第10話危険な男

 エゴールの提案に、髭の男の表情はけわしくなった。


「しかしだなぁ.....。」


 「このまま失敗しましただと、クライアントの北朝鮮大使館の連中に、前金も含めて返さないと行けません。

 何より、ゲオルグ坊っちゃんの仇も討てません。」


「.........確かにな。だが、大丈夫なのか?警察には手を回してあるが、あまり派手にやらかすのは、こっちにも火の粉が飛んで来ないか?」


 「この際仕方ないでしょう。父親だけは確実に始末する必要があります。

 警察に払う金は、北朝鮮大使館に言えばなんとかなりますよ。うち以外に政治屋にも顔が利くのは少ないですから。

 息子は見せしめに始末。

母親と娘は父親が逃走した際の人質に。

 後に北朝鮮に引き渡す約束ですが、始末する約束の父親も逃げ切れば、裏の業界で知れ渡ったクレムリンの名前に傷がつきます。」



「解った。他に必要な物はなんだ?」



 「ボス、ポーランドの警察に、また手を回してください。

 監視カメラの映像から、奴等の移動ルートを割り出して、そこにヴァレリーを先回りさせるんですよ。」


「なるほどな。」


それだけ言うと、ボスと呼ばれた男は携帯電話を取り出す。


 「ああ、俺だ、ボリスだ。実は厄介な事になってな——ああ、話が早くて助かるぜ。

 その日本人について、実は緊急で頼みたい事があるんだ.........そうだ、以前説明した、その複数の場所の監視カメラの映像から、割り出して貰いたい車が数台あってな———」


————————————————————

数分後。

 「そうか、特定できるか、すまないな。じゃあその特定出来た車のナンバーが解ったら、連絡をくれ。ああ、分かっている。」


通話を切り、エゴールに向かってうなずく。


 ボリスが会話を終えた後、間も無く次々に部下達からレフの携帯に連絡が入った。


「ああ、俺だ。そうか、娘の拘束には失礼したか。ん?それたけかって?ああ、お前達がしくじるのは解っていた。

 腕の立つ連中にやられたんだろ?で、何人やられた?そうか、解った。もう戻って構わない。ああ、死体の回収なんて出来ないからな、切るぞ。」



[ピッ。]通話を切るとレフはボリスの方を向く。


「アキムの方も失敗です。生き残りは二人、他は全て殺られました。」


「やはりな。て、事は、連絡がない他の奴等は全滅か。」


「そうでしょうね。1番腕の良いロジオンさんが殺られるなんて、噂以上かもしれません。」


「1番信頼していたから、古株のロジオンには父親の始末を任せたんだがな。」


「最重要目標として、ヴァルハラの連中は精鋭を付けてたんでしょう。」


それかおよそ10分後にボリスの携帯の着信が鳴る。


「おう、早かったな。そうか.....エゴールのスマホにナンバーのハッキリ映った車の画像を送ってくれ、出来るか?

すまないな、政界については、モスクワにも話しは通してある、礼については任せてくれ。ああ、助かったぜ。またな。」


————————————————————

すると数分後。


「来ました。かなりハッキリ映ってるから、これなら大丈夫でしょう。ヴァレリーに連絡を取ります。」


        ***

ポーランド、ワルシャワ市内北部にある5階建ての雑居ビルの一室。

ネットゲームに集中する、金髪にパンク風の服装の若者が1人PC画面に向かっていた。

男の名はヴァレリー。左の肩にある死神の刺青が、一見どこにでも居る感じのこの若者に、唯一違和感を与えていた。


「だー!ちくしょうがっ!つええなこいつ。よし、もう一戦だ一戦。」


そこにヴァレリーのスマホの着信音が鳴る。


「チッ、誰だ~?これからって時に、空気読めない奴だなー。無視無視。」


と言いつつスマホの画面を見るヴァレリー。


「あっ!?エゴールさんからだ!」


あわててスマホを手にした。


「はい!エゴールさんですか?」


「ああ、俺だ。元気そうだなヴァレリー。実はな、お前に頼みたい仕事があるんだ。聞いてくれるか?」


「仕事ですか?俺に出来る事なら引き受けますが。その……」


「お前、ロシアに戻りたがっていたよな?上手く仕事をこなせたら、ボスが戻って来て良いと言ってくれたんだ。」


「えっ?!本当ですか!どんな仕事なんですか?」


エゴールはヴァレリーの反応に、思わず吹き出してしまう。


「ふっ。まぁ落ち着けよ。お前にしか頼めない仕事だ。今から説明するからよく聞け。」


エゴールはヴァレリーのスマホに複数の画像を送った。

「———この日本人家族を、父親と息子は始末。母親と娘はクライアントに引き渡す為に生け捕りですか.....。」


「そうだ。だが奴等はボディーガードを雇っている、なかなかの凄腕だ。お前も、お前の仲間も元軍人が何人か居るから大丈夫だとは思うが、出来るか?」


考えこむヴァレリー。


「駄目なら他に回すしかないがな.....。」


「仲間に犠牲が出るかもしれない.....だが、これを逃したらロシアに戻れなくなる.....。」


「やらせてください!エゴールさん!」


「やってくれるか、流石は俺が見込んだ男だ。送った車の画像な、どれも真ん中の車が対象だ。しくじるなよ。」


「任せてください!今から仲間を集めます。指定の場所に先回りして仕留めれば良いんですね?母親と娘は生け捕りに。」


「ああ、頼んだぞヴァレリー。お前に目をかけるのは、単に俺と同郷ってだけじゃねえ。

お前の元スペッツナズ時代の腕を、俺が買っているからなんだぜ。期待を裏切るなよ。」


「はい!それじゃあ。」


通話を切ると、ヴァレリーはふるえ出す。

「ふふ、あははは、やったぜ!ついに俺にも運が回って来た、早速召集だ!」


そう言うと、ヴァレリーは隣の部屋に居る仲間の所に走り出し、勢いよくドアが開くいた。


「お前ら仕事だ!仕事!全員集めろ!大仕事だぞ!」


部下達の居る部屋は広く、縦に8メートル、横は20メートル以上あり、ビリヤード台まである。

そこに、如何いかにもな顔つきの男達が10人以上いて、男達が呼んだ娼婦と思われる女性の姿もあった。


「どうしたんですかい?なんだか嬉しそうだけど。」


赤く髪を染めた男が笑いながら話しかける。


「なんだ、また商売女を呼び込んでいやがったのか?まぁ良い。いいか、聞いて驚け!今から言う仕事を上手くやれば、俺達ロシアに戻れるんだぜ!だから全員集めろ。」


ヴァレリーの言葉に、部下の男達は全員どよめいた。赤髪の男は驚いた表情でヴァレリーに尋ねる。


「ヴァレリー本当ですかい?あれだけ派手にやらかしたのに、クレムリンは戻って来て良いって。」


「ああ、だが、これを逃したら後は無いと思えよお前ら。全員集めろ。いいか、今から手筈てはずを説明する。まずは——」


ヴァレリーは部下の男達に始末する相手、捕らえる相手、襲撃ポイントとやり方を説明した。


「なるほど、相手は日本人とそのボディーガードか、父親は誰が襲うんですかい?」


いかつい顔つきの男が尋ねた。

「それは俺が行く、1番仕留めなきゃならない相手だからな。息子はダヴィード、お前が殺るんだ。

お前も元スペッツナズだからな、頼んだぞ。」


「ガキ相手は気乗りしないが、まぁ、モスクワに戻れるなら行きますよ。」


左のほおに傷のある男が応えた。

「母親はジノ、娘はコーチャだ。グループ分けは任せる。だが、今から言う奴は俺と一緒だ。

ここに居ない奴は直ぐに呼べ。」


男達は一斉に応える。

「ダー!〔はい〕」


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