんですか?無事なんでしょうか?」
レナートはヴァルハラ内でもベテランで、不安なクライアントに対する応対にも慣れていた。このシチュエーションも、何度も経験している。
「霧島さん、ご家族は我々の仲間がしっかり守っています。全員無事を確率済みです。
息子さんが予定より早く帰宅したため危うい所もありましたが、無事保護しています。ご安心を。」
それだけ言うと笑顔を見せ安心させた。
父親の名前は
「そ、そうですか。何度もすいません。」
前を走る仲間の車から、レナートの無線に連絡が入る。
「ランサーツーよりランサーリーダーへ、後20分で例の三叉路だ。右に大きく曲がる。警戒を厳に。」
「ランサーリーダー了解。カレヴィ、異常はないな。」
「全くって言って良いほどね。静かなもんだ。マフィアの襲撃から守った時と言い、隊員の練度の高さを確認しただけだったな。まぁ、空港までまだかかるが、油断しないで行こうぜ。」
「ああ、ちゃんと心得てくれていて安心したよ。ゴールが見えた時程気持ちを引き締めないとな。ランサースリー聞こえるか?状況を報告してくれ。」
今度は後部の車と連絡を取る。
「こちらランサースリー。ロドリゴ。異常なし、付けてくる車も確認出来ず。」
「了解した。引き続き警戒を頼む。あと20分で
「了解。警戒する。オーバー。」
レナートは長年の経験で、この静かな状況こそ1番警戒しなければ行けない事を知っていた。彼の部下も全員歴戦のプロだとしても。
「さて、このまま通してくれると良いが。
有香の奴が言っていた通り、マフィアだけならなんとかなるが、どおも嫌な予感もする。空港にいるドミニクにも連絡した方が良さそうだな。」
ワルシャワ郊外にある、小規模なジャクタ市営空港。
普段は小型機を中心とした離着陸があるだけの、物静かな場所だ。
しかし今日は、普段と違った光景がそこにはあった。
空港管制塔室内は、正体不明のクライアントと、そのクライアントから支払われた金の使い道で職員は盛り上がっていた。
🔸🔸🔸
「今日は貸し切りって、どんだけ金持ちなんだよ。まぁ、金払いが良いからこっちは文句ないけどよ。」
「1人あたり、米ドルにして*1万3千ドルか。さて、車のローンが溜まっているからそれに使うか。お前はどうする?」
*約147万円
「そうだな。かみさんと久しぶりに旅行でも行くさ。しかし、待合室にいる連中、社長も近寄るなって言ってたけど、何者なんだ。
目付きと言い身体着きと言い、明らかにただ者じゃないよな?」
「よしとこうぜ、触らぬ神にってやつさ」
「そうだな......」
空港待合室。待合室内には10人の男女がおり、携帯やスマホで連絡を取り合ったり、周囲を警戒していた。
その中で中年の、凄味のある顔をした長身の男が携帯で話をしながら指示を出している。
🔹🔹🔹
「こちらは異常なしだ。レナート、セイバー隊が1番遅れているが、そちらも後40分もあれば合流出来るだろう。ああ、心配ないさ了解だ。また連絡してくれ。」
男はそれだけ言うと通話を切った。
「さて、ここまでは順調だが、油断するなよ」
部下達が応える。
「了解!」
レナート達は最も早く、845号線を抜けようとしていた。
🔹🔹🔹
「空港は大丈夫みたいだ。そろそろだな。ランサーリーダーより各車へ、238号線に入る、警戒を厳に。」
「ランサーツー了解。」
「ランサースリー了解。」
レナート達が広い道路238号線に出て直ぐ、300メートル程先に警察の車両が3台見えて来た。それを先頭車両のカレヴイが双眼鏡で確認する。
「ん?パトカーだと...可笑しいな、普段この道にスピード違反の取り締まりは居ないはずだが......
レナートに連絡するか。こちらランサーツー、前方約280メートル程先に警察車両3台を確認。武器を隠せ。対応は予定通りP1。」
「ランサーリーダー了解。何か有るかもな。油断するなよ。」
「ランサースリー了解。」
警官達が設置した車止の2メートル程前で、先頭のカレヴイの車両が止まる。
警官達は6人おり、それぞれの車にに1人づつ近づいて来た。先頭車両のカレヴイが窓を3分の1開けて警官に話しかける。
「何かあったんですか?」
「すいませんね。ちょっとこの先で交通事故がありまして、もう事故車の回収は終わったのですが、事故車を乗せたトレーラーが出発するのを待っているんですよ。」
「あー、そうだったんですか。 」
「待たせてすいません。旅行ですか?」
「いえ、我々は日本の自動車会社の社員でして、後ろの車に乗る日本人の上司と一緒に、ドイツから来た有名な部品メーカーの役員を、この先のホテルに送る途中なんです。
あー、ドイツ人の役員は1番後ろの車です。」
「そうでしたか。良い車を期待してますよ。」
それだけ言うと、警官はパトカーに戻って行った。他の警官達も、レナート達の車に乗る乗員の顔を確認しただけでパトカーに戻って行く。
パトカーに戻った警官の1人が、無線で警官はどこかに連絡を入れている。
「はい、確認しました——ええ、了解です。」
それだけ言うと、他の警官に手でレナート達を先に行かせるようジェスチャーをする。車止めを退かした警官が、カレヴィの車に近づいて来る。
「お待たせしました。どうぞ通ってください。」
「ありがとう。それじゃあ。」
レナート達の車列はその場を離れた。警官達の姿が見えなくなった後。
「妙な感じだな。警戒を
レナートは今までにない警戒心をいだいた。238
看板自体は高さ20メートル、長さは30メートル。ピエロのような姿の男が、子供達にハンバーガーを笑顔で勧めているのが特徴的だ。その巨大看板の反対側には、広大な雑木林が広がっていた。
◾️◾️◾️
「今クレムリンから連絡が届いた。日本人を乗せた車の車列が、あと15分程でここを通る。3台中真ん中がターゲットだ。お前ら準備しろ。」
ヴァレリーの仲間の1人がつぶやく。
「ここに来るまで150キロ近くスピード出して飛ばしたのに、俺達を見た警官は、みんなただ見送るだけだったな。やっぱクレムリンすげーわ。信号も1度も止まらなかったのによ。」
ヴァレリーはにやけた。
「ああ、楽なもんだろ?さて、後は日本人を始末するだけだ。気合いを入れろ!」
「ダー〔はい〕!」
何事もなく移動していたレナート達だが、リーダーのレナートは異常に気付いていた。
🔹🔹🔹
「やはり妙だな。さっきから対向車が通らない、空港のドミニクは異常は無いと言っていたが、この先に何か待ち構えている可能性が高いな......よし。
ランサーリーダーから各車へ、やはり妙だ、警察の通行止めを越えてから対向車が通らない。この先の三叉路のカーブは特に用心してくれ。」
「確かにな。ランサーツー、カレヴィ了解。」
「ランサースリー、ロドリゴ了解。後ろにも俺達以外車が見えない。警戒する。」
およそ15分後。
「ランサーツーより各車へ、間もなく三叉路、右カーブに入る。カーブ中央、ハンバーガー屋のデカイ看板に注意してくれ。」
「ランサーリーダー了解だ。」
「ランサースリー了解。」
そのレナート達を、双眼鏡で確認するヴァレリー。
◾️◾️◾️
「やっと来やがったか。お前ら準備はいいな?」
「いつでもokですぜ。」
「待ってました!やってやらー!」
「先頭の車は任せてください、ヴァレリー。」
続けてヴァレリーは手下達に指示を出す。
「よし、先頭の車の狙撃はギルシュにガーシャに任せる。2台目はドーリャにマカール、3台目はアントンにドニだ。後は俺に付いてこい、突撃だ!」
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