木野皆実と密会


 この視線、怒りにも似た鋭い視線が僕を見据える。木野のこんな顔は長い付き合いだけれど見た事がなかった。反論は許さない、といった、そんな圧力が押し寄せてくる。


 木野はすぐに表情を和らげると、


「先輩、飲み物なくなっちゃいました〜」と、可愛く膨れて見せた。

「お、おう……何がいい、買って来てやるよ。」

「じゃぁ、コーラで!」


 さっきの表情が嘘のようだ。



 コーラを購入した僕は木野のいる二階へ足を運ぶ。


「はいよ。これでいいか?」

「あざぁ〜っす、せんぱい!」


 コーラを一口飲んで一息ついた木野は僕に視線をやると徐に口を開く。


「先輩、付き合っちゃいましょう。」

「え?」

「だから、皆実と付き合っちゃえば四葉ちゃんも諦めてくれると思いませんか?」

「思いませんよ、後輩!?」

「そうかなぁ〜、先輩??」


 何を言い出すのかと思えば、木野と僕が付き合うとか……そんな事、考えた事もなかった訳で。

 僕は内心戸惑う気持ちを表に出さないように振る舞いながら木野に言った。


「いや、好きでもない相手同士で付き合うとか良くないだろ。」

「……っ……な、なら……誰なら付き合えるんですか?」

「……だ、誰ならって……」

「そっか、やっぱり。そうなんだ。」


 な、何だよ。


「そっかそっかぁ〜、先輩、もしかして彼女が出来たとか?」

「そんなの、いる訳ないだろ。」


 断言出来る自分が悲しいが、事実だ。


「……そう、なら好きな人がいるんだね。先輩の顔を見たら分かるよ。先輩、昔から何かを誤魔化そうとすると眉毛がピクッと動くんだよ?」

「なっ……そんな事は……」

「ふんだ、先輩にフラれたぁ……」

「待て待て、木野は冗談だろうに。」

「本当、先輩って……アレだね。」



 ——ラノベ主人公。



 木野は僕にそう言って帰って行った。

 その時、こう付け加える。


 好きな人がいるなら、その人の事を一番に考えないと痛い目にあうよ、と。

 意味が分からない訳ではない。正直、このままじゃ良くないのは分かってるつもりだ。


 だからといって今までこんなモテた事がない僕は少しばかり混乱している。

 帰ったら四葉ちゃんと話そう。


 僕は四葉ちゃんの事を可愛い妹としてしか見れないんだ。分かってもらわないとな。

 そんな時、僕の視界にコンビニが映る。


「……あ、月刊クリティカル、今日新刊か。」


 朱里さんは僕の気持ちを見抜いているのだろうか。プールで言われた言葉が脳裏をよぎる。

 僕は、そうだ、天野星子を一人の女として意識している。間違いなく。


 でも、多分朱里さんは四葉ちゃんの気持ちも知っているのだろう。だから僕にはっきりしろと促してくれていたんだ。……馬鹿だな。


 これじゃまるで……ラノベ主人公じゃないか……


 ヒロイン達の気持ちに鈍感で読者をモヤモヤさせる、あの存在そのものじゃないか。



 星子は……僕の事をどう思ってるんだろうか。



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