迫るXデー


 警察沙汰から早二ヶ月、十月も終わりを迎える頃も僕達ラノベ同好会は定期的に集まっては本を読んでいた。

 朱里さんはあれから僕と四葉ちゃんの事は聞いてこない。会社でもラノベの話はするけれど。


 ナツナツはいつも通りニコニコして四葉ちゃんに甘えているけど、すぐに朱里さんに捕まって愛でられる日々だ。

 色々あったけれども、この関係は壊れずに済んだみたいで良かったな。皆んなの存在は四葉ちゃんにとって大事だから。


 いや、もはや僕にとってもだ。




 そんな楽しい日々を過ごして迎えた十二月、日にちにして二十三日。


 僕は明日、イブの夜に四葉ちゃんと一日デートを控えている。いつものようにカレーを作る四葉ちゃんに僕は声をかけた。


「四葉ちゃん、明日のデート……」

「……言わないで。それ以上は言わないで。」

「な、んで……約束しただろ?」

「……お兄ちゃん……」


 四葉ちゃんは鍋を火を消しこちらへ向き直ると目を合わせる事なく口を開いた。


「いいの、四葉学校行けなかったし……約束破っちゃったから。デートは、な、無しだよ。」


 そんな事を気にして……


「仕方ないよ、あんな事されたんだから。それに僕は四葉ちゃんとのデート、楽しみにしてたんだぞ?」

「そ、それは四葉だって……でも……やっぱり駄目だよ……お兄ちゃん、最近優し過ぎるくらいだし、気を遣ってくれてるんだって分かる……でも、四葉はお兄ちゃんの人生の邪魔は出来ないよ。」

「四葉ちゃん、僕は……」


 ガタン、と床におたまが落下した。それと同時に、これまで聞いたこともないような四葉ちゃんの怒号にも似た叫び声が響く。


「もう優しくしないでっ! 四葉は諦めようとしてるのにっ、そんなに優しくされたら揺らいじゃうよ……もういいの、お兄ちゃん……無理しないでいいからっ……四葉諦めるからっ!

 分かってたんだよ、最初から……こんな願いが叶うわけないって知ってる……! ワガママだって分かってる! お願いだから希望をチラつかせないでよ! お兄ちゃんのばかっ!」


 そう言って四葉ちゃんは床にへたり込んでしまった。細い肩で息をする四葉ちゃんの身体は小さく震えている。

 自らの指で片頬を強くつねりながら唇を噛みしめる四葉ちゃんに僕は言った。


「……四葉ちゃん、僕は四葉ちゃんが好きだ。」


「……えっ……? ……え!?」


 四葉ちゃんは目を丸くして素っ頓狂な声を上げる。僕は構わずこう続けた。


「本当はデートの日に言おうと思ってたんだけどさ。……僕達は血は繋がってなくても兄妹、こんな事は間違っているって周りの人達は言うかも知れない。だけど、僕は四葉ちゃんを守りたい。」

「ほ、本気で……言ってる……の?」

「本気だ。」

「ほんきの本気? 嘘じゃないの? でも……お兄ちゃん……」

「本気だよ。それとも僕じゃ嫌?」

「あぅっ……い、や……じゃない……」


 僕は頬を紅潮させた四葉ちゃんの頭を撫でる。ふわっとした栗色の髪からはとても良い香りがする。


「……明日、楽しみだな。」


「……うん……し、信じていい……んだよね……? ゆ、夢じゃないんだよね?」


「信じてくれ。明日は恋人っぽく、駅で待ち合わせだ。な?」


「……やったぁ……お兄ちゃんは四葉のもの? 他の女の人は見ないでよ!?」



 こうして僕は四葉ちゃんに想いを伝えた。

 そして四葉ちゃんは戸惑いながらもそれを受け入れて、いつもの笑顔を見せた。

 眩しい、眩しい笑顔。




 …………翌日、


 十二月二十四日、午前九時半過ぎ、僕は家を出る支度に追われていた。

 四葉ちゃんの姿はない。何故なら、四葉ちゃんは一足先に駅へ向かっているからだ。どうしても先に行って待ちたいと聞かなかったから、当初予定していたのとは違う四葉ちゃん先行に切り替えた訳だ。


 財布、スマホ、上着も着た。

 こんなものか。




 僕は玄関のドアに手をかけた。




 ……………………



 この後の記憶を、僕は少しばかり失う事となる。



 …………

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