四葉、大ピンチ(※)


 十二月二十四日、苦手な外の世界に出た四葉の表情は期待と不安、半々といったところ。

 濃いめの紺色のハーフコートは細身の四葉には少しばかり大きい。短く切った髪も少し伸びた。


 二人で話し合って決めた待ち合わせ場所、電車で少し離れた二つ程隣の街。夢咲町や隣町の尾姐咲町よりも栄えていて若者が集う街だ。


 キュッと小さくなりながら電車に乗り挙動不審で壁に張り付きやり過ごした四葉は駅に着くなり人混みを切るように外へ。


「わぁ、綺麗!」


 外はクリスマス一色。飾り付けも勿論クリスマス仕様、周囲にはカップルだらけ。


「よ、四葉とお兄ちゃんも、あんな風に見えるかな……?」


 四葉は待ち合わせ場所の広場に到着。

 ベンチにはラブラブカップルの先客、噴水前にも人が犇いていて四葉には息苦しい。それでも兄、咲良の来るのを待ちたかったのは、ちょっとした乙女心だろうか。


「よぉ君、俺達と遊ばね?」

「彼氏待ち?」

「待たせる彼氏より俺らと遊んだ方が楽しいぜ?」


「ふぇっ……そ、その……困りますっ……!」


 高野四葉、彼女は可愛い。スラッとした細い身体にまだあどけなさはあるが綺麗な顔立ち。まつ毛も上向きで将来的にはかなりの美人となるであろう。

 そんな彼女をチャラ男達が放っておく訳もなく、まんまとナンパに洒落込まれたようだ。


「あまり見ない顔だね〜?」

「ほらほら、クリスマスイブなんだし、俺らと思い出つくろうぜ?」

「優しいお兄ちゃん達が手取り足取り教えてやるからさ〜、へへ。」


「ほ、ほほ他をっ……当たってくださひっ!?」


「そんなにテンパらなくてもいいじゃんか。」

「優しいお兄ちゃんですよ〜?」

「彼氏なんか忘れさせてやるからよ〜?」



 男達は強制的に四葉の手を握る。抵抗するが女性、その上、引きこもりの少女が三人の男の力に勝てる訳もない。

 その時だった。



「ちょっとそこのチャラ男、嫌がってるじゃない。放してあげなさいよ?」



 冷たい空気に少女の声が響いた。その声はチャラ男達に向けられている。チャラ男達は声の方に向き直り、そこに立つ小さな少女を見るとクスクスと笑う。


「くっくく……なんだぁチビ。俺達は今、忙しいんだよ。ガキに構ってる暇はないんだよ。」

「いや、待てよ。コイツもチビだけど中々の上玉だぞ?」

「髪、ピンクとかスゲェな。尻尾とか、コスプレかよ。でもまぁ、一回こんな女ともヤッてみたかったんだよな〜?」


 そこに立つピンクブロンドの髪に黒い尻尾の生えた少女は、その自慢の尻尾をピンと立てた。


「あ、そ。……で、アンタ達、遺言は言い終えたかしら?」


「あぁ?」「はぁ?」「なんだぁ!?」


 一触即発の状況、そんな時、男の声が場を制する。それは少女の後ろにいた少年の声だ。


「リリィ、ソウルイーターはやめとけよ。イブの日に人が死ぬことになるぞ?」

「何よ漢路かんじ。こんな奴ら、数人死んでも世の中何も変わらないわよ。」

「まぁ、そりゃそうだけど。」

「ちょっと脅かすだけよ。」

「ちょっとだけだぞ?」


 リリィと呼ばれるピンクブロンドの少女はチャラ男達を見上げる。尻尾は左右に振りながら。

 チャラ男達は少女を見下すようにして囲み、






 尻尾を巻いて逃げ帰った。

 まさに電光石火の如くチャラ男達の大事なものを玉砕したリリィ。四葉は驚きを隠せないといった顔で瞳を瞬かせた。


「あ、ありがとうございますっ!」

「礼には及ばないわよ。今後は気をつけるのよ?」


 四葉の目はキラキラと輝く。目の前の小さな少女が眩しくて仕方ないといった表情で何度もお礼をした。


「それじゃ、私達は行くわ。アンタもイブを楽しみなさい?」

「あ、はいっ……あ、あああのっ……名前……よ、四葉です。高野四葉、貴女の名前は……?」


「リリィよ。リリィ=ホイップ=ラ=ショコラティエ、サキュバスよ。じゃあね。」


 少女リリィはそれだけ言って一緒にいた少年、漢路と繁華街へと消えた。四葉は小さく手を振りながら少し興奮した面持ちで小さく微笑んだ。


「格好良かったなぁ〜……四葉もあんな風に強くなれたらいいのに。それなら……」


 四葉は広場の時計に目を向ける。そろそろ咲良が来てもいい頃だ。先程まで愛の巣と化していたベンチが空いているのを確認した四葉は、ベンチの端っこに座り、大好きな兄の到着を待つ事にした。



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