四葉の決意
僕がアパートに帰ると、玄関の外にパジャマ姿の四葉ちゃんがいた。しかも裸足で。
「……四葉ちゃん?」
その声にピクンと反応した四葉ちゃんは大きな瞳を更に大きくして僕を見た。
すると見る見るうちに表情は怒りモードに。また怒られてしまうのだろうか。と、そんな思考を巡らせていると、今度は瞳を潤ませては頬を染める。
そして無言で僕の胸に飛び込んで来た。
「あの……四葉、ちゃん?」
「四葉、決めたよ!」
……え。突然どうしたんだろうか?
「四葉、決めたんだよ! 頭に血がのぼってお兄ちゃんに色々バレちゃったし、もう全部バラしてあげるんだから! お兄ちゃん、四葉の部屋に来て!」
……いや、僕の部屋な。
それはそうと、四葉ちゃんのテンションが異様だな。久しぶりに口をきいてくれたと思うとこれだ。
僕は言われるがまま四葉ちゃんの……いや、僕の部屋へ連行された。
部屋はもはや僕の部屋だった頃の面影がゼロに等しい変貌ぶりだ。四葉ちゃんは電源入れっぱなしのパソコンを操作しては何やらサイトを開く。
大体予想はついているけれど、うん、やっぱりそうだ。小説投稿サイトのパソコン版の画面だな。
「お、お兄ちゃんっ! よ、四葉、実は……」
「うん、知ってるよ。クローバーさんって四葉ちゃんなんだな。楽しく読ませてもらってるよ。」
「……え? ……えぇっ!!」
「因みに感想の返信、長すぎな。」
「えぇっ!? あ、あの感想っ……」
「僕とナツナツだ。ナツナツは四葉ちゃんとは気付いてないみたいだけど。とはいえ、僕もこの前四葉ちゃんに言われた言葉を聞いて確信したんだけど。」
四葉ちゃんは顔を真っ赤にして部屋の中を歩き回っては頬を指で摘む。
少し落ち着いたのか、深呼吸を一つ。そして僕の方に向き直り口を開いた。
「ど、どう、かな? 面白いかな?」
「内容はぶっ飛んでるけれど普通に面白いと思うよ。既にヒロインのライバルが五人は天に召されたけどな。」
「そ……そう……な、なんでこんな馬鹿な小説書いてるか知ってる……よね……」
「ま、まぁ……この前言われた通り……なら。」
四葉ちゃんは頬っぺをパンパンと叩き、
「お兄ちゃん、四葉……が、頑張って学校……行ってみるよ。」
「学校に……?」
「うん……頑張る。……頑張るから……お兄ちゃんにお願いがあるんだ。」
聞いてやれるお願いなら聞いてやらないと。
これで四葉ちゃんが学校に行けるようになるなら。四葉ちゃん、色々吐き出して少しスッキリしたのかも知れないな。
「今年のクリスマスプレゼント……なんだけど。」
気の早いこと。まだ暑いのに。
「今年のクリスマスはね……お兄ちゃんとデートがしたい……な。わ、分かってるの、四葉とお兄ちゃんは兄妹だから……そんな気持ちになるのは間違ってるって……だからその日だけ……夢を見たいの。
……そしたら四葉、お兄ちゃんの事、諦める。」
……そっか。色々考えて、四葉ちゃんなりに出した答えなのかも知れないな。
一日。たった一日だ。
「……分かった。今度は約束、破らないから。」
「うん、絶対だからね……? もう何だか恥ずかしい気持ちとかどうでも良くなっちゃった。四葉はお兄ちゃんが好き。酷いこと言っちゃってごめんなさい。四葉のこと、嫌いになってないかな?」
なる訳ないよ、四葉ちゃん。
僕は四葉ちゃんの頭を撫でてあげた。短くなった髪はとてもサラサラしている。小さく細い身体は小さく震えている。
何はともあれ、兄妹喧嘩は解決、かな。
「お腹空いたし、何か食べようか。」
「うん。」
「食べたらゲームでもするか。」
「うん、負けないよ?」
僕は四葉ちゃんと約束した。
クリスマスの日、一日だけ四葉ちゃんの彼氏になる事を。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます