ただいま、、おかえり、、



 僕が学校に押し入った事は四葉ちゃんには知れていない。勿論、あの親達にも。

 朱里さんが来てくれたおかげなんだけれど。


 四葉ちゃん、どうしてるかな?

 早く家に帰ってあげないと。




 ……


 この……香りは……


「ただいま。」


 僕はいつもただいまを言う。一人の時も。簡単に言うと、所謂クセのものだ。だけれど今は、


「あ、おかえり……お兄ちゃん……今日は早いね?」


『おかえり』を言ってくれる人がいる。

 小さな頃から、ずっと、ずっと……それこそ毎日のように、『おかえり』と笑いかけてくれた四葉ちゃんがいる。


 いつしかそれが当たり前になり、何とも思わなくもなっていた『おかえり』の言葉が、四葉ちゃんの声が、今、たまらなく愛しい。


 テクテクと玄関まで歩いて来たパジャマ姿の四葉ちゃんの目元は涙の跡でただれてしまっている。

 僕はそんな華奢な四葉ちゃんを抱き寄せる。細くも女性的な柔らかな感触、驚いたのかピクンと身体を震わせながら上目遣いで僕を見る四葉ちゃん。


「……ご飯、しよっか。」

「う、うんっ……お、お兄ちゃん?」


 四葉ちゃんは首を傾げ瞳を瞬かせ、何かに気付き表情を曇らせた。

 そして細い指先で僕の目元をなぞる。


「お兄ちゃん、泣いた?」

「……え、いや。」

「嘘。……クンクン、これは……朱里さんフレグランス……?」

「お、同じ部屋で仕事してるからね……」

「お兄ちゃん、苦しいよ。早くご飯しよ?」

「あ、あぁ……悪いわるい。」


 リビングに入る事で先程から漂ってきていた良い香りの正体が明らかになる。

 四葉ちゃんの得意料理、カレーだ。というか、それしか作れないみたいだけれど。空腹で帰って来た僕にとっては最高の環境が整っている。


「大盛りでいいよね?」

「……ん、あぁ、頼んでいいか?」

「うん。」



 こうやって、いつまでも二人で過ごしていけたら、どれだけ幸せだろうか。

 そんな事を考えてしまう僕は、


 ——やはり、おかしくなってしまったのか。



 朱里さんが別れ際に見せた表情を思い出す。彼女の言葉に耳を傾けられなかった。


 ——何を、言ってたんだろうか。


「はい、食べよ?」


 無理して笑う四葉ちゃんの声が僕を思考の海から現実に引きずり戻した。

 確か、妹物のラブコメでもこんな風に兄妹が想い合う展開があったな。



 僕はラノベ主人公、


 妹、四葉ちゃんは、ヒロイン、





 あの類いのラブコメの最終話って、



 ……まだ読んだ事ないな。



 ……


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