第11話策謀

 エゴールからの連絡を受けた後、ヴァレリーと仲間達は零士達家族を襲撃する為の装備をき集め始めた。

根城としている5階建ての雑居ビル、同地下駐車場。


 赤い髪色をした男、ジノは集められた銃器の前であきれていた。


「なんだこりゃ?AK47に74Mにスカーまであるのかよ。調達した時期で、銃の種類がバラバラじゃねえか。」

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AK47は1949年に旧ソ連で採用されたミハイル.カラシニコフが設計した自動小銃で、世界で1億丁以上製造された銃だ。口径は7.62ミリ。74Mは近代化版で口径5.45ミリ。製造イズマッシュ社。

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スカー手にしたダヴィードが構わず指示を出した。

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スカーはベルギーのFNハースタル社でアメリカの特殊部隊向けに作られた自動小銃、口径5.56ミリ。


「狙撃をする奴はドラグノフとPSG1だ。PSGは数が少ない、腕の良い奴に持たせろ。ジノ、銃に変わりはねえさ、良いから手に取れって。」

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 ドラグノフは旧ソ連で、AK47を参考にエフゲニー.F.ドラグノフが開発した半自動狙撃銃。PSG-1はドイツのH&K社製の半自動狙撃銃だ。口径はどちらも7.62ミリ。



それからおよそ15分後。ヴァレリーが号令を出す。


 「出発だ!俺は先に32号線を通過する父親を襲う、お前達は指定したポイントへ向かえ。連中の目的地はジャクタ飛行場だ。そこに行かせるなよ。」


 それだけ言うと、ヴァレリーは車に乗り込み、3台の車を従えて出発した。他の仲間達もそれぞれに雑居ビルを出る。

 ヴァレリー達が出発する20分前。

零士は有香達と一緒にまだワルシャワ市内を車で移動中だった。

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「はぁ、こりゃついてないな。渋滞に捕まったせいで、俺達の班が1番遅れているな。」


ゲンさんはだいぶイライラしているように見えた。


「仕方ないわ。あ、まだ零士君のお父さんが、何をしていたか説明してなかったわよね。信じられないだろうけど———」



有香さんが話してくれた内容は、まるで漫画か小説の中の世界だった。

親父は大手自動車メーカーの管理職で、ポーランドに立ち上げる車の工場で、現場責任者として働いている、はずだった。


しかし、それは表向きの姿で、実際には外務省の情報監理局でスパイ活動をしており、ポーランド国内に居る核兵器開発技術者の引き抜きをしている北朝鮮の工作員を、ドイツやフランスの情報局員と共同で阻止する為に活動していた——


「話は大体こんな所ね。引き抜きを阻止された北朝鮮は、報復にロシアの犯罪組織に金を払って、零士君とその家族を始末にかかって来たって訳。でも大丈夫、私達が来たわ。任せてね。」


それだけ言うと、有香さんは俺を安心させる為かニッコリと笑ってくれた。


 「は、はい。なんだか漫画みたいな話しだけど、もう怖い目にあっているし信じます。

 それに、有香さん凄い強いし。

父さん達もプロの人達に守られているなら安心です。」


 「うん。零士君のお父さんを守っているレナートって人はね、私達の仲間の中でも凄腕だから、きっと大丈夫よ。」


ゲンさんがそこに突っ込みを入れる。


「まぁ、うちのお嬢に喧嘩売って2本脚で立っていられた奴はいなかったからな。どんな奴が来ても返り討ちさ、安心して良いぜ。はっはっはーってな。」


「ゲンさん、髭と一緒に鼻毛も全部引っこ抜かれたいの?」


「じょ、冗談だよ冗談。(事実も含まれてるけどな)ボソ)」


「聞こえてるけど」


「失礼しました~。」


そこにハンドルを握るハンスさんが。


「せめて英語で会話してくれないか?」


初めてハンスさんの声を聞いたが、俳優みたいな低くて渋い声だった。


「ははは、後で説明してやるよ。」


俺達はこの先何が待ち受けているかも知らず、少しなごやかな空気の中にいた———


それから10分程して……


「有香さん、このままワルシャワ国際空港に向かうんじゃないんですか?」


 「いいえ。おそらくさっき零士君を襲った男達の仲間が見張っているでしょう。

 だから、郊外にある小規模な空港から脱出する手筈てはずになっているわ。大丈夫。そこにも仲間がいるから安全よ。」



「解りました。父さん達の事ももちろん心配だけど、有香さんの仲間の人達を信じます。」


「ありがとう零士君。うん。大丈夫大丈夫。マフィアごとき敵じゃないから任せてね。」


 そう言うと有香さんはニッコリと笑顔を見せてくれた。

 この時は、確かに妙な安心感があった。この人達に任せておけば大丈夫だと———


 時間をさかのぼりヴァレリーが出発する20分程前。ロシア、モスクワ市内赤の広場。ホテルクレムリン支配人室。

 支配人室には既にエゴールとレフ以外に複数の幹部が集まり、巨大な地図をテーブルの上に乗せ、複数のノートPCも置かれて作戦会議をしていた。


ボスであるボリスが、次々入って来るポーランド警察からの情報に耳を傾ける。


「今父親を乗せた車は845号線、スリースターズホテル前辺りか、もうすぐ中心部から外れるな。他はどうなっている?」


高級そうなグレーのスーツに身を包んだ金髪の男が応える。


「母親は556号線、シエラオイルスタンド前です。娘は783号線、レストラン上海前。息子が1番遅れているようですね。」


エゴールは空港を指差す。

「陸路の脱出はリスクが高い、だがどおも郊外に出ようとしているみたいですな。他の都市の空港から出る気か、そのまま裏を書いてワルシャワ国際空港から出るか……」


「そうだな。ヴァレリーの奴はどうしてる?」


「奴なら部下を集めている最中です。近隣にほとんど住んでいるみたいですが、武器を整えるのも含めて20分は欲しいと言ってました。」


「急がせろ。さて、空港でドンパチは目立つな。空港到着前、なるべく目立たない所で仕止めたいが。」


先程の金髪の男がある事に気付いた。

「845号線?」


「トレント、何か引っかかるのか?」


「ええ、このままだと父親はブーク川を越える。もしかしたら.....」


 そう言うと地図を食い入るように見つめる。零士達家族の移動ルートから、目的地を割り出そうとする。


「なるほど、連中の目的地はワルシャワ国際空港でも、他の都市空港でも無いかもしれませんぜ。おそらくこの小規模なジャクタ空港でしょう。」


 指さした先にはプライベートジェットや自家用レシプロ機専用の小規模な市営空港があった。全員の目が一点に集中する。



「なるほどな。どこら辺で襲うのがベストなんだ?トレント。」


 「俺が父親を殺るなら、この238号線の先の三叉路さんさろです。

大きく右に曲がるカーブがありますが、この小さい空港に向かうのに、通らないと行けません。


 連中は早く国外脱出したいから、ある程度スピードを出しているでしょうが、大きなカーブに入る時はどうしても減速しないと行けない。


 それにここは見晴らしも良い、なにより一本道で逃げ場がない。

 襲う側にも発見されるのが早いからリスクはありますが.....ボス、ポーランド警察に頼んで道路を封鎖すれば目撃者もなく、他の家族も含めて上手く処理できる出来るでしょう。」


「やれやれ、また払う金が増えそうだな。」


ボリスは溜息をつく。だが直ぐに顔を上げ。


「よし、他の家族はどこがベストか教えてくれ、元軍人の戦略眼、頼りにしてるぜトレント。」


「了解です。」


トレントは笑顔になる。

「まず母親ですが——」


およそ5分後。


エゴールがヴァレリーに連絡を入れる


「俺だ。仲間は集まったか?来ない奴は放っておけ。準備出来次第出発するんだ、良いな。今から襲撃ポイントを指示する。頼んだぞヴァレリー。」

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